【短編】現代(白澤×鬼灯)

□甘いものと傷薬
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「お前、あとどれ位休み時間残ってるの?」

「あと30分くらいですかね。」

鬼灯は僕には目もくれずにうさぎと戯れている。

話してる時くらい僕のこと見ろよ・・・

そんなことを考えながら、湯が沸いた鍋に手を掛けた。

「熱・・・っ・・・!」

鍋が思ったより熱く、思わず声を上げてしまった。

指先がほんの少し痛む・・・

まあ、いいや。

こいつが帰ったら治そう。

僕は火傷をそのままにして、さっさと茶を淹れ、鬼灯の前に出した。

ナツメの甘露煮も忘れずに。

「・・・甘ったるい香りがすると思ったら・・・これでしたか。」

「お前、昔から好きだろ?これ。」

ほら、と楊枝に一つ挿して鬼灯に差し出した。

「疲れたときには甘いものが一番だよ。」

奴は一瞬、苦い顔をしたが、ため息を吐いて楊枝を受け取った。

「はあ、いただきます。」

鬼灯は、ぱくっと甘露煮を口に放り込んだ。

「おいし?」

わざとらしく訊いてやる。

「・・・ええ。とても。昔と同じ味です・・・」

あれ?

妙に素直だな・・・

「昔を思い出します・・・。あの頃は貴方に甘えてばかりで。」

鬼灯の表情がほんの少しだが、和らいでいる。

懐かしいです・・・と呟いて、また一つ甘露煮を口に運んだ。

「・・・いつでも作ってやるから、疲れたら来いよ。」

「・・・・・・考えておきます。」

鬼灯の耳の先がほんのり赤みを帯びているのを僕は見逃さなかった。

「ふふふ。お前、仕事終わったらちゃんと寝ろよ?」

「母親みたいですね、貴方。」

「ん〜?お前にとったら僕は母親みたいなもんだろ?」

ずーっと側で見ててやったんだから、さ。

「な・・・」

「もう、ご褒美がなくてもちゃんと寝れるよな?」

なかなか昼寝しない幼子に「木の実を取りに行こう」と褒美をちらつかせて寝かしつけたあの日を思い出した。

僕は鬼灯の目元の隈を指先でなぞった。

殴られるかな?

「・・・何言ってるんです。当たり前でしょうが。」

鬼灯は口許を微かに緩ませてそう言うと、僕の手をやんわりと引き剥がした。

あ、殴られなかった。

「ところで貴方・・・」

鬼灯は思い出したように呟いた。
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