【短編】現代(白澤×鬼灯)
□お前の気持ち、聞かせてよ。
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「お待たせ〜・・・ん?」
鬼灯が一点を食い入るように見ている。
彼が見つめる先を見ると、夢に出てきた白ゆりがあった。
あの日・・・丁からあの白ゆりを貰った日に、永遠に咲き続けるようにまじないを掛けたから、今でも美しさを保っている。
今までは寝室に置いてあったが、日がよく当たる店先に移動させたのだ。
「白澤さん・・・あれ・・・」
白ゆりを指差す鬼灯。
「あぁ、懐かしいだろう?」
「・・・・・・まだ、あったのですね・・・」
「当たり前だろう?他でもないお前から貰ったものなんだから。」
鬼灯が目を伏せて、目の前の茶に口をつける。
「あんな昔のこと・・・」
「昔のお前は素直でさ、僕に毎日好きって言ってくれてたよな・・・」
「そうでしたっけ・・・?」
至極、興味が無いと言いたげな鬼灯だが、頬に薄く朱が差している。
「お前が鬼になってから再会して、また一緒に住んだよな。」
「ええ、そうでしたね・・・」
「お前が成人して、僕の想いを告げて、お前はそれを受け入れた。それから千年経って今に至る。」
「・・・・・・」
「僕は、昔と変わらずお前が好きだよ。どうしようもないくらい愛してる。」
「っ・・・」
恥ずかしいのか、ふい、と顔を背けてしまった。
もう耳まで真っ赤だ。
「ねえ、鬼灯は?まだ、僕のこと好き?ここ最近、お前の気持ち・・・聞いてない気がする・・・」
先程まで見ていた夢が蘇る。
『はくたくさま、大好きです。ずっとずっと・・・』
時が経つにつれ、鬼灯から「好き」が紡がれる回数が減っていった。
僕は昔から変わらず、鬼灯にありのままの想いを伝えている。
でも、鬼灯は・・・?
最後に鬼灯の気持ちを聞いたのは、いつだっただろう・・・
考えれば考えるほど、不安になる。
「あ、あの・・・・・・」
「うん。」
鬼灯の唇が少しずつ動き出す。
「・・・私は、昔とは違って気持ちを言葉にするのは・・・苦手です・・・」
「・・・うん。」
でも、と鬼灯が続ける。
「私の気持ちは変わっていません。あの白ゆりを貴方に贈ったあの日から・・・」
僕の目を真っ直ぐ見据えている切れ長な黒い瞳。
ほんの少し躊躇った後、再び唇が開かれる。
「・・・白澤さん、貴方をお慕いしています。なかなか口には出来ませんが、いつも貴方の事を想っています。」
「鬼灯・・・」
「ですから・・・そんな悲しそうな顔、しないで・・・」
きゅっと僕の白衣の裾を掴む。
「貴方は私に所構わず想いを伝えてくれるから・・・いつまでも愛してくれているのだと、どこか安心してしまっていました。」
「・・・」
「・・・想いというのは、口に出さないとなかなか伝わらないものですね。これからは善処します・・・」
鬼灯が微かに笑った。
「・・・やはり、貴方には白い花がよくお似合いです・・・これから先も、昔と変わらない貴方でいてください・・・」
僕越しに白ゆりを見たのか、そう言って再び唇に孤を描く。
「鬼灯・・・!」
堪らず、目の前の子を抱き締める。
「お前の気持ち、聞けて嬉しいよ。僕を好きでいてくれて・・・ありがとう。愛してるよ・・・ずっと・・・」
恥ずかしそうに僕の肩口に顔を押し付ける鬼灯。
それが堪らなく愛おしくて、その艶やかな黒髪に指を絡ませる。
微かに桃の香りを纏った風が心地良い。
今日は最高の日だ。
この子の・・・鬼灯の気持ちを久しぶりに聞けたから。
終