泥棒夢

□悪夢
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「ほら、ここだったらバレないでしょ?」

やめて、触んないで。

「良いじゃん。ボクが初めての人だなんて、光栄な事じゃないのかな?」

イヤだイヤだ、怖い…助けて…。気持ち悪い。

「うわ…すっご…!」

いやああああああああああ!

止めて、お願いだから…!

誰か…助けて…。


私とルパンが付き合い始めてから、どれくらいの月日が経っただろうか。

私は幸せだった。

彼がどんなに他の子をナンパしても、その底抜けの明るさをふくんだ笑顔を見れば、何もかも許せてしまうのだ。

軽い男のようで実は誰よりも真面目なのだという事を私は良く知っていた。

次元と五エ門ともそれなりに仲を深められて、一緒にショッピングにも行ったりしていた。

ルパンがあまり束縛しないので、こちらが嫉妬してしまうほどだった。

それ程ルパンが彼らを信頼していたという事なのだろう。

3人といる時だけは忘れる事が出来た悪夢に、まさか再び遭遇するとは…夢にも思わなかった。


私は今路地裏にいる。

半分開いたゴミ箱からは、独特の悪臭が鼻をついた。

どぐん…どぐん…。

蘇る悪夢が鼓動を早める。

「久しぶりじゃん、雫ちゃん。」

聞き覚えのある声に恐る恐る顔を上げると、そこには思い出すのも躊躇われる程の憎たらしい顔が。

右手首を掴まれている。

「手…離して。」

自分でも声が震えているのがわかった。

「可愛くなっちゃって〜。まだボクが忘れられない?」

鳥肌がたった。

「そんな事、無い…!」

「それは残念だな〜。でもボクはまだ雫ちゃんの事が忘れられないんだよね。あの後急に転校しちゃうんだもの。それでやっと見つけたんだ。今度は離さないからね。」

恐怖に歯がガチガチと鳴る。

あの時の忌まわしい出来事の細部に至るまでが鮮明に思い出されるた。

脳内で警告信号が出ているというのに、私の口は言葉を発せなかった。

「もしかしてここでやるのはイヤ?大丈夫、今回はちゃんとホテル予約してるから。」

彼の唇が鋭い弧を描く。

あまりの恐怖に涙さえ出なかった。

「騒がれるとボク困っちゃうから、少しの間おネンネしててね〜。」

抵抗を試みるが、ショックで身体が思うように動かない。

迫り来る布の気配にもう駄目だと半ば諦めかけて、最後に私は呟いた。

「ルパン…。」

すると突然背後でガチャリ、という音がした。

撃鉄を上げるような、そんな音。

振り向くと、そこには…

「ルパン!」

いつになく真剣な面持ちの彼。

眼は殺気立っていた。

「アンタは誰だか知ら無いけどもよぉ、気安く俺の女の手なんて握っちゃうと、大変な目にあうんだぜ?」

雰囲気もいつもと違ってとてつも無い威圧感を感じる。

「るっせぇ!て、てめぇこそ誰だよ!」

そう言って構えた銃の照準は定まっていない。

銃もただ持っていただけだというところだろう。

こうなればもう勝敗は見えている。

私はやっと動かせるようになってきた唇に微笑を浮かべた。

ルパンも相手の実力を見極めたのか、彼の足元に何発か弾を撃ち込んだ。

「ひいっ…。クソ、覚えてやがれ!」

彼は青ざめた顔でそう言うと、一目散に逃げていった。

「雫、大丈夫か!?」

恐怖の余韻と安堵から地面にへたり込んでしまった私を抱き起こすルパン。

「う、うえ…っ…!」

今まで出てこなかった涙が一気に溢れ出す。

「あああ…えぐ、ひうっ…るぱ…。」

私はただ声を上げてルパンの胸の中で泣きじゃくる事しか出来なかった。

私の泣き声が、路地裏にこだました。

続く
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