【短編】現代(白澤×鬼灯)

□弔いの花束
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そして、更に四千年の月日が流れた。

閻魔大王直属の補佐官としての日々を送っていた。

今日は休みだが、執務室に籠って筆を紙に走らせる。

一息吐こうと、筆を机に転がした時・・・

それを見計らったように執務室の扉を叩く音が三回。

『鬼灯、頼まれた薬持って来たよ〜』

扉の向こうから薬箱を持った白澤が現れた。

『ああ、どうもすみません。』

『それにしてもよく働くね〜お前今日休みだろ?』

『貴方と違って、仕事でもしてないと身体が鈍ってしまうんですよ。』

『何それ、僕が暇人みたいじゃん。』

『おや、違いましたか。それは失礼。』

彼が営む漢方薬局と閻魔殿との間で薬剤の取引をしている。

昔のように一緒に暮らすことは出来ないが、こうしてほぼ毎日、薬の配達と称して会いに来てくれる。

気付いた頃には、こんな他愛の無い言い合いをするような仲になっていた。

『お前の為にこうやって来てやってるんじゃないか。』

『・・・別に頼んでません。』

『ふーん、僕は毎日でも一緒に居たいよ。昔みたいにね。・・・お前は違うの?』

ほんの少し、表情を曇らせる白澤。

しかし、その仕草が業とだということを知っている。

『・・・・・・。』

全てを見透かしている黒の瞳が私を捉える。

『・・・そんなことを聞くなんて、意地が悪いですね。』

・・・逆らえる訳が無い。

降参、という意を込めて肩を竦める。

『嬉しいですよ、こうして会いに来てくださって・・・私だって、叶うことなら貴方と一緒に居たい。ですが・・・、』

『そうだよね、お前には此処で果たさなきゃいけない使命がある。・・・意地悪してごめんね。』

後ろから腕を回され、抱き締められた。

『大好きだよ。大事なお前が倒れないか心配なんだよ・・・』

『白澤さん・・・』

『ほら、こっち向いて?』

顎に指先が這い、こそばゆい。

されるがままに顔を傾けると、白澤の唇と己のそれが重なる。

柔らかくて暖かな感触が心地よくて、目を閉じる。

『はい、栄養補給完了。』

『またそんなことを・・・っ』

師として慕っていた白澤と恋仲の関係になったのは最近のこと。

それ以前は、何とももどかしい感情が胸の内を渦巻き続けていた。

白澤と一緒に居ると心の芯から安心できて、離れてしまうと途端に寂しくなってしまう。

そんな感情が何なのか分からなかったが、

その答えがやっと分かった。

これは恋なのだと。

幼い頃から兄のように慕ってきた人にこんな感情を抱いて良いのかと考えたこともあった。

でも、彼に全てを打ち明けた。

己の胸の内を白澤に話した時の彼の表情が忘れられない。

花が咲いたように、それは美しく微笑んでくれた。

優しく、抱き締めてくれた。

愛の言葉をたくさんくれた。

彼が触れれば触れるほど、私の心はぐずぐずに融かされてゆく。

『可愛い鬼灯・・・こっちおいで。』

言われるままに、彼の胸に身を預ける。

しなやかな指が私の髪を梳く。

静かな空間に流れる穏やかな時間が堪らなく好きだ。

ふと、何かに気付いた白澤が小さく声を上げる。

『その百合、部屋に持って来たんだね。』

『ええ、金魚草と一緒に植えておくより映えると思いまして。』

白澤の目の先には、小瓶に挿さる一輪の白百合。

『僕の家の庭に植えてあるのも元気に育ってるよ。立派な花束が出来そうだ。』

机の端に佇む小さな小瓶に目を向ける。

百合は幼い頃から好きだ。

穢れを知らない美しい白と、可憐な姿。

まるで、白澤のようだ。

この百合は、白澤のまじないで永遠に枯れることはない。

いつまでも気高く美しく咲き続ける。

『久しぶりに、貴方の家に行きたいです。』

『うん、待ってるよ。でもその前に、大王にねだって休みをもぎ取らないとね。』

『ええ、そうですね。』






























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