【短編】現代(白澤×鬼灯)

□こんな日も・・・
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桃源郷に着くまで随分と時間がかかってしまった。

やっと奴の薬局が見えてきた。

薬局が近づくにつれ、歯を食い縛って、痛みで若干前屈みだった姿勢を真っ直ぐ正す。

あいつに気付かれるわけにはいかない。

絶対に・・・

「・・・はあ。」

やっとの思いで店の前まで来た。

「御免下さい・・・」

「あ、鬼灯さん。待ってましたよ。」

桃太郎さんが笑顔で迎えてくれた。

「遅かったじゃん。」

「・・・貴方と違って仕事が溜まっているので少し片付けてから来ました。」

カウンターに頬杖をついてだらしなく携帯をいじる店主に嫌味たっぷりに言ってやった。

「へーへー。どうせ僕は暇人ですよ・・・っと。今持ってくるから大人しく待ってな。」

そいつ、白澤さんは椅子から立ち上がり店の奥へ入って行った。

私は奴が見えなくなったのを確認してから、金棒を引きずりながらカウンターに近づき、椅子に腰かけた。

「はあ。」

そして、ため息を一つ。

「あの・・・どこか具合悪いんじゃありません?」

桃太郎さんが心配そうに声を掛けてくれた。

「いえ、ちょっと徹夜が続いていまして・・・」

「そうですか・・・眠れるときにちゃんと寝て下さいよ。」

「ええ、お気遣いありがとうございます。」

どうやら、顔に出てしまっていたようだ。

徹夜明け並みに酷い顔になっているということか・・・

本当は昨日一昨日と休みを貰っていた。

春一さんに相談事があった為、泊りがけで八寒地獄に行っていた。

「桃タローくーん!ちょっと手伝ってー」

奥から白澤さんの声がする。

「あ、はい!鬼灯さん、もう少しお待ちください。」

桃太郎さんは声の主のもとへ向かった。

「はあ・・・」

またため息。

腹が痛い・・・

こんなに酷い腹痛はいつ振りだろうか。

やはり、明日来れば良かった・・・。

出直そうか・・・・・・

気付いたら、爪の表面を擦っていた。

ああ、まただ・・・

私には昔からおかしな癖がある。

体調が優れないと無意識に指先をいじってしまう。

気を紛らわそうとしているのか、気付いた時には勝手に手が動いているのだ。

今になっても治らないのは考え物だ。

そんなことをぶつぶつ考えていると、白澤さんと桃太郎さんが戻ってきた。

桃太郎さんは、白澤さんに使いを頼まれたようで、私に挨拶をして店を出て行った。

「・・・あ。」

「あぁ?」

白澤さんは私の顔を見るなり間抜けな声を出した。

「・・・」

「何です・・・?」

奴の目は私の手元に向けられている。

なんだ、こいつ・・・

「・・・薬代はいくらです・・・?」

何も言わない白澤さんにイラつきながら懐から財布を出す。

さっさと部屋へ帰って寝たいのだ。

正直、座っていることすら辛い。

「お前・・・僕の部屋に来い。」

目の前の男はそう言うと、私の手を掴み強引に引っ張った。

「ちょっ・・・?!白澤さん!」

上手く力が入らない私は抗うことが出来ず、そのまま奴の部屋に引きずり込まれた。
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