【短編】現代(白澤×鬼灯)
□鬼灯の簪
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「それは良かったです・・・私一人で自惚れていたらどうしようかと思いましたよ。」
指先で簪を弄る。
簪をよく見ると、あの時と同じようにその美しさを保っていた。
少しの傷も劣化も無く、初めてこの手に取ったときのものと全く同じに見えた。
「もう、丁ではありませんが・・・この簪を手に取ると、あの頃のことを鮮明に思い出すのです・・・鬼灯となった、今でも・・・」
まだ言葉を紡ごうとする鬼灯を抱き締めた。
「覚えていない訳無いじゃない・・・僕ね、あの日・・・この簪の玉飾りが熟れた鬼灯みたいだなって思ったんだ・・・これって、偶然なんかじゃないよね・・・?」
「はくたくさん・・・」
「お前が『丁』だろうと、『鬼灯』だろうと、お前であることには変わらない・・・簪、大事にしてくれてありがとう・・・」
簪を持ち上げて、赤く輝く玉飾りに口付けを落とす。
「白澤さん・・・私、貴方と恋仲になれて・・・嬉しいですよ・・・」
鬼灯が僕の頬に小さく音を立てて口付けた。
「あの日よりもずっと、ずっと前から貴方のこと・・・・・・っ・・・」
恥ずかしいのか、俯いてしまった。
「言って・・・?鬼灯・・・」
耳元に唇を寄せ、続きを促す。
「貴方が好きです・・・幼子の頃から抱き続けてきた想いです・・・ですから・・・」
「うん・・・分かってるよ。僕だって、何千年もお前のことを想っていたんだ。ずっと側に居るから・・・」
一瞬、鬼灯が小さく見えた。
はくたくさま、と笑顔で慕ってくれたあの子に。
何とも言えない想いが込み上げてきて、鬼灯の身体を更に強く抱き締めた。
「お願いだから、僕の前から居なくならないでね・・・お願い・・・」
鬼灯の腕が僕の背に回される。
「ええ、居なくなりませんよ。貴方こそ、私から離れたりしたら容赦しませんよ。」
暫く抱き合った後、ゆっくり身体を離す。
「今日、泊まっていくでしょ?」
綺麗な黒髪に指を通し、長めの横髪をくるくると巻いて纏める。
鬼灯の手から簪を取り、そこへ挿す。
「どうせ、帰す気など無いのでしょう?」
「分かってるじゃん〜」
「全く・・・仕方のない神様ですね・・・」
鬼灯は、くすりと笑うと、僕の前髪を掻き上げて額の目に口付けた。
「こら・・・あまり煽らないで・・・」
「煽ってやってるんですよ・・・」
そのまま、額の目に舌先を這わせる。
「・・・誘ってるって捉えてもいいんだね・・・?」
一段、声を低めてやると、鬼灯の肩が微かに戦慄いた。
「ちょろいですね・・・」
「お前限定で・・・ね?」
いつまででも挑発的な鬼灯の顎を掴み上げ、その唇にむしゃぶりつく。
あの簪が、ここまで僕らを繋ぎ止めているとは思わなかった。
『どうか、お前が大人になっても、その簪を使い続けておくれ。』
願うまでもなかったかな・・・?
今、鬼灯の右耳の上で揺れている簪は、永遠に僕らを繋いでくれるだろう。
完
一応、ここで終わりますが、隠れ続編(?)みたいな感じで裏書きます!
お付き合い、ありがとうございました。