【短編】現代(白澤×鬼灯)

□好き、嫌い、好き、好き。
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「はぁ〜暇だな〜〜」

「暇って・・・地獄からの発注、まだ手付けてないじゃないですか。」

桃タローくんの小言を聞き流して、作業途中の乳鉢の中身を眺める。

なんだろ、最近頭の中がもやもやする。

もう、どれくらい前のことだったかな。

桃源郷で鬼の子に会ったんだ。

桃源郷に鬼がいるなんてそうそうないからよく覚えてる。

両親を目の前で殺されて、そのまま自分も殺されたんだって。

いつも泣いてて、見ていて胸が締め付けられた。

あの子、僕に言ったんだ。

奈落に突き落としたのは運命を司る神なんだって。

だから、神様が嫌いなんだって。

憎くて憎くて仕方ないんだって・・・。

死を纏う残酷な神だって存在する。

その神に魅入られてしまったら、死から逃れることは出来ない。

だから、神を否定する者を咎めはしない。

僕が神だということを告げると、驚きはしていたが敵意を見せるようなことはしなかった。

彼はこう言った。

『私、貴方なら好きになれる気がします。』

正直、驚いた。

大嫌いと言っていた神に心を開いてくれた。

澄んだ心を持った強い子だ、素直にそう思った。

でも、いつの間にか全く姿を見なくなってしまった。

・・・あの子、どうしてるかな。

あの子が残していった二つの墓。

もちろん、今でもちゃんと花を手向けに行ってるよ。

あの子が一人で泣いてる姿を数え切れないほど見た。

決して蔑ろにしちゃいけないと思うんだ。

何て言うか・・・

この子との出会いは一時的なものじゃない。

この先も、この子とは何かで繋がっていく・・・

そんな気がしたのだ。

・・・けれど、この何千年の間彼の姿を見ていないのは事実だ。

只でさえ落ち着かないのに、

あいつを目に映す度に、僕の心は掻き乱される。

目つきも言葉使いも態度悪いしで最悪な奴の筈なのに・・・

嫌いなら拒絶すればいいのに。

それが出来ない。

どうしてだろう・・・・・・

「・・・・・・。」

これって、もしかして・・・

僕が、あいつを・・・、

いや、

いやいや、

そんなこと有り得ない。

これ以上考えちゃ駄目だ・・・

・・・ちょっと出てこよう。

「桃タロー君、僕ちょっと出かけてくるから先に寝てて。」

弟子にそれだけ告げて店を出た。






























「あ。」

「あ。」

声が重なる。

目の前には黒の着物を纏った鬼。

「・・・。」

「・・・。」

ついさっきまで僕を悩ませていた張本人。

鋭い目つきでこちらを睨んでいる。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

出会ったばかりの頃は愛想の良い奴だと思ってたけど、それは本当に最初だけだった。

暴力的で口が悪い。

どんな教育受けたらそんな風に育つんだよ。

考えれば考えるほど腹が立つ。

でも時々、

僕を見て何故か切なそうに、苦しそうに顔を歪めることがある。

何でそんな顔するんだよ。

気味が悪い。

僕は男に対して興味の欠片も無い。

別にこいつが何を考えていようが知ったこっちゃない。

けど・・・、何も感じないって言えば嘘になる。

「何でお前が居んの?」

「仕事が定時で終わったから飲みに来たのですよ。貴方はどうせ花街帰りでしょう?」

失礼な奴だ、本当に。

「僕が何処で何しようが僕の勝手だろ。久しぶりに一人で飲もうと思ったのに台無しだよ。」

「・・・では店に戻って仕事したらいかがです?貴方のことです、今日だって碌に働いていないのでしょう?」

嘲るような言い方。

気は長い方だが、もう限界だ。

「お前さぁ、本っ当に失礼だよね!親から教育受けて無いわけ?」

一瞬、目の前の鬼の表情が強張ったような気がした。

「何、図星?どうやったらこんな捻くれ者に育つのか、お前の親に聞いてみたいね。」

「・・・・・・。」

暫く黙りこくっていた奴はゆらりと立ち上がり、こちらを振り向く。

「白澤さん、」

「あ?」

また、あの苦しそうな表情を浮かべている。

さっきまでの威勢はどこへやら。

「気分を害してしまってすみません。もう金輪際、貴方には近付きません。薬も、もう結構です。地獄にも薬師を置く予定ですので。」

それだけ言って店を出て行った。

・・・・・・。

何だ・・・、この感じは。

『貴方には近付きません。』

その言葉が鼓膜に触れた途端、

胸が焼け付く感覚。

奥深くが抉られるような・・・そんな痛み。

どうして、

丁度良いじゃないか。

『待って、行かないで。』

もう、あいつの顔を見なくて済むんだ。

清々する・・・そうだろう?

