ワールドトリガー

□慰安旅行〜宴会編〜
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「生きてるかー、修。
メシ食えそうかー?」

「す、すみません、支部長…」





【慰安旅行〜宴会編〜】





「言えよ、メガネくん…年上だからって遠慮しないで。
この実力派エリート、肩ぐらいいくらでも貸してやるんだから」

「いやあ、迅さんがギックリ腰とかやらないよう気を遣ったんでしょ。
はい修くん、お水」

「(いやあ、迅にいやらしい感じで見られたり触られたりするのを避けたんでしょ)
迅、そこどいて、扇ぐから」





それぞれの思惑はどうであれ、玉狛に限らずボーダーの面々は修に甘い。

千佳のことは甘やかすつもりで甘やかしているが、修の場合ほぼ全員が無自覚である。

周囲の人間(迅以外)にしてみれば目を離すと修がどんな無茶をやらかすか知れたものではないから構うと言うだけの話なのに、正直遊真にはそれが面白くない。

もやしとは言え高身長、いい年の成人男子を無意識のうちに甘やかしてしまうとは、ひょっとしてオサムは魔性のオトコでは?と遊真は気が気ではないのだ。





「遊真先輩がそわそわしてるね」

「だったら人任せにしてないで自分が介抱してあげりゃいいんだよ。
まったくあの人は…」

「あんたが言えた義理か、ユズル?」

「膝枕で『はい、あーん』とかしてあげるとこ見たい(きらきらきらきらきらきら)」





こうやって24歳組の4人が興味津々でガン見するから、遊真も修の傍に行きたくとも行けない訳なのだが。

思えば修への恋心を自覚する前までは、今よりよっぽどいちゃいちゃもといスキンシップが出来ていた。

時を同じくして修もよそよそしくなったので、遊真の気持ちに気付いて避けているのか、同じ気持ちを持て余しているのか判断しきれず今一歩踏み込めない。

なにぶん遊真は10年も生身の身体を失っていたことから、結婚や恋愛と言う選択肢がなかった。

いわばハタチをいくつも過ぎてからの初恋なので、生身の身体を取り戻した今でも目下の目標が苗字呼びから名前呼びにして貰うことと言うぐらい恋愛スキルが低い。

先日みんなから背中を押され告白する決心をした筈だが、たった一度遊真と呼ばれただけで舞い上がってしまうような有様で、傍目にも当分この先へ進めそうな気配は見て取れない。

まったくもってお子ちゃま過ぎる…と、皆が溜息を吐きかけたその時だった。





「おい、起きろ、修。
玄界では30まで未使用だと魔法使いになると言うのは本当の話なのか?
何故30なのだ。
この年を境に生物学的に何か変化がもたらされるのか?」

「またその話か、ヒュース。
一体何処でそんな話を聞いてきたんだ」

「近界ではこちらとは異なる進化を経たから妊娠・出産出来る男は多い。
女が男を妊娠させるケースもある。
そう言う夫婦は当然男が30過ぎても未使用である事も珍しくないが、近界で魔法使いなどと言うものを見た事がない」

「ええ、なんだそれ!?
じょっ、女性が?
男を?
そんな事可能なのか!?」





この話には流石にみんなが食いついた。

人一倍迅の下ネタにうるさい小南や栞までが目を輝かせているので、生命の神秘についての話題はセクハラ対象外らしい。





「ああ、おれが親父と厄介になってた国におれより2〜3年上の女がいたんだけど、こっち来る前に挨拶がてらその国に顔出したらそいつも旦那に産ませてたよ。
そこそこ使えるトリガー使いだとは思ってたけど、まさかあいつがなあ。
弟の方は普通に奥さんが産んでたけど」

「女の方が優れた戦士の場合は大体そうだ。
こちらではどの民族も妊娠は女の専売特許らしいがな。
それだけ平和だと言う事か」





こちらの世界のトリガーには緊急脱出システムがついているので、戦闘員が戦死するケースは極めて稀である。

しかし近界では緊急脱出が近年やっと一般化してきたところで、それまでは弱い者が戦闘で命を落とすのは至極当然の事だったのだ。

戦闘に限らず訓練中の死亡も珍しくはないからどの国も常に兵が足りない状態なので、男男、男女、女男、女女のどの組み合わせでも妊娠可能な民族が自然発生し、常に戦闘状態にある国は戦力増強と種の保存の為こぞってその民族との混血を進めたらしい。




