ヒカルの碁

□届かぬ想い
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今まで僕は負けた事なんてなかった。
大人相手にだってそうだ、子供と対局して負けるなんて考えられない。

なのに彼は―――


「アレ?塔矢じゃん。
珍しいとこで逢うな、何やってんだ?」


ああ、胸が高鳴る…キミをずっと探していたんだ。
ここで逢えたのだって偶然じゃない。


「キミを…探してたんだよ」

「は?オレを?
何でだよ、ストーカーかお前」

「スト…」

「いや、冗談だって!
おっかない顔すんなよ…ホント冗談通じねぇな、お前」


冗談…今の僕には通じる訳ないよ。僕は真剣なんだ。


「あの…進藤。
キミ…誰か付き合ってる人はいるのか?」

「はあ?何云ってんだ、お前。
小学生で付き合うとか何とか、オカシイんじゃねーの?」

「話を逸らすなよ!僕は真剣に聞いてるんだ!」

「怖…何なんだよもう…
いねぇよ、そんなヤツ」

「ほ、本当かい?
それじゃ僕が交際を申し込んだら付き合ってくれる?」

「はあぁ!?」

彼は驚き戸惑っている様だ…無理もない、突然の告白だもの。
でも僕は本気で彼と付き合いたいと思っている。
この僕を負かした初めての…

「ぶ、ぶはっ、ぶひゃひゃひゃひゃうは!
塔矢、お前ってやっぱ面白いキャラな。
付き合ってくれって何だよ?こないだの碁会所にでも付き合やいいのか?」

「茶化すなよ!僕は本気なんだ!!
キミが僕を負かしたあの日から、僕はキミの事だけを考えている。
キミが…キミが傍にいてくれないと頭がどうにかなってしまいそうだ…」

「と、塔矢…」

「進藤…きっとキミを幸せにしてみせる!だから…!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!
そんな事いきなり云われたってオレ分かんねぇよ…
お、お前が真剣だって事は…分かったけどさ」

「分からない…?
キミの中の僕の存在はその程度なのか…
も、もしかして誰か好きな人でも…?」

「す、好きな人?
(あ、佐為の事は好きだな…でもこいつに云っても分かんないだろうし…
あと、こいつの親父もカッコよかったなぁ…)」

「進藤?」

「塔矢名人…とか?」

がーーーーーーーん!!
おっ、お父さん!?
そんな…進藤は僕ではなく僕のお父さんの事が…


「おい…ひょっとしてお前、またややこしい事考えてないか?」

「だっ、駄目だよ進藤!!
よりによって僕のお父さんだなんて!!
それじゃ不倫じゃないか!!」

ゴスッ

「痛っ!
し、進藤!?」

「誰が不倫だーーーっっ!!
やっぱお前ややこしい事考えてやがったな!?
棋士の話かと思って聞いてりゃ、恋愛話かよ!!」


僕は最初からそのつもりでいたのに…僕のこの真剣な気持ちは誤解されて伝わっていたのか…!
そりゃ囲碁に対する情熱は誰にも負けないつもりでいるけど、それ以外頭にない様に思われているのか!?
こうなったら…この気持ちを伝える方法はひとつしかない…!


「進藤!」

ぐいっ

「え?お?と、塔…」

僕は…進藤の柔らかい唇に自分のそれを重ねた…

本当はこんな乱暴なやり方、したくはなかったんだけど…こうでもしないと進藤は僕の気持ちに…


「へたくそ」

「Σ( ̄□ ̄;)
へ、ヘタぁ!?」

「お前、ほんっとに囲碁の事しか頭にないのな。
キスもろくに出来ないなんて。
もっと巧くなって出直して来い!」

「えぇっ!?そ、そんな!
進藤?進藤ーーっ!!」


キスにうまへたがあったなんて…僕は囲碁でもキスでも彼に惨敗してしまった…

でも…でも僕は益々キミが好きになったよ!
キミの云う通りちゃんと腕を磨くから、そしたらその時は…!

進藤、待っていてくれ!!


『ヒカル…頼もしー!』

「そりゃ毎晩お前に鍛えられてるからな。
でもホントにキスが巧くなると頭良くなんのか?」

『も、勿論!もうテストで0点取ったりしませんよ!
(ヒカルのドンカン!おこちゃま!/涙)』


ヒカルに恋愛感情が芽生えるのはまだまだ先の事になりそうである…
《終》


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