【短編】現代(白澤×鬼灯)

□豚に貯金は出来るのか
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「じゃあ、手始めに通帳見せて。」

「は?」

「何でお前なんかに見せなきゃいけないんですか。」

「その方がモチベーション上がるだろ?ほらほら、見せてっ♪」

モチベーションも何も、お前の残金は6元なんだから最下位確定だろ。

まったく、どこまでも醜い奴だ。

「しょうがないですね・・・ほら。」

懐から通帳を取り出し、奴に投げ寄越す。

「どれどれ〜・・・って、何コレ?!お前金使わないの??!!!」

食い入るように私の通帳を見る白澤さん。

そんなに見るな、通帳が穢れる。

「使ってますよ。酒やら金魚草の世話道具やら・・・」

「それでも残りすぎだろ?!おかしいだろ!」

「お前の頭がおかしいんだよ。」

どこまでも食らいついてくる豚を一蹴する。

「はー・・・じゃ、次。桃タロー君。」

「はい、どうぞ。」

ぺらりと桃太郎さんの通帳をめくった豚はまたも奇声を上げる。

「うえ?ええ??えええ??」

「白澤様、日本語で話してください。」

「桃タローくん・・・月給5万でどうやったらここまで貯まるの?」

1人で焦る愚かな上司に、面倒臭そうに口を開く。

「俺、薬局の仕事終わった後に街の酒屋で副業してるんですよ。」

「え?!何ソレ、僕知らないよ!」

「そりゃ、言ってないからな。」

「ええーーー。でもさ、いくら副業しててもコレは残りすぎでしょ?!ねえねえ、どうやるの!?ねえねえねえねえ!!!」

「その知識の詰まった頭でよく考えてみてください。」

桃太郎さんは足元でアホ面下げている上司に嫌味たっぷりに言い放つ。

はあ、桃太郎さんが気の毒すぎて頭が痛い。

「・・・謝謝。返すよ・・・。」

白澤さんの後ろに暗い影が見える。

モチベーションとやらが上がる筈ではなかったのか。

1人でショックを受けている豚を無視して、桃太郎さんは紙に筆を走らせる。

「このバカの分は日本円で換算すればいいっすよね?」

「ええ、良いと思いますよ。」

「じゃあ、端数は切り捨てて・・・こんな感じっすかね〜」

桃太郎さんは私に紙を見せる。

『鬼灯さん:5600000円 桃太郎:700000円 バカ上司:24円』

白澤さんの残念さに笑いが込み上げてくる。

「じゃあ、1か月後の仕事終わりにこの店に集合しましょう。それでいいですか?鬼灯さん。」

「ええ、構いませんよ。」

「あんたは?」

「是・・・」

何だかよく分からない競い合いに巻き込まれ、この日はお開きになった。

結局、満足に呑めなかった。

明日薬を取りに行くついでに腹いせに奴をぶちのめそう。












【1か月後・・・】

「すみません、なかなか仕事にキリが付かなくて・・・」

約束していた時間より30分ほど遅れて店に到着した。

「いえいえ、気にしないでください。」

「・・・・・・。」

笑顔で席を進めてくれる桃太郎さん。

その隣で大人しく正座している白澤さん。

流石に今の立場上、いつもの様に酒を煽ることは出来ないようだ。

同じ屋根の下で暮らすこの2人・・・

この1か月間、どんな生活をしてきたのだろう。

非常に気になる。

後で桃太郎さんに訊こう。

「じゃあ、さっそく始めましょうか。」

奴から持ち掛けてきたことなのに、桃太郎さんが淡々と仕切っている。

頬をひきつらせ、硬直している豚さん。

まあ、奴の心境など手に取るようにわかる。

今夜は血祭だな(笑)

「まず、俺からお見せしますね。」

私たちに向かって通帳を広げる。

「すごいじゃないですか。」

「飲みに行く回数をかなり減らしたんですよ。副業もいつもより多めに出ましたし。」

桃太郎さんの残額は85万円。

15万円貯金できたことになります。

白澤さんが桃太郎さんの通帳を見て震えている。

哀れすぎる。

あ、私の番ですね。

「はい、私のもお見せします。」

通帳を開いて2人に見せる。

「流石は官吏っすね〜!ケタが違う・・・」

「いえ、早出と残業が多いので・・・基本給で考えるとそれほどでもないですよ。」

私の残金は600万円。

40万円貯金できました。

さて、

「ほら、あとはあんただけですよ。さっさと通帳出してください。」

桃太郎さんが手を出して通帳を出すように促す。

「あーー!もうヤケクソだ!!ほら!」

奇声を発しながら通帳を投げる。

開かれる奴の通帳。

どれどれ・・・・・・

残金の欄に記載されている数字は・・・

『−46250元』

え?

いやいや、待て。

4の前についてる横棒は何だ。

こんなことあるのか。

隣の桃太郎さんを見ると、みるみる顔が赤くなり、額に青筋が立つ。

「白澤様・・・これは?何がどうなったらこうなるんです?」

口調は穏やかだが、目が殺人鬼の目だ。

「い、いや〜先月の花街で滞納していた分が・・・ね。」

「・・・鬼灯さん、今日ここが殺人現場になるかもしれません。」

桃太郎さんが、ゆらりとこちらを振り返る。

「構いませんよ、こういう類の揉み消しは得意です。」

「ちょ・・・お前ら目が恐・・・おぎゃああああぁぁぁぁああぁッッッ!!!」

桃太郎さんが渾身の力で豚を投げ飛ばす。

殺るときは殺るんですね、桃太郎さん。

ボロボロになっていく豚をただただ、ゴミを見るような目で見下ろす。

豚が動かなくなった頃、桃太郎さんは顔についた返り血を三角巾で拭いながら私の方に向き直る。

「こいつの金の管理は俺がします。」

傍らに転がっている肉塊を顎でしゃくって言う。

「それが賢明です。言うまでもないかと思いますが、一応貯金した額を纏めました。」

『鬼灯:400000円 桃太郎さん:150000円 豚:−184976円』

「俺、マジで転職しようかな・・・」

「いつでもお手伝いしますよ。」

こうして、このバカげた競争は終わった。

結論・・・

このバカに貯金など到底無理ですね。











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