【短編】現代(白澤×鬼灯)

□成長した鬼
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閻魔殿で最も大きな部屋、裁判の間に通された。

「閻魔大王、お待たせいたしました。白澤神をお連れいたしました。」

閻魔大王は大きな裁判台の前に立っていた。

鬼灯は彼の前に跪いて頭を下げる。

「ああ、ご苦労様。白澤神、ご足労頂いて申し訳ありません。お疲れではありませんか?」

「大丈夫です。こちらこそ、お招き頂き感謝します。」

お互い、深く頭を下げて挨拶をする。

「では、私は外で控えております。何かございましたら・・・」

「あ、待って待って。今日は君にも関係ある話なんだから。」

「・・・?では、お側に控えさせていただきます。」

「うん、ありがとう。」

大王に引き留められた鬼灯は不思議そうに彼を見上げている。

「さて、今日お呼びしたのは地獄の再建完了のご報告の為です。」

「ええ、ここの門を抜けたときから変わり映えに驚きました。おめでとうございます。」

「そんな、勿体無いお言葉です。何もかも天帝と貴方様のお力添えの賜物です。
お礼を申し上げるのは私の方です。本当にありがとうございます。」

「これで、地獄と天国双方の運営は安心ですね。」

大王の心から安心した顔を見ると、自然に笑みが零れてくる。

「ええ、しかし一つだけ・・・」

「何かありましたか?」

「実は、情けないことに地獄には薬師が居りませんで、流行り病等が起こったときのことを考えると不安でして・・・」

「それは深刻ですね・・・」

どんなに丈夫な鬼と言えど、全ての病に対する抗力は無い。

将来の為にも、薬師は居た方が良い。

「そこに居る鬼灯が和漢薬の研究をしておりますが、やはり独学では手に入る知識が限られます。」

「え、鬼灯が?」

鬼灯の方を見やると、小さく頷いた。

「そこで、差し出がましい申し出ではありますが、鬼灯に薬の知識を授けては頂けないでしょうか?」

「え・・・?」

「白澤神、私からもお頼みいたします。どうか私めに薬学をお教え頂きたく思います。」

深く深く頭を下げる鬼灯。

答えなんて一つしかない。

「鬼灯、頭上げてよ。そんな畏まらないで。」

鬼灯の両肩に手を掛けて頭を上げさせる。

「閻魔大王、そのお申し出お受けいたしましょう。あと、私からも提案があります。」

不思議そうな顔の大王と鬼灯。

「ご提案とは・・・?」

「近々、桃源郷で薬屋を開きますので、地獄へ直接薬を卸しましょう。その仲介を鬼灯にお願いしたいのですが、いかがでしょうか?」

僕の言葉に、大王の目が見開かれる。

「そ、それは本当ですか?これ程光栄なことはありません。鬼灯君、どうかな?」

「全て、大王に従います。」

話が一気に進みすぎて、二人とも戸惑っているようだった。

まあ、そうだろう。

抱えていた問題がほんの数秒で綺麗に片付いてしまったのだから。

「白澤神、どこまでお礼を申し上げればよろしいのやら・・・」

「気にしないでください。お互いの泰平の為だとお考えください。」

「お心遣い、大変嬉しく思います。粗末な所ですが、今日はゆるりして行ってください。鬼灯君、ご案内して差し上げなさい。」

「はい。どうぞ、こちらへ。」

「うん。大王、今日はありがとうございます。薬学の件は、また追ってご連絡しますね。」

会釈をして裁判の間を後にした。

「ねえ、鬼灯・・・お前と話がしたいな。」

「・・・では、私の部屋へご案内します。」




















「狭くて申し訳ありません。」

通された部屋には辺りに所狭しと本が積まれており、傍らの机には和漢薬の研究道具や材料が乱雑に置かれている。

床に散らばった書類を掻き集める鬼灯。

「少し待ってください、片づけを・・・」

