【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□皮肉な出会い
2ページ/3ページ

毎日通うと両親の前で誓ったが、体調を崩したり地獄の官吏になる為の試験に追われたりと、なかなか自由になれる時間が確保できなかった。

冬の寒さが和らいだ頃、ようやく天界のあの場所を訪れることが出来た。

春が近づきつつあるこの時期は、鮮やかな緑の葉に混じって、桃の花の蕾が膨らみ始めている。

いつもの場所に、見覚えのある人影が見えた。

「・・・ぁ」

「やっぱりまた会えたね。」

少し前に会ったあの人が居た。

「だいぶ暖かくなってきたね。桃の花がもうすぐ咲きそうだ。」

淡い桃色の蕾を指先で擽るように撫でている。

「・・・毎日こちらに?」

「そうだね、ここが気に入っちゃってね。」

「私も、この場所が好きです。暖かくて、桃の甘い香りがして。両親も喜んでると思います・・・」

墓前で膝を折って、手を合わせる。

「君の両親は鬼にならなかったのかな?」

「分かりません。目覚めてすぐに探したけれど、見つかりませんでした。・・・私のように実体を持てなかったのかもしれません。」

「そっか・・・」

「でも、この世界のどこかで見ていてくれているような・・・そんな気がするのです。」

二人の墓標を眺めていると、ふいに頭を撫でられた。

「・・・人間の命は脆くて、すぐに壊れてしまうんだ。脆くて儚い生き物、それが人間。」

表情は穏やかだが、目が遠くを見ているような気がする。

「でも、どんなに死にたくないって願っても、いつかは死を受け入れなきゃいけない。生を受ける者が居れば、死を受ける者も居る。
世界はそうやって動いているんだ。死なないなんて、有り得ないんだ。」

淡々と紡がれる言葉。

口を挟む隙など、どこにも無かった。

「・・・・・・。」

「僕は、今まで嫌というほど人間の死を見てきた。満たされた死も、痛く悲しい死も・・・
これからも、数えきれないほどの死を見ることになる。これは、僕の生まれた瞬間に科せられた運命なんだ。」

彼の言葉にほんの少し違和感を覚えた。

死を見る・・・?

生まれた瞬間に科せられた運命って・・・?

まるで、自分が人間ではないかのような言い方。

彼も嘗ては人間だったろうに。

「・・・あの、貴方は・・・」

綺麗な黒い瞳と視線が絡まる。

「・・・教えちゃうと君に嫌われるかもしれない。」

「・・・?」

彼の言葉が理解出来なくて、首を傾げることしか出来ない。

そんな私に、彼は困ったように笑う。

「僕は、宮殿の遣いなんかじゃない。」

「え、」

「・・・僕はね、君が毛嫌いしてる神様なんだ。」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