【短編】現代(白澤×鬼灯)

□弔いの花束
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それから、どれくらいの時が流れたのか分からない。

『鬼灯、あまり風に当たってると身体を冷やすよ。』

肩に添えられた暖かな感触に顔を上げる。

『ああ、すみません。心地よくてつい・・・』

『またうたた寝してたのかい?まったく、しょうがないなぁ〜』

もう聞き慣れた小言の後に、薬草の香りを纏った白衣が肩に掛けられる。

『・・・ふふっ。』

『なぁに?今日は機嫌が良いじゃないか。』

『ええ、とても気分が良いですよ。』

大王直属の補佐官の職を辞し、今は白澤の自宅で暮らしている。

気付けば、もう何億の年を重ねていた。

あまり認めたくないが、体力がすっかり衰えてしまったようだ。

故に、やむなく職を辞したのだ。

『さあ、もう中に入ろう・・・』

『あの、白澤さん・・・』

白澤の服の袖を引く。

『どうしたの?どこか痛い?』

『いいえ、違います。・・・貴方にお話があります。』

『改まってどうしたの?言ってごらん?』

座る私の目線に合わせて腰を屈めて、私の顔を覗き込んだ。

目の前の瞳が不思議そうに揺れていた。

『・・・白澤さん、私はもう先が長くないでしょう。』

『何・・・何を言うの?そんなこと・・・』

白澤の瞳が驚きに見開かれていく。

『白澤さん。いつかは、その時が来ると・・・貴方も分かっていたでしょう・・・?』

『・・・そう、だけど・・・。』

酷く悲しそうな顔をする白澤。

そんな彼に胸を締め付けられながら、目の前に広がる白百合たちに目をやる。

『この百合を見られなくなるのは・・・少し悲しいですね・・・』

『・・・鬼灯、そんなこと言わないでよ・・・』

『すみません・・・でも、避けて通れない事実だから・・・』

『うん・・・うん・・・、分かってるよ・・・っでも・・・!』

貴方は老いることの無い永久の存在。

私はいつかは老いて朽ち果て、終わりがある存在。

そんな2人が迎える結末は、私も彼もよく知っている。

私が消えたら、貴方は残される。

全て、覚悟の上でここまで愛し合ってきた。

『じゃあさ、この百合を花束に・・・っ』

『・・・白澤さん・・・私に、弔いの花束は要りません・・・。』

『え・・・、』

『この百合は天の貴方の庭にあった方がよく映えます。』

『そんな・・・っ鬼灯・・・っ!』

『それに・・・私の、この魂は消えません。・・・また生まれ変わって新たな生を受けるでしょう。』

『でも・・・ッでも・・・!』

肩に腕が回り、そのまま彼の胸の中へ引き寄せられる。

『白澤さん・・・』

耳元で啜り泣く声。

ああ、泣かせてしまった・・・

『・・・また、見に来ますから・・・ちゃんと、戻って来るから・・・だから、泣かないで・・・白澤さん・・・っ』

肩を揺らして泣く白澤を抱き締め返す。

腕がすっかり痩せてしまって、上手く力を込めることが出来ない。

『貴方を独りにはしません・・・必ず、貴方の元へ戻ります・・・。』

言っているうちに涙が込み上げてくる。

私の瞳を真っ直ぐ見つめる澄んだ黒の瞳。

もっとちゃんと美しい貴方を見たいのに、どうしても涙で視界が歪んでしまう。

私が幼かった頃から何も変わっていない貴方。

白百合のように高貴な容姿も、その優しい瞳も。

それに引き替え、私の身体は老いるままに痩せ衰え、歩くことも儘ならない。

それが悔しい、悲しくてならない。

神との違いをまざまざと見せつけられているようで。

・・・いくら悲しみ抗っても、その定めを変えることは出来ない。

分かっている、分かっているけど・・・

どうか・・・先の少ない老いぼれから、この幸せを取り上げないで。

・・・天は何と無常なのでしょう・・・

それでも、その無常な運命を受け入れたのは私だ。

顔を上げた拍子に、白澤と目が合う。

その瞳はいつものように美しく細められる。

しなやかな指が私の白い髪を梳く。

私の頬を止めど無く流れる涙を、彼の人差し指が掬い取っていく。

『・・・鬼灯、待ってるから。いつでも戻っておいで。また一緒にこの庭でこうやって話そう。・・・お願い、泣かないで・・・』

髪に、頬に、涙で濡れる目じりに口付けられる。

そして、もう一度抱き締めてくれた。

優しい表情を浮かべた白澤の姿と、その後ろに広がる数多の白百合たちが私が最期に見た光景だった。

波のように押し寄せる微睡みに任せて、彼の暖かな腕の中で目を閉じる。

またすぐに、貴方に会えることを願って。

白澤さん・・・、

こんなに老いた姿になっても、最期まで愛してくれて・・・ありがとうございます。

さようなら、また会いましょう。

・・・・・・私の、最愛の人。

















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