泥棒夢

□七夕
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五右衛門と雫はアジトの裏の竹林に来ていた。

何故かというと…

「五エ門、これが一番立派だよ!」

「うむ、では。……てえやあぁっ!!」

刀が空を切り裂く。

ズン、ザザザザ…。

「五エ門さっすがあ!」

思わず拍手をする。

「これくらい当然でござる。」

口調とは裏腹に緩む頬。

そう、五エ門と雫は七夕のための竹を取りに来ていたのだ。

今斬ったものを、アジトの庭に埋める予定。

しかし辺りは竹だらけ。

「じゃあこれを運ぶんだけど…。五エ門、またお願いしてもいい?」

好きな女の頼みを断れる男などいない。

五エ門は顔を真っ赤に染めて首を強く縦に振った。

「も、勿論でござる!して、どのように?」

雫はありがと、とクスリと微笑み、五エ門に耳打ちした。

「では雫、下で待っているぞ。」

「うん。頑張ってね〜!」

雫の声援を受けた五エ門は少し後ろに下がって息を吸い込むと、突然走り出した。

ていやああ!とやあっ!!

全速力で駆けていく五エ門の後ろには綺麗な道が。

邪魔な竹を彼が斬って道を作っているのである。

「うわあ。いつ見てもやっぱ凄いな、五エ門は。」

雫は1人で感心していた。

声が止んだ。

これが合図だ。

「よーし、私も!」

並外れた運動神経の持ち主である雫は竹に右足を乗せ、左足で盛大に地面を蹴った。

竹が勢いよく滑り出す。

斜面がきつくなる程、そのスピードも増していく。

「ああああああ…。」

濁点付きの「あ」が口から溢れる。

なんとかバランスをとるが、それだけでもう精一杯だった。

五エ門が見えた。

何だか嬉しくなって、五エ門〜、と手を振ろうとしたその時…。

「きゃあっ…!」

思わぬところに石があった。

竹はそれに見事に追突し、バランスを崩した雫は宙を舞った。

怖い…助けて…誰かーーー


目を開けると、今にも泣きそうな五エ門の顔が。

私を受け止めてくれたのだろう。

「あ、ごえ…「済まぬ、雫!拙者の修行不足ゆえにこのような事…!」

泣き出す彼を宥める。

「いや、五エ門はとっても綺麗な道作ってくれたし、石は私の不注意だし、そもそも私の案が…。」

刹那、雫は自分の全身を温かい気が纏ったのを感じた。

目の前の空いた胸元に心臓が飛び跳ねる。

「ごえ…ちょ…。急にどうしたのよ!」

緊張しすぎて声が裏返った。

「嫌でござったか?」

五エ門が私の目を見て囁く。

いつもは私よりウブなのに、なんでこんな時だけ。

……また惚れちゃうよ。

「そんな事…無いけど…。」

「なら良いではないか。」

ちょっと強引かも。

でも、今の五エ門も大好きだ。

「うん、そうだね。」

雫は五エ門に身体を預け、五エ門は雫の頭をそっと抱きしめる。

彼の心音が聞こえる。

鼓動が速い。

多分、私よりも。

余裕な顔しちゃって。

私よりもドキドキしてるんだ。

顔を上げ、熱気に瞳を潤ませて五エ門を見つめる。

「五エ門…。」

「雫…。」

静かに互いの名前を呼んだ。

顔の気配が近くなり、ゆっくりと瞼を閉じた時…。

「あんれま?お二人さんずうっとここでイチャイチャしてたのお?」

急に現実に引き戻された2人は最早何語か分からない言葉を発し、コンマ数秒の内に10メートル程の距離を取った。

「その嫌味な声色はルパン!」

「急に来ないでよ、ルパン最低〜!」

2人の容赦ない言葉にズタズタにされたルパン。

それを背後で見て笑う次元。

「た、竹はちゃんと採ってきたんだから!」

雫は涙目で土まみれのそれを指差した。

「あれがか?汚れてて使えねぇなあ。」

「るっさい!土なんか払えば良いじゃん。」

「まあまあそうかっかしなさんなって。それよりそろそろ短冊作りしない?」

「ルパンが原因だ(よ)!!」

お次は次元と雫からの一斉攻撃。

またしてもルパンは打ちのめされてしまったのだった。


夜。

今日は七夕パーティーのため、テープルには豪勢なご馳走が並んでいた。

「うわあ、凄い!これ全部次元が作ったの?」

雫は目を輝かせながら次元に聞いた。

「ああ。上手く出来てるといいがな。」

「これ絶対美味しいよ!」

いつもは銃を持っている彼の手におたまが握られている事に違和感を感じつつ、雫ははしゃいだ。

「ね、五エ門もそう思うでしょ?」

次元がチヤホヤされている事が気にくわない五エ門は何だか不機嫌そうだ。

「いっただっきまーす!」

この声を合図に、4人は食事にかぶりついた。

「んんんんんーんー!(うん、これ美味しい!)」

「んーんー!(うんめえ〜!)」

「そりゃあ良かった。」

食事に貪りつく2人に苦笑しながらも次元はご満悦の様子。

「ところでさあ。」

雫が話を切り出した。

「みんなは短冊に何書いたの?」

「はいはいはーい!」

ルパンが真っ先に手を挙げる。

「俺は不二子ちゃんとあんな事やこんな事がしたーい!」

「…。」

周囲からの冷たい視線を感じたルパンはしゅんとした。

「じゃあ次元は?」

「せいぜい死なねぇようにしてぇな。」

さすが次元、内容が現実的だ。

「じゃあ五エ門は?」

すると彼は急に顔を紅潮させて俯いた。

あーあ。

次元は全てを察した。

「雫、良かったな。お前さん愛されてるぜ。」

へ?

きょとんとしている雫も勘付いたようだ。

「五エ門…嬉しい!!」

嬉しさのあまり、雫は五エ門にハグをした。

彼の顔は完熟トマトよりも真っ赤になっている。

さっきとは大違いだ。

「お熱いこと〜。まるで織姫と彦星みたいになってやんの。」

からかうルパンにハッとした。

1年に1度、この7月7日に会うことが出来る織姫と彦星。

毎日会える私と五エ門は、もっと幸せなんだな。

そう、思った。
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