【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□呪いの瞳と無言の願い
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「あの日からもうずいぶん経ったな・・・」


今日も平和な一日が終わろうとしていた。


「・・・・・・。」


日が傾き、橙に染まる景色を窓から眺める。


「今日は確か・・・満月だ・・・」


指を折って日付を数えていく。


・・・間違いない、今日が満月の日だ。


「白澤様はまだ帰って来ないし・・・」


彼が帰って来るのは夜だと言われていたので、それまでの暇つぶしには丁度良い。


日が暮れたのを見計らって、家から然程遠くない湖畔まで足を運んだ。


湖畔に着いた頃には、辺りはすっかり闇に包まれていた。


水辺のすぐ近くに腰を下ろして息をつく。


そのまま首を上げて空を見てみる。


「わ・・・」


よく考えたら、今までこうして空を見上げたことが無かった。


満天に瞬く星の海の真ん中に大きな月が浮かんでいた。


夜風が頬を、髪を撫ぜるのが心地良い。


時々、こうして独りになると考えることがある。


・・・それは、


「鬼灯、ここに居たんだね。」


「白澤様・・・」


聞き慣れた声に反応し、振り返った先には白澤が立っていた。


仕事終わりにそのまま来たのであろう。


まだ正装のままだった。


「もう天のお勤めは終わったのですか?」


「うん、思ったより早く終わって助かったよ。」


独りになると頭をよぎること・・・


そう、月に負けないくらい美しい微笑みを持つこの人のことだ。


気が付けばこの人のことを頭に浮かべていた。


今までは、彼が近くに居るのが当たり前すぎて気付かなかったけれど・・・


「鬼灯?そんな薄着で出てきて、寒くない?」


「ええ、平気です・・・」


彼が口にする『鬼灯』とは私の名だ。


この人が、私が持つこの瞳を熟れた鬼灯に例えて付けてくれたのだ。


今まで呪いの印だと信じ込んでいた瞳と絡めた名だが、私は気に入っている。


この人が私の為に考えて、私の為にこの名を与えてくれたのだから。


嬉しくない訳が無い。


水鏡に映る自分の赤い瞳を見て微笑む。


「鬼灯。」


鈴のような声で呼ばれる自分の名。


「はい、白澤様。」


自分を呼ぶ声の主に笑みを向ける。


私は・・・彼のことを本当の父のように兄のように、彼のことを慕っている。


私に優しい瞳を向け、頭を撫でて、手を握ってくれる。


けれど、時には厳粛な天の神へと姿を変える。


私は・・・そんな美しくて高貴な彼のことを・・・


・・・好きになってしまったようだ。


「月を見るのはそれくらいにして、部屋に戻って一緒にお茶を飲もう。」


差し出されたしなやかな手。


その手を迷わず取る。


壊れ物を扱うように優しく柔らかく握り返される。


彼への恋しさが胸を甘く締め付ける。


もしも、願い事をするのなら・・・


出来ることなら、この人に想いを伝えて・・・


そして・・・、


気高い神へ向けた己の想い、願い・・・


私には過ぎた願いかもしれない・・・


でも、


・・・ずっとずっと胸に秘めて、口に出さなければ・・・叶うはず。


この胸の高鳴りを貴方には秘密にしたままで・・・































鬼灯ちゃんの恋模様をお届けしました〜
頑張って続けます(*^_^*)
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