【短編】現代(白澤×鬼灯)

□鬼灯の簪
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「ごめんください・・・」

「え・・・鬼灯・・・?」

店に入ってきた人物に驚く。

「なにアホ面して固まってるんですか・・・」

「あ・・・ああ、お前仕事は?それに、その恰好・・・」

口は相変わらず悪いが、いつもと服装が違う。

黒と赤の着物ではなく、濃い灰色の着流しを着て、橙の帯を締めていた。

「これですか?私服ですよ。休みの日にあの恰好で閻魔殿に居ると、紛らわしいから私服に着替えろと大王から言われたんですよ・・・」

「そう・・・なんだ・・・」

ここ数百年くらい、あの黒の着物を着ている鬼灯しか見ていなかったので、いきなり着流しで現れれば驚きもする。

「着流しもなかなか楽ですね。襦袢が無い分、涼しいです。」

ぱたぱたと手で仰ぐ仕草を見せる。

「・・・とにかく、座れよ。」

「ええ、お邪魔します。」

・・・。

なんか、気まずい・・・

ただ、服装が違うだけでこうも変わるものなのか。

落ち着け、僕。

一人で動揺して、馬鹿みたいじゃないか。

「緑茶でいい?」

「ええ、お願いします。」

鬼灯がこちらを向いて少しだけ笑った。

「・・・!」

心なしか、鬼灯の表情が柔らかい気がする。

うーん、何だろうな・・・

無駄に思考をぐるぐる廻らせながら、お茶の支度をする。

「ほら。・・・っていうかさ、何しに来たの?薬の注文は無いだろ?」

鬼灯の前にお茶を出しながら、ふと思ったことを口にした。

「・・・薬の注文が無いと、来てはいけないのですか・・・?」

目の前で揺れるお茶に視線を落として、少し悲しげな声音で言う。

「い、いや・・・そんなことないよ。僕が悪かった・・・急すぎて驚いただけ・・・」

向かいに座る鬼灯の頭に手を伸ばし、優しくなでる。

「・・・!鬼灯、これ・・・」

ふと、鬼灯の帯に視線を落とした際に、あるものが目に入った。

あの簪だ・・・

もう何千年も前に、僕が鬼灯に買ってあげた・・・

その簪が、帯飾りとして鬼灯の着物を・・・いや、鬼灯自身を美しく飾っていた。

「今日・・・何の日か覚えていますか・・・?」

鬼灯は目を伏せて、帯から簪を引き抜いてカウンターに置く。

「もちろん。」

この簪をこの子に買ってあげた日だ。

今でも鮮明に覚えている。

お前は・・・丁は・・・

勉強熱心で、感心させられたよ・・・

でも、人間を極度に恐れていたね・・・

一緒に買い出しに行って少しずつ慣れていったよね・・・

一回りも二回りも成長したお前に買ってあげたこの簪・・・

忘れるわけがない・・・
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