【短編】現代(白澤×鬼灯)

□花かんむり
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私の名前は、丁。

物思いがつく前に両親から捨てられ、この村に流れ着いた。

村の皆は、私が孤児だと分かった途端に目の色を変えた。

『丁』という蔑みの意を持つ名を与えられ、肩身の狭い毎日を送っている。

誰も話し掛けてくれない。

誰も遊んでくれない。

孤独な日々に耐え兼ねていたそんなある日、私は大人たちの目を盗んで村を抜け出し、ある場所へ向かっていた。

「神獣様、神獣様!」

村から少し離れた湖の畔。

綺麗に咲き誇る花畑の中に、その人は居た。

「やあ、また来たのかい?」

美しい漢服を翻してこちらを振り返り、柔らかい笑みを浮かべる彼。

この人は、中国の天界に棲む神獣白澤。

訳あって、この現世に降りているという。

唯一、私の目を見て話してくれる人。

「こっちへおいで。また一緒に話そう。」

「はい!」

色とりどりの花をかき分けて、手招きする白澤のもとへ向かう。

「この前来た時はこんなに咲いていなかったのに・・・いつの間に・・・」

森の中に位置しているこの場所は、日の光があまり届かず春なのにも拘らず、申し訳程度にしか花が咲かないのだ。

それが、今日はこんなにも。

今までこんなことがあっただろうか。

「この辺りは日当たりが悪かったから、ちょっと手伝ってあげたんだ〜」

「え?」

「見てて〜それっ!」

白澤が天に向かって手を翳すと暖かい風がどこからか吹いてきた。

「さぁ、もう春だよ!みんな起きて〜」

その風に合わせて踊るように美しく回る姿に目を奪われる。

「わ・・・」

小さかった花畑がみるみる広がり、その美しさを増していく。

風が止んだかと思ったら、辺り一面に綺麗な花が咲き乱れていた。

「ほら、綺麗になった。」

「すごい・・・すごいです!」

神の力を目の当たりにして、背筋が震えるのが分かった。

眠っているいのちを優しく揺り起こして目覚めさせる。

流石、慶びの象徴と言われる神様だ。

「うん、いい感じ。」

一輪の花を手に取って、満足そうに笑う白澤。

その顔は何処までも神々しいものだった。

「ねえ、花冠は編んだことあるかい?」

「え・・・いいえ。」

花冠なんて、女子のものだと思っていたからもちろん編み方なんて知らない。

「じゃあ、教えてあげるよ。」

「はい、是非。」

再び、花畑の中に座り込む白澤に倣って自分も座る。

花が更に近付き、甘い香りが鼻を擽った。

「君には白い花が似合いそうだね。」

そう言いながら、白く小ぶりな花を摘んでいく。

「こんなもんかな。さ、ここに座って。」

優しく抱き上げられて、膝の上に乗せられる。

「途中まで編んでみるから見ててね。」

花弁を潰してしまわないように気を遣いながら、茎を編み込んでいく。

しなやかな手つきに食い入るように魅入ってしまう。

「ここから一緒にやってみようか。」

「はい、えっと・・・えっと・・・」

迷う私の手を上から包み込んで先導してくれる。

「こっちを上にして、強めに巻いて・・・そうそう、上手だね。」

殆どを白澤に手伝ってもらいながら、何とか花冠を編み上げた。

「ね、覚えちゃえば簡単そうでしょ?」

「はい!もっともっと練習して、綺麗に出来たら神獣様に差し上げます!」

「うん、楽しみにしてるね。」

彼は笑いながら、編んだばかりの花冠を私の頭に乗せた。

「やっぱり君には白い花がよく似合うね。可愛いよ。」

「あ、ありがとうございます。」

男が花冠を乗せられて可愛いと言われても嬉しくない筈だが、彼にそういわれると嬉しく感じてしまう。

「夏までは咲き続ける筈だから、お父さんとお母さんと一緒に練習するといいよ。」

「あ・・・そう、ですね。」

お父さん・お母さん。

その二つの言葉を聞いた途端、背筋に嫌な寒さが駆け抜ける。

「・・・・・・。」

「どうしたの?」

顔色が変わったのを悟られたのか、心配そうな表情を見せる彼。

「あの、何でもありません。すみません、今日はもう帰ります・・・」

「・・・?分かったよ、また遊びにおいで。」

気付いたら足が動いていた。

彼から逃げるように、走っていた。

親に捨てられる程惨めなことは無い。

常識も教養も無くて・・・

孤児は皆から疎まれる存在。

罰せられるべき存在。

誰もがそう思っているこの時代。

彼は神様だ。

私が孤児だと知ったら、どんな顔をするだろうか。

もう会ってくれないかもしれない。

そんなの、嫌だ。

彼にだけは嫌われたくない。

唯一、私と話してくれる彼にだけは・・・

そんな思いで、隠していた。

・・・少しだけ、時間を置こう。

その間に花冠を練習をして、上手に出来るようになったら会いに行こう。

それで、一番上手に出来た花冠を贈ろう。

そう思いながら、彼がくれた花冠を握り締めた。






























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