泥棒夢
□孤島〜満月〜
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ああ、面倒くさい。
いくら作戦のためとはいえ、なんで私がこんなところに……。
やる事なくて困っちゃうよ。
次元と雫は今孤島のアジトの前にいる。
なんでも今回のお宝とこの島は綿密に関わっている事を、ルパンが暗号解読をして発見したのだ。
そしてこの島での情報収集役に抜擢されたのが私と次元だったという訳だ。
間違ってたらただじゃおかないんだから。
「本当に、ここで暫くの間…暮らすの?」
鬱蒼と蔦の巡らされたボロい一軒家を眺めて雫は言った。
「ああ、この地図によるとそうみたいだぜ。まぁ、他に泊まるところなんざ見つからねぇと思うがな。」
次元が諦めたように笑った。
笑い事じゃないよ、もう。
でも、こんな任務でも、楽しみな事が1つだけある。
それは、次元と二人きりで居られること。
一応付き合ってはいるんだけれど、まだ日が浅くて恋人らしい事は何一つできてない。
多分みんなも気を使ってくれたんだと思う。
これをきっかけに…!
「……おい、聞いてんのか!?」
気付いたら目の前には髭面が。
「え…ごめん。もっかい言って!」
「ったく…ちゃんと聞いとけよ?
ルパンによると、この島のどこかには神殿があるらしいから、今日はそれを探す。自由行動で集合はここに17時。良いな。」
次元はじゃあ気を付けろよ、とだけ言ってさっさと出て行ってしまった。
一人残された雫も空に一発銃を試し撃ちしてから、アジトを後にした。
「おーい、次元〜!コッチだよ〜!!」
愛しい黒い影が見えた。
周囲はすっかり夕日に照らされている。
「済まねぇ。ちぃとばかし変な動物に手間取っちまってな。」
彼の身体には、所々擦り傷が付いていた。
「大変!私もう部屋の中の整理は大方終わらせたから、中で手当てしないと。」
リビングのソファに腰掛け、雫の隣には赤十字の救急箱。
「いててててて…!」
消毒液に顔を歪める次元。
こうしてみると何だか可愛い。
一際目立つ傷は、腕に一直線に入った細長いもの。
これが一番厄介だ。
手当てする方も、される方も。
「うわ、大っきい。かなり痛いと思うけど、我慢してね?」
雫が、意を決したように傷口に液を振りかける。
「〜〜〜!!!」
次元は手で自分の口を抑えて必死に声を押し殺している。
冷や汗すら掻いていた。
上から素早く絆創膏を被せる。
「…ごめんごめん!痛かった?もう終わったから、暫くじっとしてて。」
次元は無言で首を縦に振った。
余程痛かったらしい。
雫はコーヒーを淹れるために席を立った。
あの後コーヒーを飲んで、夕食を食べた。
今は本当はそれぞれ思い思いの事をして楽しむ時間なのだが、生憎孤島にテレビなどあるはずもなく、2人はソファでボーッとしていた。
メンテナンスし尽くされた銃を指で弄びながら、次元が言った。
「散歩でもしてこねぇか?」
同じく暇を持て余していた雫も、当然これには大賛成だった。
「行く行く!ちょっと待ってて、準備してくるから。」
10分後、2人はジャングルの木の根元に腰を降ろしていた。
「星、綺麗だねぇ。」
「ああ。」
口数は少なかったけれど、雫はそれでもう満足だった。
「あ、見てみて。あれが天の川だよね?夏の大三角もみっけ!うわぁ…凄い。こんなに満天の星、初めてだよ!」
1人で星を見てはしゃいでいた雫は、隣で自分の横顔をじっと見つめる次元には、全く気がつかなかった。
「お月様だ…って、今日は満月だあ!ついてるなぁ。次元は満月、好き?」
次元は突然横を向いた雫に驚いた。
しかしなんとか冷静さを保って、答えた。
「大体は…好きだぜ?」
雫はその事が不服だったようで、えー、と声を漏らした。
「何で〜?綺麗じゃん。」
「満月っていやあ、次の日からは欠けちまうじゃねぇか。一時の美しさなんて、何の役にも立たねぇよ。」
「だから綺麗なんじゃん。次元はほんとロマンチストだよね。じゃあ大体好きっていうのはどんなとこ?」
雫が次元を見つめる。
その奥に秘めた純粋さに撃ち抜かれそうになって、彼は咄嗟に目を逸らした。
「それは、だな…。」
今度は次元が雫を見つめた。
次元は彼女の頬に手を添え、口を耳元に持って行って小声で囁いた。
「満月に照らされるお前さんが好きだから、なんだぜ?」
得意げに口角を上げて微笑を浮かべる次元に、雫は一瞬にして顔を真っ赤に染めた。
そして何かを堪えるような顔をすると、次元に飛びかかるように抱きついた。
「次元…大好き。」
「俺もだ。」
2人はきつく抱き合い、今にも壊れそうな視線を交わし合うと、どちらからともなく唇を重ねた。
相手の温度が心地よい。
今にも蕩けてしまいそう。
好きで、好きで、好きで、大好きで。
そんな思いが止めどなく溢れ出る。
孤島生活も、悪くない。
2人はそう思った。