【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□穢れた血と名。
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昼間でも木々の陰で薄暗いこの森は大人でさえも簡単に道を見失ってしまう。

あのような幼子一人では、あっという間に迷ってしまうだろう。

早く、早く見つけてあげなくては。

丁の微かな気配を探りながら辿り着いた場所。

そこは、

約ひと月前、丁に出会った場所だった。

遠くの方で蹲る小さな背中が見えた。

漸く見つけた安堵の溜め息を吐いてから、丁の元へ向かう。

「見つけたよ。随分遠くまで走って来たね。」

「!?は、はくたく・・・さま・・・」

肩を跳ねさせた後、恐る恐るこちらを振り返る丁。

その怯えきった表情と震える身体。

痛々しくてならない。

「・・・どうして泣いてるの?そんなに痛い?」

「あ・・・あの・・・違・・・」

丁が庇う左の指に目をやる。

乱暴にこすった所為か、血は止まるどころか更に滲み出て丁の白い指を赤く染めている。

こうも必死に血を隠そうとするのには何か理由がある筈だ。

「だめ・・・なのです・・・」

「何がだめなの?僕に教えてよ。」

気が動転している丁を落ち着かせるように、冷たくなった頬を両の掌で包み込んでやる。

「大丈夫・・・大丈夫だから。・・・ね?」

涙の跡を残す目元を優しく撫でる。

落ち着きを取り戻した丁の小さな唇が少しずつ動き出す。

「血・・・」

「うん、血がどうしたの?」

「私の血は穢れてるから・・・触ってはいけないのです・・・ッ」

「え・・・・・・どういう、こと?」

丁の口から発せられた言葉が信じられなかった。

「私は両親を亡くした孤児です。私が暮らしていた村では、孤児は死神に親を奪われた呪われた子と言われています。」

「・・・・・・。」

「ですから、私の身体を流れる血は、村のみんなと違って卑しくて・・・穢れているのです。」

細い腕で震える自分の身体を抱き締めている。

己を支配する孤独と屈辱に抗うように。

もう、見ていられない。

「・・・坊や。こっちにおいで・・・。」

「ッ・・・どうして名前を呼んでくれないのですか?もしかして、白澤様も・・・丁のこと・・・穢れてると・・・」

また泣き出しそうな幼子の身体を引き寄せ、そのまま抱き込む。

「はく・・・?!」

「違う・・・そうじゃないよ。」

細い身体を壊さないように、けれど力強く抱き締める。

「お前に名前として与えられた【丁】という言葉の意味を知ってるから。・・・【丁】はお前を侮辱する言葉だ。
だから、呼べなかった。・・・呼べるわけないだろう・・・?」

「白澤様・・・」

血を流す小さな手を優しく握り込む。

「孤児だから血が穢れているって?お前を貶めた人間たちの血の方がよっぽど腐り切ってると思うけどね。」

血が滲む左手を口元へ持っていく。

そのまま細い指先にそっと吸い付き、血を舐め取っていく。

「い、いけません・・・あの・・・ッ」

僕の行動に酷く戸惑っているようだ。

そんな丁をもう一度抱き締め、その背中を安心させるようにさすってやる。

「お前は穢れてなんていない。村に居た時のことは、もう忘れなさい。・・・その記憶は、お前を苦しめるだけだ。」

「白澤さま・・・」

「さあ、もう泣くのはお止め。お前は誰よりも素直で賢い子だ。それは僕がよく知ってる。」

血が止まった華奢な指に口付を落とす。

そのまま慈しむように、優しく握り込んでやる。

「だからもう二度と、自分が穢れてるなんて言ってはいけないよ・・・分かったね?」

「はい、白澤様・・・約束します。」

ひとつ頷いた後、躊躇いがちではあったが僕の手を握り返してくれた。

「いい子だ・・・さあ、家へ帰ろう。しっかり手当てしなきゃね。それと・・・」

目の前の澄んだ黒の瞳を見つめる。

「一緒に考えよう・・・君の新しい名前。」

「・・・え・・・」

その綺麗な瞳が揺らいだ。

幼くして両親を失った孤児というだけで、周りから穢れ者扱いされ、虐げられる。

そんな忌々しい過去は捨て去ってしまえばいい。

【丁】という存在を、この子の中から断ち切ってしまえばいい。

「私の・・・名前・・・?」

「そう。もう二度と、お前が過去に悲しむこと無く堂々と生きられるように・・・」

吉兆の象徴である僕が、お前に他の何者にも劣らない尊い名を授けよう。

「白澤様って・・・なんだか神様みたいです・・・優しくて、あたたかくて・・・」

目の前の幼子の言葉に、自然と頬が緩んでゆく。

「ふふっ、そうかい?それは嬉しいなぁ。」

こんな愛らしいことを言うなんて、自分の正体を明かさなかったことに少しだけ感謝する。

でも、いつかは話さなければならない時が来るだろうと頭の隅で考えながら、手を繋ぎなおして再び歩き出す。

小さな歩幅に合わせてゆっくり歩き、家路についた。











久し振りの白+丁でした〜
シリアス→甘々を目指しました♪
しかし、本命なのにここまでサボるとか(笑)
白澤さんは安定のナンパ爺ぶりでした。
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