【短編】現代(白澤×鬼灯)
□私の話、聞いてます?
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仕事が一段落した昼下がり。
今日、薬の納期だったか・・・。
立ち上がって出かける支度をする。
すかさず、一子と二子が走り寄ってくる。
「おでかけ?」
「どこ行くの?」
私の着物の裾を両方から引っ張る二人。
「薬を受け取りに桃源郷へ出掛けてきます。」
「いってらっしゃい。」
「スケコマシによろしく。」
「はいはい、行ってきますね。」
棒読みで淡々と言う一子と二子の頭を撫でる。
金棒を担いで閻魔殿を出た。
「ごめんください、お薬できてますか?」
店に入ると、気怠そうに鍋を掻き回している店主と目が合った。
「・・・これが出来たら渡せるよ。ったく、こんな複雑な調合を1週間でやれなんて無茶言いやがって。つくづく鬼だな。」
「それは大変失礼しました。ところで桃太郎さんは配達ですか?」
いつも出迎えてくれる桃太郎さんが居ないのが少し気になる。
「棒読みで言われても誠意が伝わってこねぇよ。桃タロー君は、色々手伝わせた挙句徹夜させちゃったから、今日は休ませてるよ。」
「そうですか、桃太郎さんには申し訳なかったですね。」
「僕も徹夜なんだけど?僕の心配は??」
白澤さんは自分を指差して甘えたような声で言う。
「貴方は一日中女性と遊べるほど元気なんですから、一徹くらい何ともないでしょう?」
「うわ〜容赦ないねぇ〜〜」
業とがっかりしたように肩を落として見せ、椅子から立ち上がる。
「えーと、これとこれと・・・あ、これもか。」
引き出しから生薬を次々と取り出して腕に抱える。
「大変そうですね。」
「うん、お前のおかげでね。」
厭味ったらしい声で返ってくる返事。
「今日はお店お休みにしているのですね。」
「うん、ずっと薬作ってるからね、臨時休業。」
「そうですか。」
「うん、そうだよ。」
取り出した生薬をカウンターに持って行き、刻んでいく。
「白澤さん。」
「うん、なあに?」
「今年も運動会の救護班、引き受けていただけませんかね?」
「うん、いいよ。」
「ついでに、来週の健康診断の問診票も作っていただけませんか?」
「うん、いいよ。」
生薬を手際よく刻んでいく白澤さん。
私の話を聞いているのか、いないのか、「うん、いいよ。」しか返ってこない。