WJ作品

□デスノ連載_とんだ個人医院
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【第二章】

ざっ

マット
「ここがアメリカか…長かったな。
メロ、今逢いに行くぜ」


とんだ個人医院
〜連載編〜3



この男の名はマット。
メロがまだイギリスはウィンチェスターの片田舎で暮らしていた頃の幼馴染みである。
兄弟同然に育てられたせいか幼少時から金魚の糞の如くメロに纏わりつき、同じ大学への進学まで企てていたのだが成績が幾分メロより悪かった。
アメリカは余りに遠すぎると彼は半狂乱で引き止めたが叶わず、メロは夢と希望を胸に一人大陸へと旅立ってしまった。

しかし執念と云うのは恐ろしいもので、半身とも云うべき兄貴分と離れてからのこの二年、驚異的な努力で遂にメロの通うこの大学の編入試験をパスしてしまったのだ。


寮生
「お前運がいいな、この寮もついこないだまで満室だったんだ。
一週間位前この部屋の主が婚約者と暮らすって出てくまではな」

マット
「そうか…それじゃそいつに感謝しないとな」


その時マットは出て行ったと云うその寮生に本気で感謝した。
折角メロを追って遥々アメリカへやって来たのだ、そのメロと共に暮らせなければ意味がない。
何せこのマット、ただメロを慕っているだけでなく所謂恋愛感情を抱いていたのだ。

メロもこの男の事は確かに可愛がってはいたが、あくまで弟として。
兄離れ出来ない弟を自立させる意味も含めて、わざわざ故郷から遠く離れた大学を選んだ。
さしものメロもマットがここまで執念深いとは計算外だった様だ。

だがこの男はもう自分のこんな傍まで来てしまっている…嵐は避けられそうにない。


マット
(さて、メロの部屋は何処だ?
1人部屋と云うのが残念だ…2人ならメロの同室の奴と代わってたところだが)


本人の了承も得ず、勝手な事を思い乍ら部屋を探し始める。
まずは一階の端から順に名前を確認して歩いた。


一号室、ここはさっき案内してくれた男の部屋だ。

二号室、所在を表すプレートにはアニマルと書かれ、四年となっている。

三号室、プレートの名はクロマティ、やはり四年生だ。

四号室、呂。台湾からの留学生で、続く五号室のローズも共に四年生だ。

五号室から飛んで七号室はダルビッシュ、留学生らしいがイギリス人ではない。


マット
「一階は全部四年か、なら二年は三階だな」


案の定三階へ行くとプレートには全て二年の文字、逸る気持ちを抑えてマットは再び端からメロの名を探した。


マット
(ケール…ケール…ケール…ここも違う…ケール…)


遂に端まで全ての部屋を確認したが、メロのファミリーネームであるケールの名は存在しなかった。
馬鹿な――呟き、今度は来た時とは逆向きに目的の名を探す。





ドンドンドンドン!

マット
「ちょっとあんた、開けてくれ、話がある!
おいあんた、いるんだろう!?」

寮生
「そんなに乱暴に叩くなよ、古いんだからドアが破れちまう。
って、さっきの転入生か、血相変えてどうした」

マット
「ここにミハエル・ケールってイギリスからの留学生がいただろう!?
最後に来た手紙はここの住所だったんだ、なのにどうしてあいつの部屋がない!?」

寮生
「ミハ…ああ、メロって愛称のあの頭のいい子か。
さっき云ったろ、婚約して出てった子がいたって。
それが彼さ」

マット
「メ、メロが婚約…!?」


マットは信じ難い言葉にその場に膝をついた…が、そんな事でめげる彼ではない。
先輩の驚きをよそにやおら立ち上がると、いきなり拳を握り締め己に誓いを立て始めた。

メロは俺のものだ――何処の誰かも知らぬ輩に奪われねばならない義理はない!

