【短編】現代(白澤×鬼灯)

□月のような貴方。
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そこには満天の星と、大きな満月。

地獄から見る月と、ここから見る月はこうも美しさが違うものなのか。

あの時のように、湖の畔に腰を下ろす。

「わ、本当に綺麗だね。」

「ええ・・・、」

私のすぐ隣に座って、

その目はとても綺麗に輝いていた。

「・・・・・・。」

思わず見とれていると、こちらを向いた彼の瞳と視線が絡んだ。

柔らかく細められた目と、綺麗な弧を描く唇。

そして、伸ばされる腕。

「・・・大きくなったね。」

「!」

突然の言葉に驚いた。

「また、こうやってお前と月が見れて嬉しいよ。」

ふいに、髪を撫でられる。

その手の大きさ、温かさは昔のままだ。

この人は、何も変わっていない。

あの空に浮かぶ月のように。

「・・・私もです。」

髪に触れる手を握り込む。

「白澤さん・・・何も言わずに聞いてください。」

「うん、」

白澤は真っ直ぐこちらを見て頷いてくれた。

「我儘だと分かっていても・・・貴方に会いたくて、話したくて仕方ない。今、こうしていられるのが堪らなく嬉しいんです・・・」

幼い頃は当たり前のように、ずっとそばに居てくれたこの人。

でも、私が大人になってからは・・・

気付いたら、貴方が側から居なくなっていた。

「月は、永遠に手に入らないものだと分かりました。でも、貴方が月のような存在だと思うのは・・・今でも変わりません。」

昔は、大人になれば月を取ることが出来る・・・そう信じていた。

でも、

大人になって空に向かって手を伸ばしても、月には届かない。

それは、近くに見える水面に映る月でも同じこと。

昔、私が貴方を月に例えたのはあながち間違いではなかったですね。

誰のものでもない神。

どんなに近くにいても、掴み取ることは叶わない。

それでも、私は・・・

やっと分かった。

この胸の痛みの正体。

「貴方が・・・好きなんです。」

気付いたら、唇から零れていた言葉。

幼い頃から抱き続けてきたこの想い。

白澤のことを考える度に胸が締め付けられていた。

胸の中で燃え盛る鬼火がどんどん熱を上げていた。

でも、この感情がどんなものなのか分からなかった。

幼かったからか・・・

それとも、愛に飢えていたからか・・・

・・・おそらく、後者だろう。

でも、やっと気付いた。

兄のように慕ってきたこの人が、好きなんだと。

あの胸の痛みは、自分が白澤の足元にも及ばないこと、子どもだから相手にされる筈が無いことを悟ってしまっていたから。

そんなこと分かってる。

でも、好きなのだ・・・

拒否されたって構わない。

「どうしたら・・・もっと貴方に近づけますか・・・?」

「鬼灯・・・」

「どうか、教えてください・・・あの時みたいに。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

お互いに黙りこくってしまった。

お願い、何か言って・・・

「・・・僕も、同じ気持ちだよ。」

「!!」

「僕もお前が好き。ずっと、ずっと前から・・・」

白澤の口から紡がれた言葉に目を見開く。

ふいに手を取られ、両手で握り込まれる。

「本当、ですか・・・?」

握られた手と、白澤の顔を交互に見る。

「本当だよ。もっと、早く伝えたかったけど・・・出来なかった。」

「え・・・」

「お前はどんどん成長して、大人になって・・・この桃源郷を出て行った・・・もう、昔みたいにこの手で頭を撫でてあげたり、
抱き締めることは無いのかなって・・・少し、怖くなったんだ。」

「・・・白澤さん・・・」

「いっそのこと・・・お前をこの腕に閉じ込めてしまえばいいと思ったけど、そんな一方的な愛情で縛り付けたって、お前は喜ばない・・・そう思ったんだ。」

そんな・・・

この人も、私を想って悩んでいたというのか・・・

私と同じように・・・

こんな、高貴な気高い神様が、私のことを・・・

「私などが隣に立ったら、貴方が・・・」

言いかけたとき、人差し指で制された。

「黙って。釣り合いとか、そんなの関係無い。僕はお前がいいの。」

そう言う白澤の瞳は力強く、でも美しく光っていた。

まるで、月がそのまま彼の瞳に宿ったよう・・・

「・・・お互い同じ気持ちだったんだね。良かった・・・」

「・・・。」

白澤は、空を見上げて綺麗に微笑んでいた。

私はというと、何だか急に恥ずかしさが込み上げてきて、まともに白澤の顔を見ることが出来ない。

「子どもだからって・・・ずっと耐えてきたけど・・・気付いたら、もうお前は立派な大人になってたね。」

月光を背にした白澤がこちらを見つめている。

「あの・・・、」

「ねえ、鬼灯・・・教えてあげる。」

強い力で腰を引き寄せられ、その胸の中に抱き込まれる。

「白澤さ・・・」

「僕にもっと近付きたいなら・・・」

熱っぽい声で耳元で囁かれる。

腰や背中に甘い痺れが走った。

「その身も、その心に宿る鬼火も・・・全部差し出して・・・僕【神】のものになればいいんだよ・・・。」

「貴方の、ものに・・・?」

「そう・・・、どうする?鬼灯・・・」

答えなんて決まっている。

白澤の首に腕を回し、耳元に唇を寄せる。

「私を、貴方のものにしてください・・・」

触れられなかった時間を埋めて欲しい。

身体は大人になったが、まだまだ知らないことは山ほどある。

「もちろん・・・もっと、もっと教えてあげる。」

この日の夜、子どもの頃から抱き続けてきた想いを通わせることが出来た。

「鬼灯、こっち向いて・・・」

「?」

言われるが儘、顔を上げると視線が絡み合う。

顎を捉えられて、そのまま・・・、

唇に触れる柔らかい感触。

気持ちいい・・・温かい・・・

初めて感じる心地良さに身を任せて目を閉じた。










































恒例の無理やり完結!

白澤さん、狂気じみてて笑った。(笑笑笑)

『気付かないうちにお互い両想い』というベッタベタな終わり方にお付き合いいただきまして、ありがとうございました(笑)

久しぶりに砂糖吐くほどの甘々なやつ書いたから胸やけが・・・(殴)

お二人には幸せでいてほしいんです!!←
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