ヒカルの碁

□saiはここにいる
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「ヒ、ヒカル!?
誰なの、その女の人は―――?」

ヒカル
「いっ、いや、お母さん、佐為は女じゃないよ!」


佐為が俺以外の人に見える様になって三日、ようやくお父さんもお母さんも佐為の云う事を信じる様になったらしい。
じいちゃんのお蔵の碁盤に宿ってた幽霊なんて聞いて、最初はやれお祓いだご祈祷だなんて騒いでたけど、害がないと分かれば現金なもんだ。今じゃ佐為を着せかえ人形にして遊んでる。


佐為
「ヒカルぅ〜、お母さんにこんな服着せられちゃったんですけど、これって女性の着物じゃないんですか?
前にあかりちゃんがこんなの着てた様な…」

ヒカル
「ぶっ…!
な、何だよ、その格好は!?」


お母さん…幾ら佐為が綺麗だからって…女の子が欲しいって云ってたから気持ちは分かるけど…

佐為は男なんだってば!


ヒカル
「よ…よりによってロリータファッションかよ…背が高いからちょっと異様だぞ?」

佐為
「私だって好きで着てる訳じゃないですよぅ(汗)
でも着ないと碁を打ってくれないって…」


俺がテスト期間で満足に碁が打てないのをいい事に『お母さんもちょっと覚えてみようかしら』なんて佐為の相手をしてるってのは聞いていた。
だからって…碁をエサにこんな服まで着せるなんて…(汗)
お母さん程度のへなちょこ碁の見返りにメイクまでさせられて、これじゃあんまり佐為が可哀想だ。


ヒカル
「そうだ、佐為!
お前俺のテストが終わるまで塔矢ん家に行ってたらどうだ?
確か海王は先週でテスト終わってる筈だし、あそこなら碁の相手には事欠かないぞ?」

佐為
「えぇっ、いいんですか?ヒカルぅVvv
それじゃ私、あの者とも塔矢とも好きなだけ碁が打てるんですね?」


嬉しそうにしちゃってまぁ…
問題は佐為をどう塔矢に説明するかなんだよなぁ…うちの親には正直に話した結果、信じて貰える迄に三日かかった訳だし…


ヒカル
「う〜ん、俺の従兄って事にでもしておくか?」

佐為
「私はどっちでもいいですよ、好きなだけ碁が打てるんなら♪」

ヒカル
「三日がかりで説明すんのもアレだし、従兄でいいか。
でも余計な事云うなよ?後が面倒なんだから」


でも好きなだけ打っていいって事は、佐為がsaiだって云わなきゃなんないって事だよな。
う〜ん、結局面倒には変わりはないんだよなぁ…待てよ?


ヒカル
「そう云や名人入院してた時ネット碁やってたよな」

佐為
『えぇ、私も一度打ちましたよね』

ヒカル
「佐為、お前入院してた事にしろ!
だからネット碁しか出来なかったんだって説明がつく!」

佐為
『そんな何年も…私何の病気だったんですか?(汗)』

ヒカル
「う…そこ迄云わなくてもいいだろ、別に。
入院生活を思い出すから聞かないでくれとか何とか云っとけよ」


取り合えず口裏を合わせる為の設定は出来た訳だから後は塔矢に電話するだけだ。
バレたらバレたで三日がかりで説明するとして、兎に角オレのテストが終わるまでは保ってくれ…


ヒカル
「と云う訳だからさ、塔矢。
オレの碁の師匠だった従兄が、退院したばっかだから生身の人間と打ちたくてしょうがないんだ。
オレは今週いっぱいテストだし、相手してやってくんねぇかなぁ?」

アキラ
『え?森下師匠じゃないキミの師匠だって?』


こいつも嬉しそうにしちゃってまぁ…ずっと謎だったオレの強さに繋がる相手だ、無理もないか。


ヒカル
「たださ、ストレス溜まると病状が悪化してまた病院に逆戻りなんて事にもなり兼ねねぇんだ。
親父さん以外にはオレの従兄の事は内緒にしててくんねぇかな?」

アキラ
『分かった…他言はしないと約束しよう。
それで彼はいつうちに?』

ヒカル
「それがさ、出来れば今日これからでもってのは都合悪ぃ?
ちょっと見た目がアレな奴でさ、お母さんの玩具にされちゃってて早くもストレス溜まり気味って感じなんだ」

