【短編】現代(白澤×鬼灯)

□弔いの花束
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幼くして、人間としての生を終え。

鬼としての生を再び受けて。

そして、

貴方に出会った。

天涯、消えることの無い永久の存在。

万人から崇められる高貴な神獣。

私の育ての親であり、・・・最愛の人。
























私が鬼として生れ落ちて間も無い頃、

『鬼灯、おはよう。もう起きたのかい?』

まだ眠い目をこすりながら扉を開ければ、柔らかな声が迎えてくれた。

『はくたくさま、おはようございます。早くお勉強がしたくて・・・』

『ふふっ、鬼灯は偉いね。こっちへおいで。』

側に行けば、いとも簡単に抱き上げられ暖かな腕の中へ。

『はくたくさま、今日は何のお勉強ですか?』

『今日は庭で花の勉強をしよう。この前、鬼灯が植えた百合が芽を出していたよ。』

『本当ですか?毎日ちゃんとお水を飲んでくれたのですね!』

嬉しさのあまり、しきりに身体を揺らすせいで、結っていない髪が乱れる。

その髪を大きな掌が優しく梳く。

『・・・お前が此処に来てくれて嬉しいよ。家族が出来たみたいだ。・・・僕はずっと一人だったから。』

ほんの少しだが、白澤の表情に影が落ちた気がした。

そんな彼の着物の袖を遠慮がちに握る。

『鬼灯がずっとずっと、はくたくさまの側に居ます!』

『・・・・・・ああ、そうしておくれ。大好きだよ、鬼灯。』

少しの沈黙の後、また優しく抱き締めてくれた。

直ぐ近くで感じる頬の温もりが心地よくて、安心する。

『白澤様。百合の芽、早く見たいです。』

『ああ、そうだね。一緒に見に行こうか。』



















それから、千年の時が流れた。

師である白澤の元で薬剤や政の教えを受ける日々を送っていた。

そんな時、

元は人間だった亡者が自ら閻魔大王となり、地獄の運営に動き出しているという話を耳にした。

そして、私の元にも人事登用に関する文が届いた。

『閻魔大王も唐突だよね〜地獄の運営の為にそこら中で鬼を集めてるらしいよ。』

『私にとっては、この上なく光栄なことです。そろそろ働き口を得たいと思っていたので。』

『・・・いよいよ、明日だね。』

『ええ、そうですね。』

白澤の自宅兼薬局で世話になっていた私だが、明日からは地獄の閻魔殿で住み込みで働く。

『お前が居なくなると寂しいな〜僕も地獄に行こうかな。』

『何を仰いますか。貴方は天界の神様でしょう?此処で任を全うしなければいけませんよ。』

『うん、分かったよ・・・』

子どものようにしょぼくれる白澤に小さく笑みを零す。

『永遠の別れじゃないんですから・・・会いに来ますよ、必ず。』

『・・・・・・うん、そうだね。僕も会いに行くよ。』

確かに、今まで当たり前のように側に居た人と離れて暮らすのは寂しい。

『・・・・・・。』

彼のことを心の底から、実の兄のように慕っている。

私の唯一の師であり、家族である。

しかし、

『・・・・・・。』

そんな彼に対して、尊敬とは少し違う感情をほんのりと抱き始めていた。

だが、まだまだ未熟な私はこの感情はどういうものなのかが理解できなかった。

この答えを知るのは、もう少し先のことだ。

『・・・白澤さん、庭の百合の手入れを任せても良いですか?』

『もちろん、任せてよ。』

























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