「え…じゃあさ、ヒュースくんや遊真くんも子供産めちゃったり…するの?」

「オレは適正だった。
恐らくこちらの世界でも交配は可能だろう」

「おれはどうかな。
親父がこっちの人間だし、ずっとトリオン体だったから適性検査も受けた事ないしな」

「ひえ…よ、要は…でんでん虫と同じ…なんだ?」

「「でんでん虫言うな!」」





見た目には明確に男女の差がある。

しかし雌雄同体であるかどうかは前述の適性検査を受けねば分からないと言う。

アフトクラトルではおよそ6割から7割が男女共に妊娠する事もさせる事も可能。

遊真が世話になっていた国では9割近くの男子が妊娠可能だと言うのに、女子の側に雄の器官を持つ者が2割に満たない為、出産者の9割が女子だと言う。

なので遊真の幼馴染みはその国ではレアケースらしい。





「じゃあ遊真も9割産めそうじゃん」

『こちらに渡航する前に身を寄せた国だと言うだけで、ユーマ自身がそこで産まれた訳ではないのだ。
それに父親であるユーゴが日本人なので、可能性としては五分五分だ』

「問題はそこじゃない。
おれはヨータローの子を産むつもりだから、あと四年で魔法使いに…!」

「いや、ならないから!」

「修、悠長に構えているがお前も他人事ではないだろう!
遊真、お前もだ!」

「いやいやいや、おれも修もとっくに済ませてるし」

「「「「「ええっ!?」」」」」

「え、あの…近界にいた空閑の事を知らないのは兎も角、ぼくが高校の時彼女いたのみんな知ってますよね…?」

「おれはこっちに戻る気満々だったから彼女は作った事ないけど、生身に戻ってからは健康な男子としてそう言うお店にはお世話になってました」





衝撃の発言…

確かに修には中学の時からの同級生の中に高校に上がってからそう言うお付き合いに進展した娘がいた事は、玉狛のメンバーなら誰でも知っていた。

遊真が近界に残った事で傷心した修を支えたと聞いていたが、修があまりに遊真遊真過ぎて振られた事も全員が知っている事である。

しかし別れた後も修がそれほど堪えているようには見えず、淡々としたものだった。

交際期間も半年と保たなかった筈なのに、まさかこのオクテがその短期間でやる事をやっていたとは…!





「三雲くん酷い!
空閑くんがいるのに他の女の子と…!」

「いや、ちょっ!
あの時はまだ自覚がなかったのに、そこを責めるんですか!?」




今は自覚がある事をあっさり認めたな。





「空閑さんもそれで平気なんだ!?」

「待て待て、一度彼女作ったらもう他の奴好きになっちゃダメなのか!?
それじゃおれ一生オサムに好きになって貰えないじゃん!
大体童貞じゃないのはお互い様だし!」





あーあ、ゆっちゃったね、修に好きになって欲しいって。





「ヒュースくんは陽太郎くんの為に貞操を守ったのに、遊真くん軽率すぎるよ!」

「まっ、前は使ったけど後ろはオサム以外考えらんないから新品だってば!」

「えっ、ぼくが挿れる方なのか!?」

「待っ、なんでオサムの方が挿れられる気でいるんだよ!」

「挿れられる気でいる訳じゃない!
だから悩んでたんじゃないか!」

「え、じゃあおれが女役だったらオサムは抵抗ないの!?
おれでちゃんと勃つ!?」

「当たり前だろ!!
ーーーって、ハッ!?」





時すでに遅しーーーーーーーーー

売り言葉に買い言葉ではないが、うっかり大勢の前で本心をぶちまけてしまったのだ。

12対の目が三日月型に、口がスマイルカットのオレンジの如しとなるのは当然だろう。





「はあ…長い道のりだったね。
おめでとう、三雲くん、空閑くん」

『ここはヒュースの話題の振り方を評価したいところだな』

「そうなんだよね、修くんて意外と下ネタは平気なんだよね。
そこから持っていくのは巧かったわ」

「ははは、修がボケに突っ込まずにいられない性格なのを突いたところも評価ポイント高いな」

「な…な…支部長まで…
ま、まさかぼくら…嵌められた?」

「ふたりで部屋に残っていちゃいちゃしてる間に作成立てたっす」

「だ、断じていちゃいちゃなんてしてなーーーい!!」

「でもこれからは堂々といちゃいちゃ出来るね、修くん」

「どっ…!?
ちっ、千佳まで!
ぼくらをヒュースと陽太郎と一緒にするな!!」

「ぼくらだって」

「認めた認めた!」

『オサム、もうよせ。
否定すれば否定するほどどツボだ』





やはり周囲の人間にとって、修は構わずにいられない種類の生き物らしい。

酔っているとは言えよくぞ全員(迅以外)が一丸となって、修と遊真をただカップルにする為だけに動けたものだ。

しかし彼らは気づいているのだろうか。

それともただ現実から目を逸らしているだけなのか…?

この度成立したこのふたりを除くと、林藤支部長と小南、陽太郎とヒュース、今日はパートナーは来ていないが出穂、この5人以外は悉く独り者である事に。

お前ら他人の世話してる場合じゃ…ないぞ?
《了》





ちなみにヒュースの【30まで未使用だと魔法使い】ネタは、千佳所蔵の志岐小夜子著薄い本から仕入れました。
2020/07/20 椰子間らくだ


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