【短編】現代(白澤×鬼灯)

□秘密を秘蜜に
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夜が更けて、静まり返った閻魔殿を当てもなく歩く鬼神。

暗い闇の様な影を背負って、冷たい床を裸足で歩く。

「・・・はぁ。」

随分前から頭が痛い。

この頭の痛みの原因は彼だ。

私が想いを寄せる唯一の存在。

神でありながら、女癖が悪くだらしないことこの上ないあの人。

足を止めて空を見やると、綺麗な星空に大きな月が浮かんでいた。

でも、どんなに美しい月を前にしても・・・

「・・・・・・はぁ。」

重いため息をまた一つ。

『・・・なに、何の用?』

『さっさと帰ってくれる?』

昼間、彼の店を訪れたときに浴びせられた言葉が蘇る。

「・・・・・・。」

以前は何ともなかった冷たい言葉たちが、今はとても痛い。

胸の奥の奥まで突き刺さってくる。

あの醜いものを見るような切れ長な目が、酷く冷たい。

いくら私が彼のことを想ったところで、それが叶うことが無いことくらい分かっている。

分かっているけれど・・・

この想いを伝えたら、もしかしたら・・・なんていう甘えが芽生えてしまうのも事実。

何とも言えない葛藤が頭の中を駆け巡り、耐えがたい痛みとなって襲い掛かる。

私のこの想い・・・気付かないで、でも、気付いてほしい。

自分の女々しさに嫌気が差す。

「貴方は、私がこんなに思い悩んでいるなんて、思ってもいないのでしょうね。」

男は『居る』としか認識していないのなら尚更のこと。

私の秘密・・・

・・・この想いを抱き続けても、苦しいだけなら・・・

もう、いっそのこと・・・・・・

「無かったことに・・・」

もし・・・私のこの想いが、目に見えるものとして形を変えるのならば、きっとそれは闇の様な黒色をしたもの。

指の間をさらりと滑り落ちていくもの。

まるで、蜜の様な・・・

「秘密を、秘蜜に・・・。」

そう、誰にも知られることのないそれは、私にしか見えない蜜へと姿を変える。

その蜜を両手で掬って、一息に飲み干してしまえば良い。

「・・・ごめんなさい。」

貴方を、好きになってしまって・・・

でも、今日で最後にします。

両手の中でなみなみと揺れる黒い蜜を一気に飲み干す。

酷く、苦かった。

私のたった一つの秘密は、私の中の奥深くに堕ちていった。











「白澤さん・・・貴方を、お慕いしておりました。」














やっぱり続き物にしてみました。
次で完結させます。

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