…しかしメロは、よくよく相手の気持ちを確かめない身勝手な男に好かれ易い様だ。

さて、そのメロだが――






ニア
「こちょ、こちょこちょこちょ」

メロ
「きゃふ、きゃふふぅん!
あっあっ駄目、やん、同じとこばっかこちょこちょしちゃ…あっあん、意地悪ぅ」

ニア
「こちょこちょは駄目ですか、それじゃあちゅっ」

メロ
「あーっ、吸ったら出ちゃうぅ」

ニア
「もう、そんなに我儘ばかり云う子には、くちゅくちゅの刑ですよ?」

メロ
「あぁん、早く先生の太ぉいお注射でくちゅくちゅしてぇ」


――ニアとの性の祭典に耽っていた…それもナース服でのイメクラプレイである。

メロはまさか自分に幼馴染みと云う通常なら害のない筈の爆発物が近付いているとも知らず、昼の休みと云わず休講と云わず、この多少イッてしまっているが愛しい医師の元へいちいち戻っては愛を確かめ合ってた。
…幸せの余り危険察知能力が退化した事にも気付かず。


メロ
「それじゃニア、名残惜しいしとっても寂しいけど、講義が始まるから大学に戻るよ」

ニア
「ええ、それでは気をつけて行ってらっしゃい」

メロ
「大学まで3分だぜ、どう気をつけるんだよ」

ニア
「可愛い赤ずきんちゃんを狙う狼さんからですよ」

メロ
「それは怖いな、でも猟師さんが助けてくれるんだろう?」


この期に及んで時間ギリギリまでニアに甘え倒すメロ。
未だ狼の存在に気付く筈もなく最後の足掻きとばかりにキスを強請ると、メロはしつこい程に名残惜しみつつ自宅玄関を後にした。


ニア
「はぁ…幸せだなぁ…私の可愛い赤ずきんちゃん、早く帰っておいで…」


12秒前に出て行ったばかりである。
ニアが幸せボケしつつ病院側の玄関の休診札を外しに行くと、待ちきれぬとばかりに飛び込んで来た若い男がいた。


ニア
「っと、危ない。
そんなに慌てなくても病院は逃げたりしませんよ、それとも急患ですか」

マット
「俺が用があるのはあんたじゃない、この病院の女医を出せ!」

ニア
「随分乱暴な物言いですね。
生憎ですがこの病院には女医はいません、私の個人医院です」

マット
「嘘つけ、あいつが同年代のガキなんか相手にするかよ、昔から年上の女が好きなんだ。
それじゃ看護士だ、女の看護士を出せ!」

ニア
「この病院には私しかいません、看護師は雇っていないので」

マット
「そんな筈ないだろう、確かにこの病院だと聞いたんだ!」


さっぱり話が噛み合わない。
それもその筈、メロは地元でも年上キラーで通っていて、マットもメロは当然この地でも年上のグラマー美人と遊んでいると思っていたのだ。
だからこの少年と云っても差支えない様な男が、自分の恋敵であるなどと云う概念もない。

それでも何とかニアは興奮しきっているマットを宥めて落ち着かせ、ここへ来るまでの経緯を聞き出した。


マット
「まさか…有り得ない!」

ニア
「そう云われましても…事実メロはもう寮の荷物もここへ運び込んで、こうして私と暮らしている訳ですし」

マット
「それが有り得ないって云ってるんだ!
そうか、分かったぞ?金か、金にものを云わせて無理矢理モノにしたんだな?
あいつが年中貧乏で苦しんでるからって卑劣な真似を…」

ニア
「人聞きの悪い事云わないで下さい、彼は私を愛してくれています!」


それでもニアは強く否定出来ない。
確かに最初はメロの意識がないのをいい事に、殆ど無理矢理既成事実を作った様なものだ。

だがそれを云ってしまえばきっとこの男は自分の元からメロを奪って行ってしまう…それだけは阻止したい。
ニアはもうメロなしでは生きては行けないのだから。

しかしそんなニアにマットは残酷な事実を突き付けた…昔メロが書いたと云う誓約書である。
一見根拠がないと思われた彼の自信はここから来ていたのか――


マット
「読めるよな、ここに間違いなくメロの字でこの俺と結婚すると書いてある。
拇印も捺してあるから正式なものだ。
あんたがどう云い張ろうと、メロが俺のものって事は動かない事実なんだよ」

