【短編】現代(白澤×鬼灯)

□あいつの中から消えた僕
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「鬼灯、居る?」

扉を叩くと、直ぐに開いた。

「白澤様、いかがないさいましたか?」

「ごめんね、少し話がしたいんだ。・・・いいかな?」

「ええ、私などでよければ喜んで。どうぞ、お入りください。」

柔らかい物腰で僕を部屋に招き入れる鬼灯。

「折角、ご足労頂いたのに散らかっていて申し訳ありません。」

いそいそと落ちている本やら書類を拾っている。

そんな鬼灯の手首を掴む。

「白澤様?」

「お前・・・本当に僕が分からないの?全部忘れちゃったの・・・?」

「失礼ですが、仰っている意味がよく分かりません・・・私、貴方様とお会いしたのは今日が初めてですよ。」

そんな、

頭を硬い鈍器で殴られたような衝撃が走った。

「・・・ちょっと、ごめん。」

「!」

掴んだ手首を引き寄せて、鬼灯の額に己の額を合わせる。

頭の中に流れ込んでくる鬼灯の記憶。

更に奥の奥に潜む記憶を引き出そうと強く念じる。

そして、視えてきたのは・・・

『お前には秘密なんて無縁だろ?仕事上はともかく、プライベートでなんてさ。』

私にだって、秘密のひとつやふたつくらい・・・

『白澤さん・・・貴方を、お慕いしております。』

好きで好きで堪らないのに・・・

『・・・なに、何の用?』

『さっさと帰ってくれる?』

苦しい、冷たい視線が痛い。

私のこの想い・・・気付かないで、でも、気付いてほしい。

『貴方は、私がこんなに思い悩んでいるなんて、思ってもいないのでしょうね。』

でも、今日で最後にします。

・・・ごめんなさい。

貴方を、好きになってしまって・・・

『白澤さん・・・貴方を、お慕いしておりました。』

そこで、鬼灯の記憶は途絶えた。

「白澤様?何故、泣いておられるのです・・・?」

生温かいものが頬を伝っていた。

鬼灯の奥底で眠っていたもの。

それは、たった一人で抱え込んでいた僕への恋心。

そして、僕の大きな失態。

誰にも言えず一人で苦しんで、泣いていた。

そんな壊れそうな鬼灯を傷つけた。

誰でもない、この僕が・・・

「ほおずき・・・」

「はい、白澤様。」

名前を呼ばれた鬼灯は、心配そうな面持ちでこちらを見ている。

違う・・・

違うよ・・・

お前は、僕が知ってるお前じゃない。

僕が素直になっていれば、こんなことには・・・

でも、何もかもが手遅れだった。

「ごめ・・・もう戻る、ね。突然ごめんね・・・」

鬼灯の手を放し、踵を返す。

背後で心配そうな鬼灯の声がしたが、とても応えられなかった。

「・・・・・・。」

座敷童たちの言う通りだ。

鬼灯がああなってしまったのは僕の所為。

僕の醜い意地が愛しい子を深く傷つけてしまった。

「どうすればいいんだよ・・・」

どれだけ思考を働かせても、何も浮かんでこない。

何が知識の神だ。

今の僕は・・・

己の犯した過ちに悔い嘆く唯の愚か者だ。
























白澤さん後悔のターン
前作で完結宣言してましたが、出来ませんでした(笑)
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