【短編】現代(白澤×鬼灯)

□あいつの中から消えた僕
1ページ/2ページ

極楽満月に一本の電話が入った。

「お電話ありがとうございます、こちら極楽満月・・・あ、閻魔様。白澤様ですね、少しお待ちください。」

僕に寄越された受話器。

「閻魔大王から?」

「ええ、何かあったのでしょうか?」

「急配かな・・・謝謝。」

弟子から受話器を受け取る。

「もしもし、大王直々の電話なんて珍し・・・」

『は、白澤君!直ぐに来て!!緊急なんだ!』

珍しく取り乱した様子の閻魔大王。

「一体、何が・・・」

『鬼灯君が大変なんだ!とにかく来て!!』

”鬼灯”という言葉に無意識に反応してしまう。

「・・・分かりました、直ぐに向かいます。」

電話を切って、出掛ける支度を始める。

「桃タロー君、ちょっと閻魔殿に行って来るよ。それだけ作ったら上がっていいからね。」

「ええ。地獄で何があったんですか?」

「・・・僕にもさっぱりだよ。」

玄関先で獣の姿に戻り、地獄に向けて飛び立った。




















「白澤様、お待ちしておりました!さあ、こちらへ!」

閻魔殿の入り口に着くなり、門番の手によって裁判の間へ引っ張られた。

「閻魔様、白澤様をお連れしました!」

「白澤君!あぁ、良かった!」

裁判の間に居たのは、閻魔大王と座敷童姉妹、そして・・・あいつ。

相変わらず無の顔でこっちを見ている。

ん?こいつの様子がおかしいんだよな?

しかも緊急で僕を呼ぶくらいに。

ただただ、こちらを見ているだけ。

見た所、外傷は無いし何ともないように見える。

いつもの面子でいつもの風景。

でも、一か所だけおかしいところがあった。

それは、

「おい、一本角。黙って突っ立ってないで何とか言えよ。お前に緊急事態が起こったっていうから来てやったんだぞ。」

嫌味をたっぷり込めて言い放つ。

すると、目の前の鬼は首を傾げて、

「あの、すみません・・・どなたですか?」

え・・・?

「・・・鬼灯君、実際に会っても思い出せない?彼が中国神獣の白澤君だよ。」

一か所だけおかしいところ

それは、僕を映すこいつの瞳。

少しの好奇心と探るような視線。

鬼灯の眼差しは、まさに初対面の人物に対して働くそれだった。

「人の姿をとられているのですね…大変失礼いたしました。白澤神、わたくし鬼神の鬼灯と申します。お目に掛かれて光栄です。」

恭しく頭を下げる鬼灯。

そんな鬼灯を痛々しそうに見つめ、時折僕に助けを求めるような視線を送られる。

「鬼灯さま、こいつスケコマシだよ。忘れたの?」

「鬼灯さま、いつもみたいに殴ってよ。」

座敷童たちも心配そうな面持ちで、鬼灯の着物の裾を引く。

「一子、二子・・・何をおかしなことを言っているのです、この方は神様ですよ?粗相はお止めなさい。」

・・・おかしいのはお前だよ、鬼灯・・・

一体、どうしたんだよ。

身体に異常がないか、神眼で視たがどこにも悪い所は無いようだ。

「・・・鬼灯くん、今日はもう上がっていいよ。お疲れ様。」

「ありがとうございます。では、お先に失礼いたします。明日に響かないよう、しっかり仕事を片して下さいね。白澤様、御機嫌よう。」

身が痒くなるほどの丁寧な挨拶を残し、鬼灯は裁判の間を後にした。

「・・・・と、いう訳なんだよ。ワシらのことはちゃんと覚えているのに、君のことだけ忘れてるみたいなんだ。」

「見たところ、表面的には全く問題ありませんでした。脳も、神経も・・・何なんだ・・・?」

頭を抱えていると、座敷童たちが僕の元へやってきた。

「お前の所為で鬼灯さまがおかしくなった。」

「お前が鬼灯さまを泣かせたからこうなった。」

白衣をもの凄い力で掴まれ、下から睨まれた。

「え・・・?」

「鬼灯さま、いつも泣いてた。」

「お前のことで。」

二人の幼子の口から発せられた信じがたい言葉。

僕の所為・・・?

「ごめん、詳しく聞かせてくれる?」

「鬼灯さまはお前が好きだって言ってた。」

「でも、嫌われてるから辛いって苦しんでた。」

「それなら無かったことにして、全部忘れたいって言ってた。」

「「泣きながら。」」

「だから、全部お前の所為。」

「鬼灯さまに謝れ。」

淡々とした口調ではあるが、明らかな怒りが滲み出ていた。

脳を駆け巡る彼女たちの言葉に、頭が痛んだ。

鬼灯が、僕を・・・何だって?

「それ、本当?大王も知って・・・?」

閻魔大王に視線を向けると、辛そうに首を縦に振る。

「少し前に相談を受けてね。・・・まさか、こんなことになるなんて。」

「・・・・・・。」

ここまで来てやっと理解した。

自分は、とんでもないことをしてしまったのだと。

違うんだ、鬼灯。

こんな結果にしたくてお前に冷たくしてたんじゃないんだ。

お前に対する気持ちを誤魔化す為に辛く当たっていた。

いつの間にかお前に惹かれていた事実を隠す為に・・・

でも、今となっては何もかもが只の言い訳に過ぎない。

鬼灯を傷つけてしまった。

「ごめん・・・僕、鬼灯の所に行って来る。」

裁判の間の更に奥にある鬼灯の部屋へと急いだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