ニア
「そんな…メロはあなたの事など一度も…!」

マット
「そりゃそうだろう、云えばあんたから自由に金を引き出せなくなる。
だがもう俺が迎えに来たんだ、それも必要ない」

ニア
「馬鹿な…」


ニアは意識を保っているのがやっとだった。
寧ろ本人はいっそ気を失ってしまいたかったろう。
愛しいメロのあの愛らしい仕草や愛しげな表情、あれらは全て金の為の演技だったのか?
愛していたのは自分だけだったのか…


マット
「俺が迎えに来るまでに、あいつを飢えで死なせなかった事だけは感謝してやる。
だが二度とあいつに指一本触れてみろ…殺してやる」

ニア
「……て…さい…」

マット
「あ?」

ニア
「今ここで殺して下さい…私は彼がいなければ生きて行けない」

マット
「し…知るかよ、そんな事まで面倒見れるか!
死にたきゃ勝手に死ね、罪人になるのはごめ…」

バターン!
バタバタバタバタ

メロ
「ニ〜ア〜!
ただいま、帰って来たよ〜ぉ!
早く早く、お帰りのちゅ…げ!?」

マット
「メロ!?」

ニア
「…メロ?」

メロ
「マット、何で貴様がここにいるんだ!
エンガチョ、近寄るなぁ!
てか俺のニアに近付くな、変態が感染る!」


ではこのイカレタ医師は変態ではないと云うのか…


ニア
「メ、メロ?
どう云う事か説明して下さい、彼はあなたの正式な婚約者ではないのですか?」

メロ
「はぁ?この馬鹿そんな事云ったのか?
幻覚見てんじゃねぇよ、馬鹿!」

マット
「そんなに馬鹿馬鹿連発するなよ…」

メロ
「馬鹿を馬鹿と云って何が悪い、馬鹿!
お前まだ俺結婚するとか頭足りない夢見てんじゃないだろうな、誰が婚約者だ!」

ニア
「ですがメロ、ここにこうして誓約書が…」

メロ
「誓約書!?」


メロは乱暴にその紙切れを奪い取るとざっと目を通し、キレた様に机に叩き付けた。


メロ
「日付をよく見ろ!
俺が5歳の時じゃないか、未成年者同士の契約に効力なんかあるか!」

マット
「そんな!」

ニア
「た、確かにこの日付は…気付きませんでした。
保護者のサインがない以上、弁護士も無効だと断言しますね」


さっきまでの落胆は何処へやら…メロがマットから身を隠す様に自分に縋りついている事にすっかり気力を取り戻したニアは、今度はマットに決定的な引導を叩き付けた。


ニア
「あなたはメロをどれ位知っています?
勃たなきゃ見えない処の黒子…見た事ありますか?」


マットはその一言で撃沈した――





ニア
「ああでも、あなたの愛が真実だと分かって、ほっとしましたよ。
さっきは本当に死ぬ気でいました」

メロ
「酷いなニア、もうお互い妬いたり疑ったりしないって約束したじゃないか」

ニア
「だって彼があんまり自信たっぷりに誓約書なんか見せるから。
子供の頃とは云え、あんなものなんか書いて…心配したんですよ」

メロ
「もうお馬鹿さん」

マット
「…とどめ刺した上に、屍…に鞭…打たない…で…」


今度も無事誤解の解けた二人。
何か一悶着あってそれが解決する度に、このバカップルはいちいち幸福絶頂を迎えるのである。

さてはて邪魔者も見事撃退したところで、お話は次回に続くのでありま…ん?
待って下さい、まだ何か大切な事を忘れている様な…?
《続》



◆あとがき◆
はい、忘れてますね…マットがこれで帰る訳ではない事を。
大学構内はニアの勢力外だから、付き纏われますねぇ。
でもきっとメロとニアの深い愛を愛でる女神達が何とかしてくれますよ…ではでは次回もお楽しみに。
2006/09/27
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