「鬼灯、大きくなったね。」

「!」

目の前を鬼を見つめて口を開く。

「あ、あの・・・文通、止めてしまい申し訳ありません。」

「そんなこと気にしてないよ。こうして元気な姿が見られたんだから。」

長めの横髪に指を通す。

「でも、その余所余所しい態度や言葉遣いは止めて欲しいな。」

「あ・・・すみません・・・。」

「お前は僕のことを師としか思っていないんだろうけど、僕は・・・違う。」

「え・・・?」

鬼灯が持っている書類をぱらぱらめくる。

「お前は昔から何も変わっていないね。頭が良くて、頑張り屋で・・・」

「白澤、様・・・?」

「そんなお前に昔から惹かれていた・・・好きだよ、鬼灯・・・もう、お前を子どもとか教え子としては見れない。」

「何、を・・・」

「お願い、黙って聞いて。」

僕の言葉に押し黙る鬼灯。

「僕ね、あの日お前に出会ってから日に日に運命って言うのを感じるようになったんだ。
僕とお前が出会ったのは偶然でも何でもない。初めからこうなるって約束されていたんだ。」

お前が大王の補佐官になることも、こうして再会出来たことも、全て。

「その・・・本当ですか?」

「冗談でこんなこと言わないよ。」

まだ信じられないというような表情をしている鬼灯を真っ直ぐ見つめる。

「あの・・・・・・嬉しいです。私も、ずっと・・・」

顔を真っ赤にして俯いてしまった鬼灯。

「言って?鬼灯・・・」

「・・・貴方をお慕いしております。幼子の頃からずっと・・・私が一人立ち出来た暁に申し上げるつもりでした。」

鬼灯も、僕と同じ気持だったんだ。

「賢くて優しい貴方をいつの間にか好きになっていました。ずっと、会える日を夢見ていました・・・っ!!」

堪らなくなって、鬼灯を抱き締める。

「嬉しいよ、鬼灯・・・お前に会えない間、忘れられたらどうしようとか考えてた。でも、余計な心配だったみたいだね。」

僕と同じくらいに背が伸びた鬼灯の腰に両腕を回す。

身長が殆ど変らないと言えど、腰回りは細く華奢だ。

「白澤様・・・お慕いして堪らない方をどのように忘れろと仰るのです・・・いつも、貴方のことを考えていました。」

遠慮がちに背に回される鬼灯の両腕。

きゅっとしがみ付く様は幼子の頃のそれと変わらない。

「よかった・・・・・・あと、さっきの薬屋の話も地獄の為でもあるけど、何よりお前と少しでも長く一緒に居たいからなんだ。正直、大王からの申し出が無くても、元よりそうするつもりだった。」

それにしても・・・

ゆっくり鬼灯から身体を離す。

「お前が和漢薬の研究をしているなんて驚いたよ。」

「・・・白澤様が・・・毎日、私との勉強の合間に薬の調合をしていたから・・・いつしか憧れて・・・それで・・・」

ああ、もう・・・何て愛おしいのだろう。

「これから、また貴方と勉強出来るなんて夢のようです。」

恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに言う鬼灯。

「僕もだよ。ねえ、お前のこと今まで以上に愛したいんだ・・・もっと、もっと・・・」

それだけ言うと、額の角にキスを落とす。

「!白澤さ・・・」

「ねえ、ただの師弟の関係じゃ嫌。もっと深く・・・ね?」

言葉の意味を理解したのか、鬼灯の頬がみるみる赤くなっていく。

しかし、その表情は酷く嬉しそうだ。

「・・・ええ、たくさん教えてください。神様・・・」

かつて孤独に晒され、朽ちかけていた幼子がこうして僕の前で笑っている。

「愛してる・・・ずっと一緒に居ようね。」

綺麗に微笑む鬼の赤く染まる頬に、もう一度口付けた。















無理やり両想い(笑)
もう少しお付き合いいただけたら嬉しいです。
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