私に恋を教えて

□女子ならばやってみるのが粋なこと
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カチャン

たまは先程まで神楽が座っていた席の食器を片付け始めた。
残された食器か少々大きめのどんぶりのみ。しかし、実際食した量はその丼何倍分にもなるため、今回も信じられないぐらい平らげている。
一体、神楽様の胃袋はどうなっているのやら。


「アイツ、マタ飯タカッテイキヤガッタ。今度コソ金を絞リトッテヤル」

「しかし、銀時様が払えるとは到底思えませんね」

キャサリンはたまの手元を見ながら呟く。それに対し、たまは淡々と会話を続けながら食器を洗って行く。
相変わらず米一粒も残さず平らげるのは関心だ。

そういえば銀時様に今までの請求をすると…家賃×3、米10俵ほど…あとは、パフェ、お酒…

少し手を動かすのをやめ、うんうんと計算をしてみる。
ああ、やはり銀時様では払いきることはないでしょう。
そこを分かっていながらもいちいち請求(脅し)をかけてみたり、はたまた今回のようにご飯をご馳走をしたりするお登勢の心情はたまにはいまいち理解ができなかった。

少し止まっているたまを視界の隅にいれて、気だるそうな顔したキャサリンは再度口を開いた。
煙草の煙がゆらゆらと立つ。


「オマエ、急二恋ダトカドウシタンダヨ」


一瞬たまの動きが止まる。
しかし、キャサリンの問いに関して答えが返ってくることはない。
ほんの少しの間、沈黙がながれた。
キャサリンは短くなった煙草を灰皿に押しつけると、立ち上がり店の奥へと歩いていってしまった。

一人残されたたまは静かに混乱していた。
恋。
キャサリンの口から紡がれた言葉がそのままデータとして頭の中にとどまっている。
恋。たまのデータ上、恋についての欄には『特定の異性に特別な想いを募らせること。』と記録してある。
しかし、これは辞書に載っている解釈の仕方であり、実際にどのようなものかはちっとも分かっていなかった。
知らない知識があれば調べ、全て記録をする。
そう心得ているたまにとって“恋”は未知なるデータ。
少しでも多く情報を収集しておきたい。



そうして、自分の頭のから拭えない彼の存在の意味を知りたい。


そうやって回路を巡らせている今この時も彼は表示されたまま。
最後に会ったお見合いの時の画像が回路の邪魔をした。
一種のウィルス感染なのだろうか?
そう考え、自主的にデータのクリーンアップをしてみたり、フィルターをかけてみたりとからくりなりに対処はしてみたが、効果は全くもって無。
いっこうに彼は消えない。
源外に調整をしてもらったが、相も変わらずといったところ。

謎の解明のため調べ、人間での似たような症状が“恋”だった訳だ。

もしかすると恋?
そんなうたい文句を掲げるサイトに何度も足を運んでみたり、恋愛相談掲示板の過去の記録を眺めてみたり。
ただ、そんな文字だけでは辞書で引いた結果ともなんら変わりがない。
その事に気づいたたまは自分の身の回りの人々の体験談を聞こうと考え付いて、先程実行にうつし始めたのだ。


「…たま?あんたさっきから水出しっぱじゃないかい。考えごとするんなら栓はとじときな」


後ろからの声に、ふと我にかえったたまはそっと水道の蛇口を閉じる。
そんなたまをみていたお登勢は少しの首をかしげるとまた奥へと戻って行った。
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