【短編】現代(白澤×鬼灯)

□それから
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次の日、早起きをして朝食もそこそこに素早く身支度を済ませる。

「鬼灯、もう出れる?」

「はい、今行きます。」

小走りで玄関まで来た鬼灯。

「それじゃあ、行こうか。はい乗って。」

本来の姿に戻り、鬼灯に背中に乗るように言う。

「すみません、失礼します・・・」

鬼灯が背中にしがみ付いたのを確認すると、空へ舞い上がる。

「速度上げるから、しっかり掴まっててね。」

「はい。」

その返事を合図に速度をぐんぐん上げて真っ直ぐ飛ぶ。

「なんかさ、初めて宮殿に行った日を思い出すな。小さかったお前を抱えてさ。」

ふと考えたことが口をついて出てきた。

「私も同じことを考えていました。あの日からもう1000年以上経つのですね・・・」

「そっか、もうそんなに経ったのかぁ・・・」

小さく見えてきた宮殿を眺める。

「・・・ふふっ、懐かしいですね。この柔らかい毛並みも、初めて貴方と合った日以来です。」

「うん・・・そうだね。」

遥か昔の思い出に浸りながら宮殿に向かった。

















宮殿の門前に降り立って、背中から鬼灯を降ろす。

「さ、行こう」

人の姿になって門を守る兵士の元へ向かう。

「ねえ、天帝にお会いしたいんだけど取り次いでもらえるかな?」

「これは白澤様!すぐにお取り次ぎいたしますので、少しお待ちください。」

その兵士は足早に宮殿へ入って行った。

「やはり、事前に連絡した方が良かったのでは・・・」

「ん?大丈夫だよ。」

そんなことを話していると、戻ってきた
兵士が門を開けた。

「白澤様、お待たせいたしました。お入りください。」

「ありがとう、面倒掛けたね。」

礼を言って門をくぐった後、僕たちは真っ直ぐに玉座の間へ向かった。

「天帝。神獣白澤と鬼神鬼灯、只今御前に参りました。」

大きな扉の前でそう告げると入るように言われた。

扉を開けて中に入ると、天帝が窓辺でこちらに背を向けて立っていた。

「やっと来たか。」

天帝はゆっくりと振り返り、その緋色の瞳に僕たちの姿を映す。

「申し訳ありません。」

「天帝、地獄の情勢がまだ不安定でなかなか参上する機会が無かったのです。どうか、お許しください。」

2人揃って頭を下げる。

それを見た天帝は声を立てて笑った。

「これこれ、私は何も怒ってはおらん。久しく会えたのだ、早よう顔を見せぬか。」

顔を上げると、天帝は満足そうに頷いていた。

「2人ともよく来たな。」

「天帝こそ、お加減が良さそうで安心いたしました。」

「ああ、そなたが桃源郷で店を出したと聞いて少し気を揉んで居ったが、心配は無さそうだな。」

「お気遣いありがとうございます。お陰様で漸く軌道に乗ったところです。」

店の様子に加えて、最近出来ていなかった近状も一緒に報告する。

「そうか、ご苦労だった。さて・・・」

天帝の目が鬼灯を捉えた。

「鬼灯・・・暫く見ない間に大きくなったな。」

「・・・恐れ入ります。天帝、初めて貴方様とお会いした際は数々の無礼を・・・」

天帝は謝罪の言葉を述べる鬼灯を右手で制す。

「謝るでない、良いのだ。あれは幼さ故の愛嬌であろう?」

鬼灯を優しく諭すような眼差しで見る天帝。

「その真っ直ぐで忠実な心がそなたをここまで立派にしたのだろうな。」

「いえ・・・そのようなことは・・・」

「何を謙遜する必要がある?閻魔からもそなたのことは聞いておるぞ。毎日見事な働きぶりだそうだな。褒めて遣わすぞ。」

唖然としていた鬼灯だったが、直ぐに我に返り頭を深く深く下げた。

「身に余るお言葉です。」

「その成長ぶりは、そなた自身とそこに居る神の賜物でもあるのかもな。」

天帝は目線で僕を示した。

「何を・・・」

「そなたが思うが侭に愛した結果が今の鬼灯と言うことだな。」

嬉しそうに頬を綻ばせている天帝。

「!!」

「思うが・・・侭に愛す?」

「そうだ、そなたが白澤に連れられてここに来たときに、そやつにそう申したのだ。思うが侭に愛し、その暁に訪れる時を待てとな。」

「天帝・・・!」

堪らず天帝に声を掛ける。

「こやつは全ての者を等しく愛する義務を背負う神獣だ。それ故、そなた1人に愛を注いでいいのかと自責に駆られておった。
神とて、誰を1番に愛するかはその神の自由だと言うに。」

