【短編】現代(白澤×鬼灯)

□あいつの中から消えた僕
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極楽満月に一本の電話が入った。

「お電話ありがとうございます、こちら極楽満月・・・あ、閻魔様。白澤様ですね、少しお待ちください。」

僕に寄越された受話器。

「閻魔大王から?」

「ええ、何かあったのでしょうか?」

「急配かな・・・謝謝。」

弟子から受話器を受け取る。

「もしもし、大王直々の電話なんて珍し・・・」

『は、白澤君!直ぐに来て!!緊急なんだ!』

珍しく取り乱した様子の閻魔大王。

「一体、何が・・・」

『鬼灯君が大変なんだ!とにかく来て!!』

”鬼灯”という言葉に無意識に反応してしまう。

「・・・分かりました、直ぐに向かいます。」

電話を切って、出掛ける支度を始める。

「桃タロー君、ちょっと閻魔殿に行って来るよ。それだけ作ったら上がっていいからね。」

「ええ。地獄で何があったんですか?」

「・・・僕にもさっぱりだよ。」

玄関先で獣の姿に戻り、地獄に向けて飛び立った。




















「白澤様、お待ちしておりました!さあ、こちらへ!」

閻魔殿の入り口に着くなり、門番の手によって裁判の間へ引っ張られた。

「閻魔様、白澤様をお連れしました!」

「白澤君!あぁ、良かった!」

裁判の間に居たのは、閻魔大王と座敷童姉妹、そして・・・あいつ。

相変わらず無の顔でこっちを見ている。

ん?こいつの様子がおかしいんだよな?

しかも緊急で僕を呼ぶくらいに。

ただただ、こちらを見ているだけ。

見た所、外傷は無いし何ともないように見える。

いつもの面子でいつもの風景。

でも、一か所だけおかしいところがあった。

それは、

「おい、一本角。黙って突っ立ってないで何とか言えよ。お前に緊急事態が起こったっていうから来てやったんだぞ。」

嫌味をたっぷり込めて言い放つ。

すると、目の前の鬼は首を傾げて、

「あの、すみません・・・どなたですか?」

え・・・?

「・・・鬼灯君、実際に会っても思い出せない?彼が中国神獣の白澤君だよ。」

一か所だけおかしいところ

それは、僕を映すこいつの瞳。

少しの好奇心と探るような視線。

鬼灯の眼差しは、まさに初対面の人物に対して働くそれだった。

「人の姿をとられているのですね…大変失礼いたしました。白澤神、わたくし鬼神の鬼灯と申します。お目に掛かれて光栄です。」

恭しく頭を下げる鬼灯。

そんな鬼灯を痛々しそうに見つめ、時折僕に助けを求めるような視線を送られる。

「鬼灯さま、こいつスケコマシだよ。忘れたの?」

「鬼灯さま、いつもみたいに殴ってよ。」

座敷童たちも心配そうな面持ちで、鬼灯の着物の裾を引く。

「一子、二子・・・何をおかしなことを言っているのです、この方は神様ですよ?粗相はお止めなさい。」

・・・おかしいのはお前だよ、鬼灯・・・

一体、どうしたんだよ。

身体に異常がないか、神眼で視たがどこにも悪い所は無いようだ。

「・・・鬼灯くん、今日はもう上がっていいよ。お疲れ様。」

「ありがとうございます。では、お先に失礼いたします。明日に響かないよう、しっかり仕事を片して下さいね。白澤様、御機嫌よう。」

身が痒くなるほどの丁寧な挨拶を残し、鬼灯は裁判の間を後にした。

「・・・・と、いう訳なんだよ。ワシらのことはちゃんと覚えているのに、君のことだけ忘れてるみたいなんだ。」

「見たところ、表面的には全く問題ありませんでした。脳も、神経も・・・何なんだ・・・?」

頭を抱えていると、座敷童たちが僕の元へやってきた。

「お前の所為で鬼灯さまがおかしくなった。」

「お前が鬼灯さまを泣かせたからこうなった。」

白衣をもの凄い力で掴まれ、下から睨まれた。

「え・・・?」

「鬼灯さま、いつも泣いてた。」

「お前のことで。」

二人の幼子の口から発せられた信じがたい言葉。

僕の所為・・・?

「ごめん、詳しく聞かせてくれる?」

「鬼灯さまはお前が好きだって言ってた。」

「でも、嫌われてるから辛いって苦しんでた。」

「それなら無かったことにして、全部忘れたいって言ってた。」

「「泣きながら。」」

「だから、全部お前の所為。」

「鬼灯さまに謝れ。」

淡々とした口調ではあるが、明らかな怒りが滲み出ていた。

脳を駆け巡る彼女たちの言葉に、頭が痛んだ。

鬼灯が、僕を・・・何だって?

「それ、本当?大王も知って・・・?」

閻魔大王に視線を向けると、辛そうに首を縦に振る。

「少し前に相談を受けてね。・・・まさか、こんなことになるなんて。」

「・・・・・・。」

ここまで来てやっと理解した。

自分は、とんでもないことをしてしまったのだと。

違うんだ、鬼灯。

こんな結果にしたくてお前に冷たくしてたんじゃないんだ。

お前に対する気持ちを誤魔化す為に辛く当たっていた。

いつの間にかお前に惹かれていた事実を隠す為に・・・

でも、今となっては何もかもが只の言い訳に過ぎない。

鬼灯を傷つけてしまった。

「ごめん・・・僕、鬼灯の所に行って来る。」

裁判の間の更に奥にある鬼灯の部屋へと急いだ。
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