【短編】現代(白澤×鬼灯)

□花が散らない世界
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今日も目が回りそうなほど忙しい。

午前は裁判を黙々とこなして、午後は執務室に籠ってひたすら書類の整理。

その会議も漸く終わり、自室へ向かってる最中に懐の携帯が震えた。

「はい、」

「你好〜鬼灯、もう仕事終わった?」

「ええ、先ほど。」

「なら良かった。先週の注文分、全部揃ったから都合のいい時に取りに来て。」

声の主は、天国で薬局を営む白澤だった。

「ありがとうございます。午後から非番なので、これから伺っても構いませんか?」

「真是的・・・僕、これからすぐ宮殿に行かなきゃいけないんだ。」

「宮殿へ?」

「うん、天帝からの急な召集で内容はよく分からないけど。戻れるのが夜中になっちゃうんだ。」

「そう、ですか・・・」

折角、久し振りに一緒に居られると思ったが、天帝の命令なら仕方ない。

「ごめんね、桃タロー君に頼んでおいたから、確認だけしといてね。」

「ええ、分かりました。お気を付けて行って来てください。」

「うん、ありがと。」

通話を切り、溜め息を吐く。

また・・・会えないのですか?

その昔、私は師であり恋人である白澤の元を離れ、この地獄へ来た。

ここへ来てすぐは最下級の官吏として上官に追従し、主に雑用を任されていた。

仕事を割り当てられるようになると、白澤から与えられた膨大な知識を活かし、人手をはじめ、
経費や他国との外交などに対する打開策を思案しては実行し、滞りつつあった地獄の運営を円滑なものへと導いた。

その功績の甲斐あって、閻魔大王直属の補佐になることを許された。

同時に地獄の十王に認められ、地獄の鬼の中で最高格の鬼神の称号を得た。

そして、その閻魔大王直属の補佐になって既に四千年余り経つ。

携帯を握り締めたまま、もう一度溜め息を吐く。

前も、その前も彼に会えなかった。

文でのやり取りはあるのだが。

最後に会ったのは確か、半年前だ。

私は地獄で朝から晩まで働き、彼は薬局の店主をしながら天帝から受けた神としての命を全うしている。

互いに都合が合わないのは仕方ないと、十分心得ている。

彼の元を離れてだいぶ経つが、幸い、互いに災いに見舞われることなく過ごしている。

他でもない白澤が信じろと言ったのだ。

私はただ、彼の言葉を信じるだけ。

だが、最近白澤が頻繁に宮殿へ赴いていることが少し気になる。

こんな、何も無い筈の時期に・・・何故?

何か、良くないことが起ころうとしているのではないかと心配になってしまう。

・・・夜中には戻ると言っていたから、明日の朝には会えるだろうか。

出勤前に少しだけ桃源郷に寄ってみよう。

暇になってしまった午後に向けて、本棚を漁る。

書物を選びながらも、何となく嫌な感じが拭えない。

・・・きっと、考え過ぎだ。

明日になれば彼に会えるのだから。

そう自分に言い聞かせて寄せ集めた書物を開いた。















・・・結局、碌に眠れずに朝を迎えてしまった。

寝台から抜け出し、身支度もそこそこに自室を後にする。

天国と地獄を繋ぐ門を守る衛兵に断り、足早に門をくぐる。

無意識に歩幅が大きくなる。

何となく、急がなきゃいけないような気がして。

やっとの思いで見えてきた見覚えのある小さな家。

「・・・っ!」

気付いたら、走っていた。

この胸を駆ける焦燥感に駆られるように。

木造りの扉に手を掛け、力に任せて開け放った。

「わ!・・・あ、鬼灯さんでしたか。昨日いらっしゃらなかったので心配してたんすよ。」

「・・・あぁ、すみませんでした。ちょっと急用が出来まして・・・。それより、白澤さんはまだ帰っていないのですか?」

「ええ、夜中に戻ると言ってたんですが、まだみたいなんです。」

「・・・そう、ですか。」

やはり、宮殿で何かあったのでは・・・?

「あぁ、鬼灯さんに聞きたいことがありまして・・・。」

「何です?」

桃太郎が懐に手を入れて、何かを取り出した。

「これ、白澤様の部屋を掃除してたら出て来たんです。」

桃太郎の掌に載っていたのは、天帝から加護のまじないを受けたあの花飾りだった。

「・・・!」

「鬼灯さんも似た形の飾りをお持ちでしたよね?これは一体・・・」

それは間違いなく、白澤の花飾りだった。

だが、それは酷く枯れて今にも風にのって飛んで行ってしまいそうだった。

しばらく見ていないと思ったら・・・・・・。

胸の内で渦巻いていた不安が大きく、より確かなものになる。

「・・・桃太郎さん。これ、お借りしてもよろしいですか?」

「え?あぁ、どうぞ。」

桃太郎から、朽ちた花飾りを受け取る。

嫌な予感しかしない。

天帝の加護を受けた花が枯れるなんて。

「・・・すみませんが、急用が出来たと大王にお伝えください。」

状況が飲み込めないでいる桃太郎にそう告げ、極楽満月を飛び出す。

何か・・・何かあったのだ。

とにかく、白澤が居るであろう宮殿へ行かなければ。

しかし、自分だけでは宮殿に行くことは出来ない。

「・・・・・・。」

・・・麒麟殿なら・・・

白澤の旧友である麒麟に頼めば、宮殿まで連れて行ってくれるかもしれない。

逸る気持ちを抑えながら麒麟が棲む桃源郷のはずれへ急いだ。

「・・・鬼灯殿か。如何した?」

「・・・っ・・・私を天界の宮殿へお連れ下さい。」

「・・・・・・何用で宮殿へ?」

いつになく鋭い眼光が私を貫く。

「白澤さんを迎えに行かなければ・・・お願いです、私を宮殿へ・・・!」

「・・・・・・乗れ。」

少しの沈黙の後、麒麟は人型から本来の姿へ戻った。

「・・・感謝します。」

「・・・鬼灯殿、自分の目で確かめられるがよい。」

「・・・・・・・・・。」

何もかもを悟っているような口ぶり。

不安がより一層大きくなる。

何か、とてつもなく恐ろしいことが起こっている。

そんな気がした。

「さあ、着いたぞ。」

「無理を言いました。ありがとうございます。」

「・・・・・・。」

私を降ろした麒麟は何も言わずに去ってしまった。

目の前に聳え立つ、大きな階段を上がっていく。

私の姿を見つけた衛兵はすぐさま走り寄って来た。

「鬼灯殿?!宮殿に何のご用です?」

「説明している暇はありません!お通しください・・・早く!!」

門の前に立つ衛兵を押し退け、走り出す。

「鬼灯殿!」

天帝なら、何か知っている筈だ。

ただただ、白澤の無事を祈って、天帝が居る玉座の間へ向かった。
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