【短編】現代(白澤×鬼灯)

□成長した鬼
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地獄に降り立ち、まっすぐ門を目指す。

程なくすると、立派な門が見えてきた。

両端に門番が立っており、昔のそれとは大違いだ。

「ごめんね、少しいいかな?」

槍を片手に立っている門番に話し掛ける。

「白澤様、お待ちしておりました。中へどうぞ。」

すぐさま門を開けて中に招き入れてくれた。

「ありがとう。」

「大王は閻魔殿でお待ちですよ。」

「閻魔殿?」

「ええ、あそこに見える一番大きな建物です。門前に案内役が居りますので、お声掛け下さい。」

門を抜けた正面には長い1本道が続いており、その先に一際目立つ建物がある。

恐らくあれのことだろう。

「分かった、丁寧にありがとう。」

門番に挨拶してから、閻魔殿を目指して真っ直ぐ歩く。

それにしても、地獄は見違えるほどに変わった。

様々な建物が立ち、道や広場が整備されている。

あの荒れ地のようだった場所と同じとは考えられない。

よほど尽力したのだろう。

閻魔大王も・・・鬼灯も。

早く鬼灯に会いたいな。

だんだん近づく門を見つめながら、そんなことを考える。

「あ、あれが案内役かな?」

門のすぐ側に人影が見える。

黒い着物を纏った長身の鬼がこちらに背を向けて立っている。

「ねえ、君が案内役かな?閻魔大王の所まで案内をお願いしたいんだけど・・・」

僕の言葉に反応して振り向く鬼。

その顔を見て、驚きのあまり目を見開く。

「よくお越しくださいました、白澤神。」

振り向き、恭しくこうべを垂れるその鬼は紛れもなく鬼灯だった。

額に生えた一本角、切れ長な目、それを縁取る紅。

見間違えるはずがない。

「鬼・・・灯?」

「ええ、そうですよ。お久しぶりですね、白澤様。」

驚きが隠せないでいる僕に対して柔らかく微笑む。

「あ・・・・・・」

突然すぎて、声が出ない。

咄嗟に抱きしめたくなったが、ぐっと堪える。

先ずは閻魔大王の元へ行かないと。

彼は忙しいだろうし、あまり待たせたくはない。

「後でゆっくりお話ししましょう。先ずは大王の元へご案内します。さあ、こちらです。」

先を歩き始めた鬼灯に僕は黙って着いていった。














「・・・ねぇ、鬼灯・・・」

「何でしょうか?」

「どうしてお前があそこに?」

「・・・ご存知かもしれませんが、私は大王の補佐官です。大王のお客様のお世話も私の仕事です。」

「あ・・・そうなの・・・」

淡々と言葉を並べていく鬼灯。

先程は笑みを見せてくれたが、それは束の間。

もう既に仕事の顔に戻っている。

どんどん目的の場所に向けて足を進める。

・・・ほんの少しだけ寂しいな。

いや、この子が立派に成長した姿を見れたのは嬉しいけど、僕が知っている鬼灯とはだいぶ違う。

でも、一つ確かなことは・・・

この子は僕のことを覚えていてくれた。

地獄に戻ってから一度も会いに行かなかったのに。

唯一の連絡手段だった文も途絶えてしまっていたのに。

会ってすぐに名前を呼んでもらえて嬉しかった。

大きくなった背中を見つめてそんなことを思った。

自然と、口元が緩んでいくのが分かった。

「鬼灯様〜!」

はっとして、声のした方を見ると小さな獄卒がこちらに走ってくる。

鬼灯は僕に「すみません」と一言挟んでから、走ってきた獄卒の身長に合わせるようにその場に屈み込む。

「どうしました、そんなに走っては転んでしまいますよ?」

「すみません、鬼灯様。急いで確認していただきたくて・・・」

差し出された書類を受け取って目を通す。

「前回申し上げた箇所も直っていますね。これでしたら満点です、頑張りましたね。」

柔らかい眼差しで小さな頭を撫でる鬼灯。

ふと、遥か昔に鬼灯の頭を撫でていた僕と、目の前の鬼灯が重なって見えた。

「ありがとうござます、お忙しいのにすみません。」

「構いませんよ。さあ、お行きなさい。」

「はい!」

その子は、頭を下げてから元来た道を戻っていく。

「お待たせしました、行きましょう。」

腰を上げて、僕を振り返る鬼灯。

「あ、うん。さっきの子、かなり小さかったね。」

丁度、僕と初めて会った頃の鬼灯くらいだった。

「ええ、大王のお考えで幼い鬼も獄卒候補として雇っているのです。幼い鬼は行き場が分からず彷徨ってしまう場合が多いので・・・」

「・・・」

「私も、いい案だと思っています。将来の人材を確保が出来ますし・・・それに、」

「・・・あ、」

その先が分かってしまって、切なくなる。

僕の心の内を悟ったのか、鬼灯が微かに口元を緩める。

「孤独に抗う幼子をもう見たくないのです。昔の私みたいな・・・。」

「鬼灯・・・」

「さて、続きは後にしましょう。こちらです。」

再び歩き出す鬼灯。

ああ、鬼灯・・・

本当に成長したね・・・

僕は彼の後に続いた。
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