□プロローグ
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はじまりはとある冬の事だった。


永らく江戸の闇の溜まりどころであった吉原桃源郷。

しかし、その闇制し、女達を閉じ込める天井は既に救世主によって開かれ、
吉原に住まう者達はそれはそれは大きな太陽を拝む事ができる用になっていた。
そのため、様々な季節を肌に感じることができる様になった色町は
あの頃とは比べ物にならないぐらい鮮やかな活気がある。
今まで、深い闇を恐れて近寄ることもなかった男達も、その鮮やかさに惹かれてぞくぞくと色町へと足を運んで行くようになった。

ただ、現時刻ではもう太陽は姿を隠し始めていて、かつての暗さをにおわせはじめる。
しかし女どもはなんのこれしきというところだ。
闇の色が濃くなってゆく吉原も、ここからがかきいれ時とネオンの輝きを強ませ始めていた。

そんな中、吉原の一角甘味処『ひのや』は周りの店とは違い既に店仕舞いを始めていた。
ひのやの店先にはもう人影はない。

しかし、少し先の通りには団子の串を片手に甘い香を漂わせた銀髪の侍が帰るところであった。
歩く度にふわふわと揺れるその髪にすれちがう人はちらりと目で追ってしまう。

銀髪が席をたったのを見た店主はそばにいた金髪の女に皿を持ってくるように頼んだ。
快く承った女は、ゆっくり店先から顔を出し団子の皿を片付けに表に出た。
そうして、少し先の銀髪の侍を横目にほんの薄く笑った。


「んじゃ、またくるわ」


そんな女を気づいているのかちょいと声をかけた侍だったが、女はほんの一瞬動きを止めただけで結局奥へと行ってしまった。


相変わらず無愛想な女。
そう悪態をつきながらも、
侍は満足そうな顔をして今度こそ家路についた。
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