【短編】現代(白澤×鬼灯)

□檻外の愛情
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「鬼灯・・・」


切なげな白澤の声が私の名前を紡ぐ。


彼は、肩を震わせて泣く私を抱き締めてくれた。


「可哀相な子・・・どうして、可愛いお前を此処まで苦しめるんだろうね・・・。」


鼓膜を揺らす心地良い声音。


背を撫でる掌があまりにも優しくて・・・


柄にもなく、しゃくり上げながら泣き続ける。


・・・この人の言う通り、檻から解放されて自由を得た筈。


この人が・・・天の神の白澤が私を見つけ出してくれた。


そして、


こうして、側に居てくれている。


・・・それなのに、何が不満だというのだ。


「・・・・・・。」


否、一つだけ・・・満たされていないものがある。


・・・・・・私は、愛をまだ知らない。


悪夢のような日々から解放されたのは事実だが、それは・・・私の意志ではなかった。


根拠の無い儀式の供え物として祭壇に上げられ・・・、


村人たちの無慈悲で理不尽な都合の儘、殺された。


唯、・・・要らなくなったから、捨てられただけ。


そんな中に愛などある筈が無い。


「白澤・・・ッ」


「ん、なぁに?」


黒い美しい瞳が私を映している。


まるで、幼子をあやすかのような柔らかな眼差し。


この人からは突き放されたくない。


もう、誰にも捨てられたくない。


なんて、幼くて我儘な願いなのだろうか・・・


でも、ここまで我儘一つ言わずにきた。


こんな時くらいは許されるだろう。


大人として、慕うこの人に私の全てを受け入れて欲しい。


あの、恐ろしい過去も。


この、心の冷え切った弱い私も。


全部・・・・・・


「お願い・・・捨てないで・・・・ッ側に、居て・・・ッ!」


「ほおずき・・・」


「皆と同じように・・・愛して、欲し・・・ッ!」


言っている内にまた涙が溢れ出てくる。


「・・・・・・。」


・・・何も返事が返って来ない。


愛に飢えた醜い私に呆れてしまったのか。


怖くて顔が上げられない。
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