【短編】現代(白澤×鬼灯)
□秘密のひとつやふたつ
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「ごめんくださ・・・」
薬局の扉を開けた瞬間、顔が引き攣る。
目の前には変態薬剤師と若い女性。
その変態は女性を舐めるように見つめ、鼻の下を伸ばしている。
いつものことながら溜め息が出る。
奴は私の姿を捉えると、心底嫌そうな顔をした。
「お楽しみの所を申し訳ないのですが、今日が納期の薬を頂けませんかね?」
「・・・ちぇっ、ホントお前って間が悪いよな〜」
悪態を吐きながら薬棚へ向かう。
「貴方の都合など知りません。」
「一言多いんだよ。あー、苛々する。」
棚から薬を引っ張り出しては乱雑に机へ放っていく。
室内には重苦しい空気が流れる。
「あ、あの・・・白澤様・・・私、そろそろ失礼しますわ。」
沈黙と圧迫感に耐えきれなかったのか、女性が荷物を持って足早に店を出て行った。
「え?!あ、ちょ・・・行っちゃった・・・」
がっくりと項垂れる白澤さん。
「ったく、お前の所為でデートが台無しだよ。あーあ、可愛い子だったのに。」
「そんなの知りませんよ。」
どこまでも醜い駄獣を鼻で笑って一蹴する。
「お前ほど冷たい奴、どこ探しても居ないんだろうな。」
「褒め言葉と取っておきましょう。どうってことないでしょう?貴方の周りには女性で溢れているのですから。」
目の前の男を嘲る度に、胸の真ん中が酷く痛む。
何かで突かれるような、そんな痛み。
「ま、それもそうだ。また違う子と遊ぼーっと♪」
「貴方、女性を弄んで楽しいですか?」
「人聞きが悪いな。弄んでいるんじゃない、本気で恋愛しないって合意の上で付き合ってるんだよ。」
それを弄んでいるということに、この馬鹿は気付いていない。
ああ、胸が痛い。
「貴方、一体何人の女性とそのように遊んでいるんです?」
「んー?そうだなぁ・・・って、何でお前なんかに教えなきゃいけないんだよ。」
長い人差し指を唇に当てる。
「秘密、だよ。」
薄い唇が綺麗な孤を描く。
「そうですか。」
「お前には秘密なんて無縁だろ?仕事上はともかく、プライベートでなんてさ。」
「・・・」
白澤さんの言葉が突き刺さる。
私だって・・・
そう、
私はこの男に恋をしている。
女たらしでだらしのないこの男が好きなのだ。
でも、この恋が実ることは万が一にも無い。
白澤さんは私のことを毛嫌いしている。
血を吐くほどに。
これは、一方通行な片思いだ・・・・・・
あの男を取り巻く女性が羨ましくて仕方ない。
彼女たちに向けられる優しい瞳や声。
壊れ物を扱うような手つき。
それらが私に向けられることは決してないことくらい知っている。
でも、一度で良いから・・・
そんな叶いもしないことを願っている自分が居る。
何て女々しいのだろう。
「ほら、薬。金払ってさっさと帰れ。」
目の前に差し出された紙袋。
ああ、やっぱり・・・
代金をカウンターに置いて薬を受け取る。
「ありがとうございま・・・」
「あっ、妲己ちゃ〜ん?今から遊びに行っても良い〜?♪」
礼を言おうとした瞬間、携帯で話し出した白澤さん。
私のことなど視界に入っていないかのような態度。
痛い、痛い・・・
胸がこれでもかと言うほど締め付けられる。
「・・・・・・。」
冷たい瞳を向けられても、無視されても、存在を否定されても・・・
それでも良い。
楽しそうに話す彼の後姿をちらりと見てから店を後にした。
私にだって、秘密のひとつやふたつくらいあるのですよ?
誰にも知られてはいけない私のたった一つの秘密。
「白澤さん・・・貴方を、お慕いしております。」
彼への想いを乗せた言葉は高い空に儚く消えて行った。
終
いっっつもイチャイチャラブラブしてるので、偶には切ない話を作ってみました。
作ってる最中、超切なくなりました(笑)
続きものにしようか、1話完結にしようか悩み中・・・