【短編】現代(白澤×鬼灯)

□それから
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ここは桃源郷。

宮殿から遥か遠くに位置しており、とても静かな所だ。

生薬のもとが豊富に採れるという森が近くにあり、気温も穏やか。

鬼灯と再会して100年後、遂にこの桃源郷で自分の店を開くことが出来た。

すぐに仲良くなったうさぎ達を従業員として雇い、のんびり楽しく日々を過ごしていた。

来てくれるお客さんも増えて来たし、この先の心配は必要無いようだ。

そんな今日もお客さんの相手をしながら薬作りに励む。

風邪薬、頭痛薬、強壮剤・・・

笑えてしまうほど莫大な量の薬を次々と作り上げていく。

これは全て地獄へ納品するもの。

大王と薬を卸す約束をしてから、半年、多い時は毎月薬の注文をしてくれる。

おまけに毎回この量。

正直、地獄との取引だけでも生計を立てられる。

「よし、出来た!」

机を埋め尽くす薬を横目に、最近普及した携帯電話を取り出して文章を打つ。

『薬、出来たから取りにおいで。』

それだけ打って送信する。

「さてさて、どの袋がいいかな〜」

薬が全て収まる袋を探す。

「ちょっと大きいけど、これでいいか。」

丁寧に薬を詰めていると、携帯が震えた。

「お。」

携帯を開くと新着メールが1件。

『夕方ごろに伺います。』

と書かれていた。

このメールの相手は、閻魔大王の補佐官である鬼灯だ。

鬼灯は、地獄と僕の薬局間の仲介をしてくれている。

地獄は毎日忙しいらしく、僕が閻魔殿に行っても鬼灯に会えることは少ない。

だから、薬の受け取りや注文に来る時が唯一、鬼灯とゆっくり顔を合わせることが出来るのだ。

今思えば、鬼灯に仲介を頼んで正解だった。

だって、想いが通じ合ってからと言うものの、なかなかゆっくり話したり食事することが出来ていない。

少し前までは、和漢薬を習いにここへ通っていたが、その回数は日に日に減り、ここ数年は全く一緒に勉強出来ていない。

鬼灯は大したことじゃないと思っているかもしれないけど、僕からしたら結構辛い。

「夕方かぁ〜」

残業があったら夜ぐらいになるだろう。

鬼灯からのメールに『待ってる。』と返して携帯を閉じる。

地獄への薬も出来たし、他の注文も無し。

午後からお茶と菓子を買いに街へ行こう。

鬼灯は昔からちょっと苦めのお茶と甘い菓子が大好きだ。

「ふふふっ♪」

気分が良くなってきて、鼻歌交じりにそんなことを考えるのだった。

















僕が思った通り、鬼灯がここについたのは夜だった。

「すみません、遅くなりました。」

バツの悪そうな顔で店に入ってきた。

「お疲れ様、残業だったんだろ?気にしなくて良いよ。」

鬼灯に座るように促し、お茶の支度をする。

「ええ、何せ新しい態勢なので毎日課題が山の様に出てきまして・・・」

はーっと溜め息をついて眉間に皺を寄せる鬼灯。

「ほらほら、もう今日の仕事は終わったんだから色々考えるの止めろよ。ほら、お茶。」

お茶と共に昼間買ってきた羊羹を鬼灯の前に差し出す。

「あの、これ・・・」

不思議そうな顔でこちらを見ている。

「お前それ好きだろ?毎日頑張ってるご褒美だよ。」

「・・・ありがとうございます。」

堅かった鬼灯の表情が綻ぶ。

「ふふっ、甘い物の力はすごいな。お堅いお前をイチコロにしちゃうなんて。」

鬼灯を眺めて冗談交じりに言う。

「・・・?確かに甘いものは好きですが、それ以上に貴方の気遣いが嬉しいんですよ。」

「・・・え??」

思わず間の抜けた声が出る。

「こうして会えた日に優しくされると、会えなかった時間が埋まっていくような・・・そんな気がするんです・・・」

「あ・・・・・・そ、そうなんだ。そう思ってもらえて良かったよ。」

鬼灯の言葉に少し動揺して言葉が詰まってしまう。

まさか、鬼灯がそんな風に思ってくれていただなんて。

どうしよう、嬉しくて胸がいっぱいだ。

「鬼灯。」

思わず身を乗り出して、カウンター越しに座る鬼灯に角にキスをした。

「っ・・・!」

「僕はいつだってお前のこと考えてるよ。会えない日も毎日毎日・・・」

「ええ、知っていますよ。本当に貴方はお優しいですね・・・」

恥ずかしさと嬉しさを含んだ笑みを零す鬼灯は本当に綺麗だ。

この子に寄り添えて良かった・・・本当に。

お茶を美味しそうに啜る鬼灯を目を細めて見る。

すごく、暖かい時間がゆっくりと流れて行くのを感じた。

「・・・あ、忘れるところでした・・・白澤さん。」

何かを思い出したのか、ぱっと顔を上げて僕を見る。

「どうしたの?」

「大王から天帝の元へ挨拶に伺うように言われまして。白澤さんから天帝のご都合を伺っていただきたいのですが・・・」

「天帝に・・・あ!ああ、僕も忘れてたよ〜天帝からお前を宮殿に連れてくるように言われてたこと・・・」

余りに忙しそうな鬼灯を見て、落ち着いたら連れて行くと返事をしてそのままだった。

「そうだったのですか、でしたら丁度良いですね。」

「うん、別に都合を聞かなくてもそのまま行けば大丈夫だよ。お前、明日の予定は?」

「明日は1日休みですよ。」

「じゃあ、明日行こうか。お店も休業日だし、僕が連れて行ってあげるよ。」

「ええ、お願いします。出来れば朝から行きたいのですが、大丈夫ですか?」

「うん、構わないよ。」

僕の返事を聞いた鬼灯は湯呑に入ったお茶を煽り、席を立った。

「助かります。明日は早いですし、これで失礼しますね。」

え?

ちょっ・・・待って待って。

店を出ようとする鬼灯の手を慌てて掴んで引き留める。

「泊まっていけばいいじゃん、どうせ一緒に行くんだから。」

「え・・・」

「それに夕飯もまだだろ?作ってやるから・・・な?ここに居なよ。」

ぽかんとする鬼灯。

「じゃあ、あの・・・そうします。」

少し考えた後、ここに泊まった方が明日時間を有効に使えると判断したのか小さく頷いた。

「そうと決まったら戻って戻って〜夕飯出来るまでちょっと掛かるから、先にお風呂行って来なよ。」

僕は上機嫌になって、夕飯の支度をしに台所へ向かった。

「やっぱり貴方はお優しいですね・・・」

そう言って、後ろで小さく声を上げながら笑っていた鬼灯には気付かない僕だった。
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