【短編】現代(白澤×鬼灯)

□お前の気持ち、聞かせてよ。
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「はくたくさま!」

高めの声が自分を呼んでいる。

読んでいた書物から目を離し、声のする方へ顔を向ける。

幼子が満面の笑みを湛えて駆け寄ってきた。

「はくたくさま、はくたくさま!」

僕の膝を叩く。

「何だい?」

幼子を膝に乗せ、頭を撫でてやる。

「これ!はくたくさまにあげます!」

「ゆりの花?」

差し出された一本の白ゆり。

甘い香りが鼻を擽る。

「ありがとう。」

その小さな手から白ゆりを受け取る。

「はくたくさまは白いお花がよくお似合いです!」

鈴を転がしたような声で笑いながら言う。

「そうかい?ふふふっ・・・これ、大事にするね。」

僕の言葉に嬉しそうに膝の上でぴょんぴょん跳ねる幼子の頭をもう一度撫でてやる。

「はくたくさま、大好きです。ずっとずっと・・・」

曇りのない大きな瞳が僕を映す。

「ありがとう。僕も、大好きだよ。」

「はくたくさま・・・」

ぎゅーっとしがみつく幼子。

愛しさが込み上げてくる。

「可愛いね。好きだよ・・・丁。」

笑みを浮かべる愛しい子の顔が、霞んでいく。

あれ・・・?














「・・・さん・・・!」

「うー・・・ん・・・?」

意識が少しずつ覚醒していく。

「白澤さん!」

あれ・・・鬼灯・・・?

目をうっすらと開けると、黒い着物が目に入る。

「んー?」

「いつまで寝ぼけてるおつもりですか?」

「・・・ほ・・・ずき・・・?」

目の前には怪訝そうな表情の鬼灯。

・・・・・・・・・。

あ、そうか。

鬼灯から薬の受け取りの連絡が来て、特にやることもなかったから、ぼんやり待ってたら寝てしまったようだ。

「ああ、ごめんね。暖かくて気持ち良かったから、つい・・・」

「いいですから、さっさと薬下さい。まだ仕事が山ほど残ってますので。」

「はいはい、お前もよく働くよね〜」

伸びをして、椅子から立ち上がる。

「年末は処理する案件が増えますからねぇ。」

気怠そうに言う鬼灯。

「ふ〜ん。年末年始は店閉めるし、雑務なら手伝うよ?」

「そうですか。なら、人手が足りなくなったときはお願いします。」

「はいはい・・・っと。」

鬼灯が僕の提案を受け入れるなんてほとんど無い。

ということは、地獄はよっぽど忙しいのであろう。

薬棚を漁って注文されていた薬を探す。

「あったあった。はい、強壮剤と風邪薬・・・あと、金丹ね。」

袋を次々と鬼灯に渡していく。

「確かに・・・」

中身を軽く確認して、お代をカウンターに置く。

「まいどあり。・・・なあ、茶でも出してやるから少し休んでいけよ。もう今日は上がったんだろ?」

「だから、まだ仕事が残っているとさっきも・・・まあ、いいでしょう。たまには大王に働いてもらいましょう。」

傍らに居たうさぎを捕まえて膝に乗せる。

「じゃあ、ちょっと待ってな〜」

茶器を取りに台所に向かう。

いつもより幾分か素直な鬼灯に自然と笑みが零れる。
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