眩しくて仕方が無いから
□或る朝の情景
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一、
普段であればまだ起床には少し早い明け六つ時。
薄靄のなか、夫の戦装束を着つける若い妻の姿が庭先からチラリと見えている。
耳を欹(そばだ)てれば、
衣擦れの音がわずかに聞こえる程度。
互いに、無言である。
「此れにて、」
「ああ、」
不意に女の喉が震え、其れまでの静寂を乱す。
小さく告げた妻に、ほんの一言、言葉を返す男。
そこに会話の余韻はなく、再び静寂が訪れる。
男は無言のまま、ゆっくりとした動作で腰に刀を差すと、開け放たれた襖の奥に見える庭先へと視線を向けた。
女は年齢にそぐわぬ質素な色合いの着物を纏い、夫の側に控えている。
その姿は儚く、今にも崩れてしまいそうなほどか弱い。
しかしながら、伏せられた瞳には一切の揺らぎもなく、
男の発した無愛想な言葉に動揺している様子は感じられない。
何故なら此れは、いつもの事なのだから。