アキラ
『???
(見た目がアレ?)
僕は構わないが…』

ヒカル
「じゃあ今から連れてそっち行くよ。
でもホントに三日も泊めて迷惑じゃねぇか?」

アキラ
『構わないよ。
よかったらキミも一緒に泊まって行ったらどうだ?
試験の勉強なら僕が見てやれると思うし』


成る程、その手があった!
天下の海王、頭はいい。それにオレがついてりゃ佐為も下手な事は云わないで済むだろう。

お母さんは海王の生徒に勉強を見て貰えると聞いて、張り切って差し入れの弁当を作り始めた…


アキラ
「はっ…初めまして…!」

佐為
「(塔矢にしてみれば初めましてですよねぇ/笑)
実際にお逢いするのは初めてですね」

アキラ
「えっ?どう云う事ですか?」

ヒカル
「お前、前にネットで打ってんだよ、こいつと」

アキラ
「そ、そうなのか?進藤。
それでハンドルネームは?」

ヒカル
「腰抜かすぞ、お前」

アキラ
「どう云う意味だ?勿体ぶらずに早く云ったらどうだ」

佐為
「その…saiです」

アキラ
「…………!?」


こん時の塔矢の顔ったらなかったぜ。
声も出ないでぽかんと口開けた侭、暫く佐為の顔見てんだもんな(笑)
まぁこいつの場合、見た目のインパクトも手伝ってるんだろうけど。


アキラ
「ネット碁しか出来ないって…そうか、入院してたから…それで今はもうすっかりいいんですか?」

ヒカル
「すっかりでもない。ストレスに弱いからなぁ(笑)」


この日は塔矢名人は地方に対局に行ってて佐為には打たせてやれなかった。
でも予め云っておかなかったのは正解だと塔矢は云う。
saiが家に来るなんて云ったら、タイトルが懸かってる対局も平気ですっぽかし兼ねないらしい(汗)


アキラ
「でも悪いな、却って気を遣わせてしまって…
お母さんもついて行っちゃったから正直夕食はどうしようかと思っていたんだ。
お弁当頂くよ」

佐為
「うわぁ、美味しそうvvv
私こんなの初めて食べますよ(興奮)」

アキラ
「え…?エビフライ…食べた事ないの?」

ヒカル
「あっ、ほら、こいつさ、病人食が長かったから…こう云う揚げ物とかカロリーの高いもんは一切食えなかったんだ!
(バカ、佐為!余計な事云うな!)」

佐為
「(ごめんなさ〜い/焦)
そっ、そうなんですよ、塔矢…君
らぁめんとかけぇきとかもまだ食べさせて貰えなくて」

ヒカル
「そうそう、カロリー高いからな」

アキラ
「そうなのか…大変なんですね
でもこんなに痩せてるのに…」

ヒカル
「まぁいいじゃん、食おうぜ」


やっぱり…こいつにだけは本当の事云った方がいいのかな。
でも取り合えずテストが終わる迄は…!(汗)


佐為
「ねぇヒカル、私も一緒に塔矢君に勉強習ってもいいですか?
病気してたから私何にも知らなくて…特に英語とか」

ヒカル
「そっ、そうだ、英語!
オレ特にダメなんだぁ」

アキラ
「う…僕も今中国語と韓国語も一緒に習っているから、文法とかごっちゃになっちゃってて…
丁度いい、頭の中を整理し直す為にも英語から始めようか」


あぁ…いいな、何かこう云うの…いつもは無視するか喧嘩腰でしか口をきかない塔矢とこんな風に話せるなんて。
オレ…塔矢とこう云う関係築きたかったのかな…


アキラ
「どうだ?進藤、少しは分かったか?」

ヒカル
「う〜ん、やっぱ文法がさっぱり。
でも単語の意味は大分覚えたぜ?お前教え方上手いな」

佐為
「ちゃんと覚えやすい覚え方って云うのがあるんですねぇ。
私綴りも沢山覚えましたよ♪」

ヒカル
「オレだって覚えたよ!
ホント教え方上手いよ」


褒め過ぎたのか塔矢が照れた様に話を逸らす。
そろそろ風呂が沸いた頃だから佐為に先に入る様に促した。
う…いつも後にいる佐為がいないと塔矢と二人っきりって何か緊張すんな。


