【短編】現代(白澤×鬼灯)

□花が散らない世界
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「天帝!」

豪奢な扉を大きな音と共に乱暴に開け放ち、長い廊下の先に居る天帝を見据える。

「・・・鬼灯。」

厳格な声音が部屋に木霊する。

「近くに来なさい。」

「・・・・・・。」

言われるまま、廊下を進み天帝の前に立つ。

「そなたが何用で此処に来たかは分かっておる。」

「天帝・・・!」

「あやつなら、地下におる。会いたいなら会って来るがよい。」

天帝の瞳は、苦痛で曇っているように見えた。

「・・・白澤はいずれああなることを、随分前から全てを悟っておった。・・・そなたには話さなかったのだな。」

「それは、どういうことです?!」

「そなたが恐れていたことが、起きてしまった。」

「・・・!」

私が恐れること。

それは、彼の身に災いが降りかかること以外何物でもない。

「そなたと永久の契りを交わした後、あやつは全神々の反感を買った。神と鬼が交わるなどあってはならない。
たとえ神でも厳罰に値すること。白澤は、そなたの知らぬところで罰を受け続け・・・遂にその罪を償いきったのだ。」

罰、だと・・・?

・・・何の?

想い合う者同士が契りを交わすことが罪だというのか。

「・・・赦されたはいいもの、あやつは・・・」

何だ・・・一体、彼はどうなってしまったのか・・・

「・・・私のまじないも、所詮は子ども騙しだったか・・・」

「そんな、そんな・・・っ」

掌の中で朽ちた花が乾いた音を立てる。

何も知らなかったのは・・・私だけだというのか?!

「私の・・・私のせいだ・・・」

「鬼灯・・・」

「この私のせいだと分かってはいますが・・・どうして、」

「いくらこの立場に立っている身であっても、他の神に干渉は出来ぬのだ。」

「・・・・・・。」

なんと無慈悲なのだろう。

いいや、天帝に詰め寄っても何にもならない。

とにかく、彼に会いに行かなければ・・・!

「ッ!」

天帝に背を向け、彼が居るという地下を目指す。

最悪の状況が脳裏をよぎる。

どうか・・・どうか・・・ッ

がむしゃらに走って、何とか地下へ辿り着いた。

「白澤さん!」

重苦しい鉄造りの扉を開け放つ。

外の光が差し込んだその先に彼は居た。

会いたくて堪らなかったその姿を見つけ、堪らず走り出す。

「白澤さん、白澤さん!!」

目の前の彼の姿はいつもと変わらない。

見慣れた中華服も白衣も、何もかもがいつもどおり。

だけど、

「白澤さん・・・どうして何も言わないのです?」

私がいくら呼びかけても返事がない。

それどころか、何かを探すように視線を泳がすばかり。

「まさか、貴方・・・目が・・・」

嫌な予感がして、彼の瞳を覗き込む。

「!!」

いつもは黒く澄み輝いていた瞳が、深い思い闇色に染まってしまっていた。

きっと、この瞳には何も映していないのだろう。

「白澤さん・・・私が見えないのですか・・・?私の声も、聞こえないのですか・・・?!」

白澤の様子を見ると、おそらく私の声も届いていないのだろう。

「どうして・・・どうしてです?!何故、貴方だけが・・・こんなッ!」

静かな地下室には、私の声だけが木霊する。

「・・・・・・白澤さん、私をからかっているなら怒りますよ・・・?」

この、あまりにも残酷すぎる現実から逃げようとしている自分が居た。

昨日まで、普通に話していた彼が今や糸が切れた人形のようだ。

「・・・・・・。」

今、目の前で起こっていることは悪い夢なのだ。

そう思いたかった。

・・・でも、逃げてはいけない。

彼を救う方法を考えなければ。

何かある筈だ。

地面にへたり込んだ身体を立たせ、そのまま背負う。

「・・・帰りましょう、ここは寒すぎますね。」

それから、どうやって桃源郷に戻ったかは覚えていない。


















「白澤さん。」

陽が傾き始め、美しい橙色に染まる庭先に白澤を連れ出す。。

「ほら、空気が澄んで気持ちがいいでしょう?」

「・・・。」

何も答えない白澤に溜め息を吐く。

彼の瞳は未だ何も映していない。

光の失せてしまった瞳で空を眺めている。

こんなに近くで鳥たちが囀っているのに、その声も聞こえていない。

無論、私の声だって・・・この人の耳に届いていない。

「・・・白澤さん、私を見てください・・・お願いです・・・」

彼がこうなった原因は私。

そんなことは誰よりも分かっている。

鬼の私に近付いたから、周りの神々の怒りを買ってしまった。

その怒りを私に打ち明けることもせず、全部一人で背負い込んで、こんな目に・・・

このことを知っているのは、閻魔大王と弟子の桃太郎だけだ。

身体が変わらず此処にあっても、心が欠けてしまっている。

私の大切な・・・唯一慕っているこの人は、今や・・・

痛々しい姿に、もう何度唇を噛み締めたことか。

「・・・必ず、助けて差し上げます。」

その昔・・・私は、この人に助けられたのだ。

今度は私が・・・・・・、

「白澤さん、貴方の大好きな花が庭いっぱいに咲いていますよ・・・見てごらんなさい・・・ほら・・・ッ・・・」

言葉を紡ぐ度に、唇が震えて視界がぼやける。

ついこの前まで、この庭で同じように花を見ていたのに・・・

「今年も綺麗に咲いてますね・・・けれど、また・・・散ってしまうのですね。」

風のって空へ舞いあがる色とりどりの花弁に目を奪われる。

『花は散るから美しい・・・そうは思わない?』

ふと蘇った白澤の言葉。

花が散っていくのも・・・儚い風情があって悪くありません。

ですが・・・、

「・・・花が永遠に散ることの無い世界があったら・・・その方が良いと思いませんか?」

橙色だった空が、だんだん重みを帯びた紺色へ変わっていく。

あぁ、また夜が押し寄せる。

暗くて、寒くて・・・怖い。

とっさに白澤の身体を抱き締める。

宵闇に彼を奪われてしまう・・・そんな気がして。

きっと、彼も暗闇の中で震えているのだろう。

早く、早く助け出さなければ。

決して抱き締め返してくれることの無い腕に、胸を締め付けられながらも、その背を頭を慈しみを込めて撫でた。


























うーん、なかなか完結しないなぁ←
あと1話で終わります(焦)
次回予告:鬼灯、白澤救出に奔走するの巻。
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