【短編】現代(白澤×鬼灯)

□失くして、手に入れて。
2ページ/3ページ

夜が更けて辺りが静まり返った頃、僕は鬼灯の部屋を訪れた。

「白澤様、お待たせしてしまい申し訳ありません。仕事がなかなか片付かず・・・」

「気にしないでいいよ。僕が無理言ったんだし。」

相変わらず不思議なものが所狭しと並んでいる部屋を見渡す。

「外は冷えたでしょう?どうぞ、召し上がって下さい。」

目の前に置かれた湯気の立つ湯呑。

中身は鬼灯が好んで飲んでいる桃の緑茶だった。

「ありがと。」

「ところで・・・私にお話とは、どのような内容でしょうか?」

この余所余所しい話し方も慣れてしまっている。

でも、慣れちゃいけない。

僕が惹かれてるのは・・・

常に喧嘩腰で、生意気で

でも嘘が下手で、素直じゃないあいつ・・・

「あのさ、」

「?」

「この前も聞いたけど、本当に思い出せない・・・?僕のこと・・・」

僕の言葉に、困ったように首を傾げる鬼灯。

「申し訳ありません、白澤様とお会いしたのは一週間前が初めての筈。・・・どなたかと勘違いをされているのでは?」

ああ、やっぱり・・・

鬼灯から返ってきた答えは、一週間前と全く変わらないものだった。

「お前と僕は・・・もう何千年も前からの付き合いなのに・・・それを、こんなにあっさり忘れちゃうなんて・・・」

唇を噛んで俯く。

「白澤様・・・」

「お前とは顔を合わせる度に下らないことで喧嘩してさ・・・でも、思い返してみれば喧嘩の原因はいつも僕だった。」

「あの・・・、」

「分からなくても良いから、聞いて。・・・お前の中に眠っているもう一人のお前は、きっと・・・僕のことが好きなんだ。そして、僕も・・・」

「・・・・・・。」

「僕はさ、自分の気持ちを誤魔化したくてお前に辛く当たった。その結果、お前は僕への想いを絶って自分の中の奥深い所に隠したんだ。
二度と、思い出さないように。だから、今のお前は僕のことだけ分からないんだ・・・」

気付いたら、唇が切れていた。

鉄の味が妙に濃く感じる。

「こんな結果にしたいんじゃなかったんだ・・・」

唇から己の犯した過ちと後悔がぽろぽろと零れ落ちていく。

もう、自分でも分からない。

「白澤様・・・」

「そんな風に呼ばないで・・・いつもみたいに言ってよ・・・!偶蹄類って・・・白豚って・・・!!」

震える手で鬼灯の着物に縋り付く。

「僕が悪かったから・・・!戻って来てよ・・・こんなの、耐えられない・・・!」

嗚呼、何て勝手で醜いのだろう。

「お願いです、泣かないでください・・・」

温かい手が戸惑いがちに頬に当てられる。

良く知った手の感触・・・

余計涙が溢れてくる。

「どうすれば・・・いい?どうしたら許してくれる・・・?」

自暴自棄になりかけている僕は、みっともなく泣くしかない。

「では、もう一度・・・呼んでみたらいかがでしょうか?私の中に隠れている、もう一人の私を・・・」

優しく微笑む鬼灯。

「っ・・・」

堪らず、鬼灯の後頭部を掻き抱き、もう一度額を合わせる。

そして、強く強く念じる。

深く傷付けてしまったことへの謝罪。

長年抱いてきた想い。

それらを馳せて、奥に蹲るあいつを呼ぶ。

・・・戻ってきて欲しい。

僕が知っているお前に会いたい。

お願いだから・・・・・・

強く祈り続けたが、突然糸が切れたように身体が崩れ落ちる。

それからの記憶は無かった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