【短編】現代(白澤×鬼灯)

□『ありがとう』の意味は、
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目が覚めると自室の天井。

冷たい汗が首筋を滴り落ちる。

胸の鼓動が早い。

嗚呼、またか・・・

軋む関節に鞭打ちながら寝返りを打つ。

「・・・・・・。」

そこには愛おしい寝顔。

優しい光を湛える瞳は今は閉ざされている。

起こさないように、額にかかる前髪を掻き上げると、血のように紅い瞳の模様が現れる。

それは、彼が気高い神だという印。

この人は、私の特別だ。

死んだ後、人間への恨みの強さを鬼火に魅入られ、私は鬼へと生まれ変わった。

もう、どんなものに転生しようがどうでもよかった。

どうせ天涯孤独なのだから。

でも、それは違った。

鬼になって間も無い私の前にこの人が現れたのだ。



































『あれ、鬼の子だ。こんな所でどうしたの?』

『独りなの?じゃあ、僕と同じだね。』

『おいで、色々教えてあげるよ。』

この人は、死んで当ても無く彷徨っていた私を助けてくれた。

いつしか、傍に居るのが当たり前になっていた。

『貴方は、誰なのですか?』

こんな私に良くしてくれるなんて。

『知りたい?僕はね・・・』

そうして、彼の正体が万物を知る神・・・白澤だと知った。

『何故、私などに・・・』

神の類は気紛れだとよく聞く。

私も彼にとっては唯の暇潰しなのかもしれない。

そうならそうで別に構わないのだが。

弄ばれることなら慣れている。

『僕は存在する全てのものが好きだけど、お前のことは特に好き。だから傍に居るんだよ。』

本当、だろうか・・・?

『信じて、良いのですか・・・?』

『・・・大丈夫、僕は嘘は吐かないよ。』

私を見る優しい瞳。

この人なら信じられる。

素直にそう思った。

『信じます・・・貴方を・・・白澤様・・・』

『謝謝、ありがとう。』

あぁ、懐かしい言葉だな・・・






















「・・・・・・。」

健やかな寝息を立てる彼を暫く見つめた後、気怠い体を起こす。

何が不安なのだ。

もう私は独りではないのに。

何千年もこの人と一緒に生きてきた。

幼い頃に裏切りによって受けた傷など、もうとっくに癒えている筈だ。

それなのに・・・まだ、心のどこかに空洞がある気がする。

これ以上何を望むのか。

欲深い自分に嫌気が差す。

「ッ・・・・・・」

握り締めた拳に生暖かい雫が落ちる。

いつからこんな幼子のように泣くようになったのか。

何度涙を拭っても、後から後から溢れてくる。

外に出て頭を冷やそう。

そう思って腰を上げようとした時・・・

突然、後ろから腕を引かれ足が縺れた所を抱き込まれた。

「・・・また泣いてる。」

よく知った声が鼓膜を揺らす。

よく知った香りが鼻を擽る。

「はくたくさん・・・」

振り返ると柔らかな光を湛えた瞳と目が合う。

大好きな瞳を見て、更に涙が溢れる。

困ったように微笑む彼は私の頬を流れる雫を指先で掬い取っていく。

「おいで、鬼灯。」

体を反転させられ、膝に乗せられる。

「大丈夫、大丈夫だよ。」

一定のリズムで背を叩かれる。

まるで幼子をあやすかのように。

白澤さんは私が泣く理由を聞かない。

全部、知っているから。

私が泣く理由なんて一つしかない。

「まだ、僕が信じられない?」

彼の言葉に必死で首を横に振る。

「違い、ます・・・ッ」

堪らず首に縋り付く。

「永遠に一緒に居るよ。ずっと昔に約束したでしょ?」

約束・・・・・・

『片時も離れずに側に居るよ。もうお前が独りにならないように・・・。』

遥か昔に交わした約束の言葉が蘇る。

「ごめ・・・なさ・・・」

「どうして謝るの?お前が受けた傷は計り知れないほど深いはずだ。ゆっくり、ゆっくり癒せばいいんだよ。時間はたくさんあるんだから・・・ね?」

優しすぎる神の言葉に、唯々頷くことしか出来ない。

「・・・貴方に会って初めて・・・生まれて良かったと思いました。」

この人に会えたから、私は変われた。

この人に会えたから、自分の存在は無駄じゃないって思えた。

「ありがとう、ございます・・・私の神様・・・」

綺麗な瞳を細めて微笑む白澤さん。

そのまま、私の涙の跡が残る頬にこれ以上にない程に優しく口付けを落とす。

「僕にはお前だけだよ・・・鬼灯、生まれてきてくれて・・・『ありがとう』」

目の前の神様は、昔と全く変わらない笑みで微笑んでいた。

一度は忌み嫌っていたその言葉。

でも、大好きな神様が紡ぐそれはひどく心地良い。

大昔に交わした約束も、

大嫌いだった『ありがとう』も、

私とこの人を結び付けてくれたとても大切な言葉。

・・・改めて、そう思った夜だった。




























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