『追いかけなきゃ・・・』

自分の脳裏でもう一つの声が響く。

いいんだ、これで。

そう自分に言い聞かせていたとき、

「・・・白澤様。」

氷のように冷たい声音が背中を撫ぜる。

背後からの声に振り返ると、あいつの幼馴染だという二人が冷たい表情を浮かべて立っていた。

「何、どうし・・・」

「いくら神様でも言っていいことと悪いことがあるっすよ。」

僕の言葉を遮って口を開いた金髪の鬼。

さっきまでだらしなく寝転がっていたのに。

「烏頭君と蓬君・・・だっけ?僕は思ったことをそのまま言っただけだよ。あそこまで捻くれてたら流石に怒れてくるよ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

苦しそうな、悲しそうな表情の二人。

何だよ、どうしたんだよ。

そんなにあいつを庇いたいのか?

「あいつ、鬼灯には親が居ないんです。子どもの頃に住んでいた村が襲撃されて、親を目の前で殺されたんです。」

「そのまま自分も殺されて、言いようのない怒りと悲しみに支配されて、気付いたら鬼になってて・・・。」

「ずっと、彷徨い続けて父親と母親を探していたんだ。でも、どれだけ探しても見つからなかった。」

「せめて形を残したい、そう思って桃源郷に墓を立てて毎日のように世話しに行ってた。見てられなかったよ・・・友達なのに何もしてやれなかった。
地獄で働き始めてからは仕事が立て込んでて碌に墓参り行ってねぇけど、あいつ・・・いつも窓から祈ってた。」

「・・・・・・」

口を挟む間すら与えてくれなかった。

次々と並べられていく鬼灯の過去。

それは、並みの人のそれではなく、酷く無残で悲しいものだった。

「白澤様は鬼灯のことを何も知らないんです。」

「・・・何かを教えてもらいたくても、親が居ないから叶わなかったんだ。」

「あんな酷いこと・・・、ずっと抱えてきた傷を抉って侮辱して・・・許せない・・・」

「鬼灯は・・・神は残酷だって言ってたけど・・・本当だな。あいつが神を忌み嫌う理由が分かったよ。」

ちょっと、待て・・・

親を殺され、その強すぎる恨みで鬼となった幼子。

行方が分からない両親の墓を立てて、一心に祈り続けた哀れな子。

「・・・!」

大昔に出会ったあの子とたった今走り去ったあいつが一致した。

まさか・・・いや、そんな筈・・・

だって、あいつは・・・・・・

「白澤様、これ以上・・・鬼灯を追い詰めないでください。」

「あいつのこと、何も知らないくせに・・・」

「ッ・・・」

頭を堅いもので思いっきり殴られたようだ。

混乱し過ぎて、上手く思考回路が作れない。

何も知らない・・・・・・?

あいつと言えば思い浮かぶこと・・・

地獄の官吏の中でそこそこ上の位で、『鬼灯』ていう名前で・・・口が悪くて生意気で。

それから・・・?

・・・・・・それだけだ。

今、気付いた。

この子たちの言うとおり、あいつのこと・・・何も知らなかった。

否、知ろうとしなかったんだ。

あの苦しそうな、切なそうな表情。

やっと、解った。

あいつは、あの日のことをずっと・・・?

だとしたら・・・

気付いたら店を飛び出していた。

頭の中の警笛が走れと命令する。

冷たい雨が降り注ぐが、そんなものに構ってられない。

なんて馬鹿なんだ・・・

傷つけてしまった。

さっきの言葉だけじゃない。

ずっと、ずっと前から・・・

『あの子、どうしてるかな。』なんて、愚問だ。

ずっと近くに居たんだ。

僕が忘れていただけで・・・

「ちっ・・・くしょう・・・ッ!」

あの子は間違いなくあそこに居る・・・

本能が教えてくれる。

急げ・・・急げ・・・もっと、早く!

あの子が向かったであろう場所を目指して、全力で走った。




























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