泥棒夢
□名前をそっと
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「次元、お帰り。」
「おう、雫じゃねぇか。ルパンはいるか?」
「何か作業があるみたいで、部屋に篭ってるの。他の2人も同じ。」
冷てえヤツらだ、と言って彼は笑った。
それは勿論ウソ。
ルパンによると、次元は何か個人的なヤボ用が出来たとかで、それを片付けに行っていたそうだ。
「お仕事お疲れ様。どうだった?」
次元に労いのコーヒーを出しながら尋ねた私に彼はニヤリ。
「それが大成功よ。ついでにマフィアを1つぶっ潰してきたっけなあ。」
『今日何者かによって、アメリカの最大手マフィア、タランチュラが壊滅させられました。』
淡々と喋り続けるアナウンサーの声と、さもご機嫌そうにコーヒーを口に含む次元。
「次元、まさかこれって…。」
「名前までは覚えちゃいねぇよ。」
そして煙草をふかし始める。
彼1人でこれ程の実力があるのなら……ルパンファミリーは最強だ。
彼の向かいに腰掛けて、私は深呼吸をした。
「あ、あのねっ!」
「ん?どうした。」
彼の機嫌が悪くないのを確認して、それをポケットからそっと取り出す。
「実はこれ、この前不二子ちゃんが選んでくれたの。」
心臓が飛び跳ねて、口から出てしまいそうになったけど、何とか言い切った。
次元は暫く黙って見ていたが、ふぅとため息をついた。
「LSか。不二子にしてはマシな銃選んでくれたな。丁度良い。撃ち方とメンテナンスでも教えてやるぜ。見にくいだろうし、こっちに来な。」
そう言って自分の隣を指差す。
「あ、りがとう。」
隣に座ると、次元の匂いがまた一層強くなってドキドキする。
彼は雫から銃を受け取ると、説明を始めた。
何やら言っていたがそれは全然耳に入らず、ひたすら下を向いていた。
最初は熱心に聞いていたものの、段々銃を扱う次元の顔に意識が向くようになってしまった。
そして次第にそんな自分が恥ずかしくなり今に至ったというわけである。
「おいっ、どうした。話聞いてんの……か?」
雫が次元の服の袖を持って離さない。
反応は、無い。
「離さねぇと動かしにくいだろうが。」
またもや反応無し。
「良い加減に返事くらい…!」
苛立った次元は雫の顎をぐいと持ち上げた。
そこには真っ赤に頬を染め、目に涙を溜めた雫の姿が。
もう駄目だ、身体が勝手に動いてしまう。
ああ。嫌われちゃうけど…止めるなんて、無理。
「もう、我慢できない…よ。ごめん、許して、本当に…!」
腕を彼の背後に回した途端。
自分の背中が引き寄せられた感覚がした。
「きゃっ……!」
私の頭は次元の胸に押し付けられていた。
これが何を意味するかをやっと理解した。
「え…何で…。」
しばらく困惑していた。
「馬鹿野郎!我慢してたのはこっちの方だってのによ。」
聞こえたのは、次元の声だった。
「オンナに抱きしめられるなんざ、男が立たねぇだろうに。」
耳元で囁かれて、何だかくすぐったい。
「年齢が……違いすぎて駄目なんだって思った…。」
こんな時に、自分は何を言っているのだろうか。
「次元は世界中で仕事してるから、女の子は一杯いると思った…。」
止まらない。
「スタイルがいい人も、頭が切れる人も、性格が優しい人も…。私は何にも敵うところが無いから…!」
止まらない!誰か…。
続く