【短編】現代(白澤×鬼灯)

□白澤さん宅でお夕飯
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ここは極楽満月の店内。

部屋中に薬の香りが充満している。

この密室の中で、僕は薬の受け取りに来た一本角と二人きり。

鍋の中身が煮立つ音がやけに大きく感じる。

さて、このまま後1時間待てば完成。

タイマーを1時間にセットする。

「長くてうざい前置きですね。」

「・・・え?」

奴の拳が飛んできて、僕の頬にクリーンヒット。

椅子から派手に転げ落ちる。

「いってぇな!!何?!お前読心術できんの??!気持ち悪!」

「さっきから口からダダ漏れなんですよ。このバカタレ。」

頬をさすりながら椅子に座り直して、再び鍋に向き直る。

「・・・」

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・なあ。」

「何ですか?口より手を動かした方が賢明かと思いますよ。」

「ちぇっ・・・沈黙は嫌いなんだよ。何か喋れよ。」

「無茶振りしないでください。その辺で歌うなり踊るなりしたらいかがです?」

至極、面倒臭そうに言う鬼灯。

「ん〜歌うならありかな・・・って、何カメラ出しちゃってんの?三脚まで立ててさ。」

いそいそとカメラを設置していく鬼灯。

ご丁寧にマイクまである。

こいつ、マジか。

「え、月刊・三途の川のいいネタに・・・」

「ならねぇよ。」

「ちっ」

あんなガセ雑誌にでも載ってみろ、1週間は寝込むぞ。

いくら神獣の僕でも無理。

精神崩壊する。

カメラを片付けている鬼灯を横目に、テレビをつける。

『本日のメニューは夏野菜の天麩羅で〜す。』

映し出されたのは、裸でばんざいしている赤ん坊がトレードマークの料理番組だった。

「これさ、お前が好きな現世の番組じゃん。」

「別に好きじゃありませんよ。昼休憩に食堂に行くと、必ずと言っていい程この番組が流れてるんです。」

「ふーん」

夏野菜たちが揚げられていく様子を二人でぼーっと見つめる。

「あ。」

鬼灯が間の抜けた声を出す。

「何、どした?」

「先月、貴方と桃太郎さんに夕飯ごちそうしましたよね?あれ、この番組を見てて思い付いたんです。」

夕飯?

あー・・・アレね、はいはい。

先月、こいつが僕と桃タロー君に麻婆豆腐を作ってくれたんだ。

僕のだけ正体不明の暗黒物質だったけどね。

『残したら地獄逝きですよ、白澤さん?』

奴の殺人鬼のような視線に抗えずに、その暗黒物質を半ば強引に胃へ流し込んだ。

そして、その翌日。

僕は1日の殆どをトイレで過ごした。

もうさ、内臓出そうだった。

ていうか、アレもう出てたよね?

知らないうちに再生しちゃってたんだよね?

あの『麻婆豆腐』、そこらの毒薬よりも強力だったと思う。

あぁ、忘れかけていたものが呼び起こされる。

吐き気がしてきた。

いかんいかん、夏野菜の天麩羅の映像で癒されよう。

ん?