「・・・・・・」

天帝の言葉に鬼灯は口を小さく開けていた。

「しかし、良い結果になって何よりだ。」

「・・・やはり、私には鬼灯だけでした。この子が愛しくて堪りません。あの時も、今も・・・」

驚きに目を見開いている鬼灯を真っ直ぐ見据える。

「そうであろうな。この先も大いに愛してやれ、この一途な鬼をな。」

「もちろんです。」

「あ、あの・・・」

「鬼灯よ、詳細は帰路につく際に白澤から聞くがいい。」

鬼灯は少し不安げに頷いていた。

しかし、その表情は心なしか安心しているように見えた。

「さて、茶でも入れさせよう。今日はゆるりとしていくがよい。」



















結局、茶会の後に宴席を勧められ、断るわけにもいかず、共にさせてもらった。

宮殿を出る頃には夜が深まっていた。

「いや〜、長居しちゃったね。」

「ええ、そうですね。」

酒の酔いを早く醒ますために、涼しい夜風に当たりながら暗い森を歩く。

風が木立を揺らす音と、草を踏み鳴らす音以外何も聞こえない。

そんな中、鬼灯は足を止めた。

「鬼灯?」

「白澤さん、教えてください。さっきの・・・」

鬼灯が真っ直ぐ僕を見つめている。

僕も足を止める。

「僕はね、あの日天帝に言われてから迷いを捨てたんだ。お前だけを愛し抜くって・・・。」

「お気持ちは嬉しいです・・・貴方はいつも私を気遣って、優しくしてくれました。
会えない日の方が多いけど、それ以上に貴方は私に愛をくれました。抱えきれない程・・・
今の私が在るのは、貴方のお陰です・・・ですが・・・」

俯きながらも言葉を続ける。

「貴方は万物を等しく愛する神・・・私だけじゃなくて、全てのものにその愛情を注いでください。
いくら天帝のご助言でも貴方は・・・」

「やだ。」

目の前の鬼灯を堪らず抱き締める。

その細い体を強く強く。

「僕はお前しか要らない。誰を愛そうと僕の自由だ。」

「白澤さ・・・」

「お願い、昔のように側に居させて。僕の1番はお前がいいんだ。」

「こんな・・・目先の仕事に踊らされている鬼でもいいのですか?」

「構わないよ。それに、お前を一瞬だってそんな風に思ったことは無い。」

どんなお前だって愛せる自信がある。

だからお願い、その腕を僕の背に回して。

僕を、受け入れて。

表面だけじゃなくて、奥の奥まで。

「もっとも、こんなことを言っても・・・私には貴方しか居ませんがね・・・ふふっ・・・」

小さな笑い声の後、細い両腕が僕の背に回される。

「こんな私ですが・・・この先、ずっと・・・」

鬼灯が続きを紡ぐ前に、口を開く。

「分かってる。ずっと大事にするよ。」

艶やかな黒髪に指を通し、更に強く抱き締めて腕の中の鬼灯の存在を確かなものにする。

「・・・白澤さん・・・風が、少し冷たいです。」

「そうだね、帰ろうか。」

身体を離して、少し冷たくなってしまった鬼灯の手を繋ぐ。

そのまま家路についた。

















1000年以上も前のこと・・・ある2人は出会った。

人間に捨てられた怨念故に生まれた小さな鬼。

全てのものを等しく愛していた神。

悲しみに支配されていた鬼は、いつしか神をも魅了する美しい地獄の鬼神へと成長した。

鬼神に心を奪われた神は、この美しい鬼神だけを愛すことを決めた。

神の十分すぎる程の愛情は鬼神を戸惑わせたが、愛されることの喜びを知っている鬼神は神の愛を受け入れた。

まるで御伽噺の様・・・

しかし、

鬼と神が出会った夜、その目が合った瞬間に定められた運命だったのかもしれない。




















ここまでお読みいただいた方、お疲れ様でした!白澤様と鬼灯様の大恋愛っぷりが伝われば満足です!←
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