【短編】現代(白澤×鬼灯)

□やっぱり嫌い
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「お、ちゃんと来たな!こっちこっち!」

店に入った途端、既に顔が赤らみ始めている烏頭に着物の裾を引かれた。

「ちょ・・・もう飲んでるんですか?あんまり飛ばすと帰れなくなりますよ。」

「だーいじょーぶだって!鬼灯も蓬も居るし!」

「おいおい・・・」

「ったく、当てにされる私たちも楽ではないのですよ?」

「何だよ〜ガキの頃から一緒に居んだからそんくらい許せよな〜〜」

「・・・!」

何だ・・・?

この感じは・・・

「烏頭さん・・・」

「あん?」

酒を煽りながらの言葉の所為か、然程誠意を感じられないが、どこか安心できる不思議な感覚に陥った。

「そうですね・・・ずっと、一緒でしたものね。今でも・・・変わらず・・・・・・」

一人だった私と一緒に居てくれた二人。

・・・あの、軽率な神なんかとは違う。

心から信頼できる存在。

「・・・鬼灯、」

蓬さんが心配そうに私の顔を覗き込む。

私の言葉から滲み出るものを感じ取ってくれたのであろう。

烏頭はそんな私たちをちらりと見てから口を開く。

「ったりめーだろ!ほれ、お前も蓬もぼさっとしてねーで飲めよ」

私の背を力強く叩く逞しい掌。

これが彼なりの優しさなのだと思い、自然と笑みが零れる。

「ええ、そうですね。さ、蓬さんも飲みましょう?」

「うん、そうだね。」

こうして、私たち幼馴染の久しい宴が始まった。











「んあ〜〜ちょっとタンマ!あったま痛ってぇ・・・」

座敷にだらしなく横たわる烏頭。

「あーぁ、やっぱりな。」

「あれだけピッチ上げてればこうなりますよ。」

「ま、少ししたら復活するだろうから、このまま寝かせとくか。」

「ええ、静かになって丁度良いです。」

ぐったりする烏頭を横目に猪口を傾ける。

「ふふっ、烏頭はガキの頃から何も変わらないけど、お前は変わったよな。」

「私が・・・?」

「お前さ、昔は何かあると直ぐに俺たちに隠れて泣いてたよな。そんなお前が補佐官になって地獄の皆を仕切ってるなんてなぁ〜」

「・・・まあ、言われてみれば・・・そんな気がしますね。」

「俺・・・お前を見る度に思うんだけど、本当に強いよな。」

「・・・?力がですか?」

「それもあるけど、心がだよ。」

「そう、でしょうか・・・?」

「俺は、親の顔を覚える間も無く捨てられたから、親なんて最初から居なかったって吹っ切れるけど、お前は違うよな。」

「・・・・・・。」

ああ、そうだ。

愛されていたのに、突然何の前触れもなく、激しい痛みと共に引き裂かれた。

探したいけど、幼さ故に探す術も分からない。

今だって、会えるものならば会いたい。

胸の中で渦巻く寂しさを仕事で誤魔化しているに過ぎない。

「誰よりも辛いはずなのに、誰よりも真っ直ぐ前を向いてる。すごいよ、本当に。」

「蓬さん・・・」

「そう言えばさ、桃源郷に作った墓はどうしたんだ?全然供養に行っていないだろう?」

「それは・・・、」

蓬と烏頭には、昔出会った神のことは話していない。

不思議に思われても無理はない。

「あの・・・、」

何と返そうか迷っているときに、店の扉が開かれた。

「あ。」

「あ。」

視線がかち合った。

あからさまに嫌そうに顔を歪める相手。

「何でお前が居んの?」

「仕事が定時で終わったから飲みに来たのですよ。貴方はどうせ花街帰りでしょう?」

さっきまでのしんみりした雰囲気は何処へやら。

一気に空気が凍りついた。

「僕が何処で何しようが僕の勝手だろ。久しぶりに一人で飲もうと思ったのに台無しだよ。」

長身で白衣を纏った男、白澤は屑でも見るような目で私を見下ろしている。

この男と、あの時出会った神が同一だとは信じられない。

「・・・では店に戻って仕事したらいかがです?貴方のことです、今日だって碌に働いていないのでしょう?」

溜め息を吐いて、猪口に残っていた酒を煽る。

「お前さぁ、本っ当に失礼だよね!親から教育受けて無いわけ?」

「・・・!」

「何、図星?どうやったらこんな捻くれ者に育つのか、お前の親に聞いてみたいね。」

「・・・・・・。」

うるさい・・・

うるさい、うるさい・・・!

信じてたのに・・・

貴方にだけは言われたくなかった・・・

嫌い、

大嫌い・・・!

色々な感情が頭の中を駆け巡る。

「・・・蓬さん、烏頭さんをお願いします。」

酒代を残して席を立つ。

「鬼灯・・・?」

「すみません・・・もう、戻ります・・・」

金棒を支えにして立ち上がる。

「白澤さん、」

「あ?」

あからさまに気怠そうな声。

もう、限界。

「気分を害してしまってすみません。もう金輪際、貴方には近付きません。薬も、もう結構です。地獄にも薬師を置く予定ですので。」

それだけ言って店を後にする。

走った、とにかく走った。

何処へ行こうとか、全く考えていなかったが、足が勝手にある場所へ向かっている。

「・・・っ・・・!」

気が付くと、桃源郷に居た。

あの、桃の木の下。

何年ぶりにここを訪れただろうか。

目の前には、野ざらしの墓標が二つ。

傍らには朽ちた花飾り。

あの日、泣きながら作ったものだ。

その墓前で膝から崩れ落ちる。

「許さない・・・っ」

私の大切な人たちを侮辱した。

やはり、神なんて嫌いだ。

昔の愚かさに腹が立つ。

悔しさと悲しさと怒りと、

頭が痛い。

気持ち悪い。

「父様、母様・・・っ・・・」

様々な感情を含んだ涙が頬を伝う。

みっともなく、声を上げて泣く。

幼かったあの時のように。

久しぶりに会いに来たというのに、こんな情けない姿を晒してごめんなさい。

地に爪を立てて、意味もなく抉る。

ふと髪に、手に冷たい雫が落ちた。

淀んでいた空が遂に雨を降らせたのだ。

重く、黒い空を見上げる。

涙が降り注ぐ雨に溶けていく。

この雨が何もかも押し流してくれたらいいのに。

ねえ・・・父様、母様。

偶にはこうして、泣いたっていいですよね・・・?





























【次回予告】白澤さん、後悔するの巻(笑)
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