【短編】現代(白澤×鬼灯)

□花かんむり
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・・・・・・しかし、そんな願いも叶わぬまま、私は奈落の底へ突き落とされた。

雨が全く降らなくて、村が枯渇に喘ぎ始めた頃・・・

雨乞いの儀式を行わなければ村が滅んでしまう・・・

そんな話を耳にした。

儀式を行うには、神へ捧げる生贄が必要なんだとか・・・

真っ先に選ばれたのは、身寄りの無い私だった。

・・・・・・・・・。

・・・そうですよね、

私がこの世から居なくなったって、誰も悲しまない。

寧ろ、村人たちは清々するだろう。

「・・・・・・。」

怖いとか、嫌だとか様々な感情が渦巻いていたが・・・

気付いた時には、首を縦に振っていた。

そして、その夜。

絹で織られた着物に袖を通し、髪を綺麗に結ってもらう。

こんな綺麗な格好をしたのは生まれて初めて。

でも、全然嬉しくない。

死へ向かう準備をしているだけなのだから。

大人たちに言われるが儘、あっという間に櫓の上へ。

もうすぐ私は死ぬ。

怖いけど、不思議と涙は出なかった。

恐怖や悲しさよりも、妙な安心感が心を満たしていた。

この孤独から解放されるのなら、死ぬのも悪くないのかも。

何も思い残すことは無い、そう思っていた。

思っていたけど・・・

「・・・・・・。」

浮かぶのは、あの人の顔。

もう一度、会いに行けば良かった。

私がつまらない意地を張っていたばかりに。

作りかけの花冠を握り締める。

視界が揺らぎ始め、体が傾く。

さっき飲んだ酒の中に遅効性の毒が入っていたようだ。

身体中が痛い・・・眠い・・・

このまま目を閉じれば、楽になるのだろうか?

でも、この目を閉じてしまったら・・・

二度と、あの人の姿を見られないかもしれない。

もう少し我慢すれば、もしかしたら・・・

彼が会いに来てくれるかもしれない、なんて勝手な願望が生まれる。

お願い、会いに来て・・・・・・

倦怠感と悪寒に耐えていたとき。

空気が動くのを感じた。

「・・・?」

強い風が巻き起こり、目を閉じる。

「わ・・・っ!」

目を開けると、目の前には会いたくて堪らなかった白澤の姿があった。

「しんじゅ・・・さま?」

「・・・大丈夫?」

「何だ、あいつ・・・どこから・・・」

ざわめく村人たちを振り返る。

「ねえ、君たち・・・何してるの?」

「・・・何って、雨乞いだよ。」

「兄さん、宮廷育ちかい?だったら知らなくても無理ねぇな。」

白澤の正体を知らない村人たちは、彼に食って掛かる。

村人たちの話を聞く白澤の表情はいつもと変わらない人当たりのよさそうなものだったが、妙な違和感があった。

目が、声が笑っていなかった。

無に近いそれらは冷たさ、恐怖をも感じさせるものだった。

「・・・この子は?」

「生贄だよ。こんなのが生贄で神様は願い聞いてくれるのかねぇ。」

「ま、こいつしか居なかったから仕方ないな。」

「卑しい身分に対する天罰だよ、天罰。」

「・・・・・そう、」

何の前触れもなく、地が割れた。

あんなに晴れていたのに、一瞬で辺りが闇に包まれた。

「ぁ・・・」

いつもは優しい光を宿している瞳は、鋭い金色を宿して村人たちを睨みつけている。

額には血のように赤い眼が刻まれ、同じく彼らを射抜かんばかりに睨みつける。

少しでも気に障ったら殺されそうな程の殺気を纏っている。

見たことない白澤の姿に、身が竦むのが分かった。

辺りの空気が張りつめて、痛いくらい。

「な、なんだお前!!」

「目が、3つ・・・?」

人間ではないその姿を見た村人たちは声を上ずらせ、腰を抜かしていた。

そんな彼らを余所に、怒りに満ち満ちた表情で彼らを見下ろす。

どうしよう・・・物凄く怒ってる。

震える腕を精一杯伸ばして、彼の着物の裾を引く。

「待って・・・待ってください!私が悪いんです!」

喉が痛むのを堪えて、声を絞り出す。

「・・・君が何をしたっていうの?」

「・・・・・・。」

朦朧とする意識を何とか繋ぎ止める。

ちゃんと言わなきゃ・・・

「神獣様・・・私、孤児なんです・・・」

「!」

やっと、やっと言えた。

私の方を振り返った彼。

その姿が、顔が涙で歪んで見える。

「隠していてごめんなさい。貴方に嫌われたくなくて・・・」

「嫌うなんて、そんな・・・っ!」

腕を引かれて、その胸の中に抱き込まれた。

よく知った良い香りに安心する。

これから死ぬというのに、不思議だ。

「どうして、どうして君がこんな目に・・・」

「丁は・・・、丁は孤児だから・・・良いのです。」

全ては、私自身が招いたこと。

だから・・・良いのだ。

「そんなこと・・・っ!」

彼の声が涙声になったのが分かった。

嗚呼、私の為に泣いてくれるのですね・・・

なんて優しい神様なのだろうか。

こんな、出来損ないの私の為に・・・

霞む視界に花が映った。

「・・・これ・・・お父さんもお母さんも居ないから・・・練習出来なかったし、全部作れなかった・・・ごめんなさい・・・」

作りかけの、かなり歪な形の花冠を白澤へ差し出す。

「っ・・・」

更に強く抱き締められ、背をさすられる。

「・・・・・・僕とおいで。大丈夫、痛くも苦しくもないよ。少し眠るだけ・・・」

死んでも、また貴方に会えるの・・・?

少し寝るだけでいいの・・・?

「起きたら、この花冠・・・一緒に完成させようね。」

花冠を持った手に彼の温かい大きな手が重ねられる。

「は・・・、ぃ・・・」

眠くて眠くて仕方ない。

もう、目を閉じても良いでしょうか・・・?

・・・良いですよね。

約束、してくれましたものね。

目覚めた先に、貴方が居ることを願って。

「おやすみ。」

唇に、温かいものが少しだけ触れた。

初めて感じる心地良さに身を任せて目を閉じた。














































朦朧とする意識の中で聞こえてくるのは、白澤の声。

「愚か者共が・・・雨乞いなんてしても雨は降らない・・・何の罪もない子を痛めつけて、苦しめて・・・許されると思っているのか?」

それは、私を死に追いやった村人たちへのものだった。

「天罰を受けるに値するのはお前たちの方だ・・・神の怒りに触れたらどうなるか・・・その身を以って思い知れ!」

氷のように冷たい声とは裏腹に、私を抱くその腕は、限りなく優しいものだった。

最期に聞こえたのは、断末魔と肉が裂ける音、血が滴る音・・・そして、獣の雄叫びだった。

いのちを呼び起こすことも出来れば、その芽を刈り取ってしまうことも出来る。

美しく、時に残虐に・・・

・・・それが、神様の姿なのでしょうね。






































中途半端ですが、ここでブッタ切りますw

今回は、白澤さんに暴れて頂きました。←

『花』がテーマな筈なのに、血表現ありの死ネタありので、本当にすみません(泣)

少し長めのお話になる(予定w)なので、お付き合いいただける方がいらっしゃいましたら、どうぞよろしくお願い致します!笑
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