佐為
「それじゃ塔矢君、お先に入らせて頂きますね?
ヒカル、私がいないからってさぼって塔矢君を困らせちゃ駄目ですよ?」

ヒカル
「わーってるよ!」

アキラ
「どうぞごゆっくり」


さぁて、何を話したもんかな。
まあ今はテストの事でも云ってりゃいいんだろうけど…

でも…塔矢は佐為がいなくなるなりとんでもない事を云い出した。


アキラ
「なぁ進藤、彼が従兄だって…あれ、嘘だろう?」

ヒカル
「なっ!何だよ、いきなり…一体何を根拠に…」

アキラ
「誤魔化すなよ。
幾ら僕が囲碁の事以外無頓着だからってこれ位は分かる。
彼は…生きた人間じゃない」

ヒカル
「なっ…」


オレは心臓が口から飛び出そうになった。
塔矢の家に来て二時間、そんな短い間に佐為の確信に触れる様な事にどうやって気付いたんだ?


アキラ
「何て云うか彼は…確かにそこにいるのに実在感がない…見て触れる事が出来るのにそこには存在しないかの様な錯覚に捕らわれる。
それにあの話し方…大凡現代人らしくない。
教えてくれ、進藤!彼は一体何者なんだ!?」

ヒカル
「やっぱりお前は騙せない…か」


オレは今迄あった全てを塔矢に話した。
じいちゃんのお蔵の事、そこにあった古い碁盤、塔矢との初めての対局―――
塔矢は信じられないと云う表情をし乍らも、黙ってオレの話を聞いていた…


ヒカル
「佐為がどうして急にオレ以外の奴にも見える様になったかは分からない…ひょっとしてお前の親父さんとの対局がきっかけになったのかも知れないけど、本当のところは何も分からないんだ。
そもそもあいつが何でお前じゃなくてオレなんかに宿ったのか自体謎だしな(苦笑)」

アキラ
「急には信じ難い話だな…しかしそれが事実だとすれば今まで謎だった事が全て説明がつく」

ヒカル
「お前にだけはいつか全部話そうと思ってたんだけど、まさかこんなに早くなるなんてな」


少し話が長くなったか…佐為がもう風呂からあがって来た。
重い空気を感じ取り、おろおろとオレの後に回り込む。


佐為
「あの…ヒカル?
どうしたんです?塔矢君と喧嘩でもしました?」

ヒカル
「いや…塔矢にはみんな話したから」

佐為
「みんな?」

アキラ
「ええ、あなたの事を。
改めまして、藤原佐為さん」

佐為
「あ………そう…そうですか…
じゃあ私、もう進藤佐為じゃないんですね」

ヒカル
「塔矢の前ではな。
お前他では藤原名乗るなよ?
それにしても塔矢が物わかりがよくて助かったぜ。
お父さんとお母さんに信じさせるには三日かかったからな(笑)」

アキラ
「僕だってまだ信じられないよ。
千年の時を生きた棋聖か…僕もそうなれたら神の一手に一歩でも近づけるだろうか」

ヒカル
「神の一手か…」


そうだ…オレも塔矢も神の一手を目指し、同じ高みへと向かって歩いている。
その道へと導いてくれたのは佐為。感謝してもしきれない――




でも…




佐為
「さあさあ塔矢!よそ見してる暇はありませんよ?
もう一局vvv」

アキラ
「進藤…相当タフだな、彼は…(汗)」

ヒカル
「オレの勉強見てくれるんじゃなかったのかよぉ…明日の英語と化学…マジやべェんだよぉ…(泣)」

佐為
「ほらぁ、何やってるんですか!
ニギリますよ?
これが終わったらヒカルの番ですからね?」

アキラ
「うぅ…お願いします…」


感謝はしてるよ佐為、でも…
オレは明日もテストなんだってば!




当然テストの結果はボロボロだった。
全てを話し塔矢とはいい関係を築けているが、佐為とはちょっと険悪なムードが流れている…
《終》




◆あとがき◆
アンケートで一位になった【アキラに逢わせて全てを話す】をSS化してみました。
アキラは信じられない乍らも静かに現実を受け入れる様な気がしたんですけどどうでしょう?
原作では名人との対局をきっかけに消えてしまった佐為ですが、このお話にはその対局をきっかけに佐為が実体化すると云う椰子間の腐女子的希望が込められています(笑)
2005/07/04


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