【短編】現代(白澤×鬼灯)

□好き、嫌い、好き、好き。
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・・・見つけた。

やっぱり、ここに居た。

初めてあの子に会った桃源郷の丘。

彼の両親が眠るこの場所。

墓前で膝を折り、肩を振るわせて泣いていた。

「父様・・・母様・・・っ・・・」

嗚咽と共に漏れる縋り付くような弱弱しい声。

その姿は、四千年前にここで啜り泣いていたあの幼子のそれだった。

何て声を掛けていいか分からない。

けど・・・、

「ほおずき・・・」

「!!」

突然、名を呼ばれ弾かれたように振り返った。

雨で着物と髪は濡れ、頬には幾筋の涙。

僕をその目に移した瞬間、苦しそうな悲しそうな表情へ変わる。

「何です・・・わざわざ嘲りに来たんですか?・・・貴方も暇ですね。」

口ぶりはいつもと変わらないが、その瞳からは絶えず涙が流れている。

「もう帰ろう・・・風邪引くよ。」

痛々しいその姿を見ていられなくて、震える手首を掴む。

「触るな・・・ッ!」

振り解こうとするが、力が入らないのか叶わない。

泣きながら弱々しく身を捩るだけ。

掴んだ手首を引き寄せて、その身を抱き込む。

「はなせ・・・ッ」

「離さない。」

自分でも信じられなかった。

ついさっきまで嫌悪していた鬼をこうも簡単に抱き締められるなんて。

肩と腰に回した腕に力を込める。

今にも崩れ落ちそうな身体を支えるように。

「やめて・・・離・・・」

「あの子たちに聞いたよ。・・・お前だったんだね、あの時の子・・・」

「・・・!今更・・・何を・・・っ!」

「鬼灯・・・」

「私はずっと信じてた・・・なのに貴方は何もかも忘れて・・・」

「うん・・・ごめん、ごめんね・・・」

鬼灯の言葉が胸の奥の奥まで突き刺さる。

僕のことを信じて前だけをを見つめていた鬼灯。

それを、いとも簡単に忘れて裏切った僕。

言葉で、態度でこの子の心に深い傷を負わせてしまった。

誰でもない、この僕が・・・、

この四千年もの間、一人で苦しんで泣いていた。

濡れる頬に指を這わすが、振り払われる。

「ほおず・・・」

「気安く呼ぶな・・・!私が嫌いなんでしょう・・・?」

違う、違うんだ。

嫌いなんかじゃないよ、

出会ったあの日から、僕は・・・、

気付いたら、お前を目で追っていた。

気付いたら、お前と会うのが嬉しいって思ってた。

気付いたら・・・、

お前に恋していた。

想いから目を逸らし過ぎていたんだ。

僕が幼稚だから、

僕が愚かだから、

僕が・・・、

素直にならなかったばかりに・・・。

・・・だから、

「好きだよ、」

「!?」

もう、誤魔化さない。

これ以上偽り続けても、お前を傷つけるだけだって分かった。

「いっぱい傷つけてごめんね・・・好きなんだ、お前が・・・ずっと前から。」

「そんな・・・そんな偽りの優しさなんて、いらない・・・!好きなどと・・・嘘でからかうのはいい加減にしてください!!」

「嘘じゃない!嘘じゃないよ・・・」

涙の跡が幾筋も残る頬に手をかける。

「あの時と同じ瞳だね・・・もっと、お前のことを見ていれば気付けた筈なのに・・・ごめんね・・・」

吸い込まれそうなほどに澄んだ双つの黒い瞳を見つめる。

しかし、直ぐに逸らされてしまう。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

雨音が妙に大きく聞こえる。

このまま突き放してくれれば良い。

受け入れてもらえるなんて、許してもらえるなんて思っていない。

少しの沈黙の後、鬼灯が口を開く。

「・・・・・・貴方の前から消えればこれ以上苦しまなくてもいいと思ったのに・・・」

震える唇から紡ぎ出される消え入りそうな言葉。

「私は・・・私は、幼いながらも貴方に惹かれていました・・・父と母以外で私を抱き締めてくれた貴方に・・・」

「貴方と再び会うことがあったら、この想いを告げようと思っていました。でも・・・、
貴方は変わってしまった。私のことなど綺麗に忘れて・・・もう、私の知る昔の貴方ではなかった。」

「嫌われていても構わない、仕事上でも今の関係がいつまでも続いて欲しい・・・そう願っていました。
・・・・・・父と母も亡くして・・・貴方までも失ってしまうと思うと・・・怖くて・・・、」

何も言えなかった。

痛みに、苦しみに耐えながら隠してきた想いを並べられて気付いた。

僕は、信じられない程この子の想いを、心を切り裂いてきたんだ。

迸る悲鳴に気付かずに・・・、

想いを寄せる相手から虐げられれば耐え難い苦痛となるのに。

次々と暴かれていく僕の過ち。

昔から積み重ねてきた過ちが今になって全て返ってきたんだ。

自分の愚かさに吐き気がする。

「嫌いになれるものならそうしたかった・・・!でも、出来なかった・・・貴方が・・・私のお慕いする唯一の神様だから・・・ッ!」

「ほ・・・、ずき・・・」

気付いたら、目の前の体を掻き抱いていた。

壊れそうになるほど傷つけられたのに・・・

泣くほど酷い目に遭ったのに・・・

それなのに・・・、

「ごめん・・・ごめんね・・・」

「もう、いいです・・・思い出していただけたみたいですし・・・」

強がる彼の腰に回した腕が震える。

「お願い、どこにも行かないで・・・」

「・・・全く、勝手な人ですね。それは今後の貴方次第ですよ。」

でも・・・、と続ける。

「そういう勝手な所は、神様らしくて好きですよ。」

少し躊躇いがちに首に回された腕。

やっと感じられた鬼灯の温もり。

あたたかい・・・、

「ねぇ、今直ぐにとは言わないから・・・お前の心・・・僕に治させて・・・」

「当然です・・・・・・、もう・・・あんな思いは御免ですからね・・・。」

「うん・・・、うん・・・!」

「はくたくさん・・・、」

肩を軽く押されて身体が離れる。

仄かに頬を染めた鬼灯がこちらを見つめている。

「墓守り・・・ありがとうございます。神様に守ってもらえて、父も母も喜んでいると思います。これからは・・・・・・」

「二人で来よう。」

鬼灯の言葉を遮る。

少し驚いた表情を浮かべていたが、直ぐに安堵に目を細め、頷いた。

「・・・雨、止みましたね。」

「うん、帰ろうか。」

四千年前に出会ったこの場所で、全てを知った。

お互い、隠していることを、我慢していたことを曝け出して。

なんて皮肉で運命的なのだろう。

誰も知ることのない・・・二人だけの、
























無理やり両想いにして、無理やり完結(笑)
ひたすらヘタレでみっともない白澤さんでした。
お付き合いくださった方、ありがとうございました♪
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