これは、もしや・・・

「なあなあ、これって遠回しに僕に夕飯作って欲しいって言ってる?」

「・・・」

あ、鬼灯さんのお顔が恐くなっていく・・・

「・・・白澤さん、貴方の大変おめでたい脳味噌がどんな構造してるのか興味があるので採取させてください。」

金棒を持って、ゆらりと立ち上がる鬼灯。

「待て待て!そんなもんでブッ叩かれたら頭吹っ飛ぶって!!」

じりじりと近づいてくる鬼灯。

「いえ、頭を吹っ飛ばす気はありませんが、貴方が望むなら・・・・」

「望んでません!!!すいません!!!!!」

鼻先に金棒が突き付けられる。

あ、殺られる。

「しかし、」

「ん?」

すっと目の前から金棒が退く。

「・・・貴方の手料理、気にならんこともない。」

「な、ならさ、明日の夕飯食いに来いよ。」

少し考え込んだ後、小さく頷く鬼灯。

同時に心の中で安堵する。

一応、脳漿炸裂ボーイにならずに済んだ。

炸裂したら掃除が大変そうだ。

「やっぱ僕の手料理食べたいんじゃん〜」

肘で軽く小突いてやる。

「・・・当然、神獣の脳味噌汁付きますよね?」

「すみませんもう何も言いませんすみませんすみません。」

脳漿炸裂危機再来。

もう黙ってよう。

「で、何食べたいの?」

「特にこれって言うものは無いので、お任せします・・・・・あ。」

懐をごそごそ漁っている。

「何、なんか思い付いた?」

「白澤さん、これ・・・」

鬼灯が懐から取り出したのは・・・

『調理時間10分!超簡単豚角煮の素』

「一応聞くけどさ、お前本当にこれ食べたいの?」

「ええ、貴方の肉で。神豚の肉なんてさぞ美味しいことでしょう。」

やっぱり僕のこと食おうとしていた。

「ふざけんな!この人食い鬼神!!」

「おや、今の今まで食用豚かと思ってました。」

「僕は豚じゃねぇ!!!」

「そうですか、では・・・」

またも懐に手を突っ込んで漁っている。

もう嫌な予感しかしない。

「これ・・・」

と言って、出てきたのは・・・

『時短!本格ローストビーフの作り方』

ほらな。

「豚でないなら、牛・・・」

「じゃねーよ。」

鬼灯の言葉を遮る。

「あれも嫌、これも嫌とは全く我侭な動物ですね。」

「今までの会話で僕が肯定できる要素あったか?無かったから否定したんだけど。」

はーっと大きくため息を吐く。

「ところで、明日は何時に伺えばいいですか?」

「ん?ああ、お前の仕事が終わり次第で良いよ。」

「分かりました。」

こいつとやり合っているうちに猫好好ちゃん型のタイマーが1時間経過を知らせる。。

「じゃあ、そういうことで。はい、薬。」

空き瓶に薬を詰めて鬼灯に投げ寄越す。

「ありがとうございます。では、失礼します。」

僕に背を向けて扉に向かう鬼灯。

「あ、」

ぴたりと立ち止まってこちらを振り向く。

「これ、良かったら使って下さい。」

投げられたのは、さっき奴の懐から出てきた角煮の素とレシピ本。

「いや、別にいらないし・・・って、行っちまった。」

ぴしゃりと閉められた扉を見る。

ま、偶にはこういうの使ってみても良いかな・・・

袋の裏を何となく見てみる。

「??!」

右下のごくごく小さい印字に目を疑う。

えーっと?

今、何年だ?

「・・・・・・」

この素、賞味期限が5年切れてる。

「まさか・・・」

はっとして、反対の手にあるレシピ本を見る。

中をぱらぱらと見ると・・・

「ぶっ」

思わず吹き出した。

この本、

表紙→目次→何かの応募要項→よく分からない広告→索引→裏表紙で構成されていた。

レシピが一つも載ってない、っていうか破り取られてる。

レシピ本なのに。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!」

店の扉を開け放って叫ぶ。

「ちくしょおおおぉぉぉぉ!!!やることが一々幼稚なんだよ!!バカ鬼があぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!!!」

うんともすんとも返って来なくて、何故か虚しくなり店の中に引き返す。

「ったく、あいつは〜〜」

ぶつぶつと悪態を吐きながら鍋の片づけをしていると、桃タロー君が地獄への配達から戻ってきた。

「白澤様、あんたのバカでかい声が地獄の門まで丸聞こえでしたよ。恥ずかしいったらありゃしない。少しは静かに出来ないんですか。」

「帰ってきて最初の言葉がそれか。君もなかなか成長したね。」
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