【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□ちいさないけにえ
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僕は丁を抱いて天界へ向かっていた。

真っ直ぐに天帝が待つ宮殿へと向かう。

目的は、ただ一つ。

この子は生きることの喜びを知らないまま死んでしまった。

転生させてあげて幸せな生を謳歌して欲しい。

独りよがりかもしれないけれど。

玉座の間の扉を開け放つ。

「白澤か、来るのは分かっておったぞ。」

「天帝、突然の謁見をお許しください。実は・・・」

天帝は、口早になる僕を手で制す。

「分かっておる。その腕の幼子のことであろう?」

「仰る通りです。全てをご覧になられていたのですね?」

「ああ、しかし・・・人間がここまで低能な生に堕ちていたとはな・・・」

やりきれない様子で溜め息を吐く天帝。

「ええ・・・一部の者ではありますが・・・」

「して、そなたはこの私に何を望むのだ?」

鋭い眼孔が向けられる。

「無礼を承知で申し上げます・・・この子を、丁を今一度、人の子に蘇らせては頂けないでしょうか?」

丁を抱く両腕が震えている。

「白澤よ・・・神であるそなたも知っておろう?一度、人間としての生を全うした者は再度人の姿をとることは叶わないのだ。」

「全うなど・・・この子は己の意思に反して、無残に殺されたのですよ?!」

天帝の御前であるにも関わらず、声を荒げる。

「それでもだ・・・賢いそなたになら分かるであろう?」

「そんな・・・・っ」

膝から一気に力が抜け、床に崩れ落ちる。

この子は、死して尚も孤独に抗わなければいけないのか。

こんなに小さな子が・・・

「だが、鬼の姿でならば今一度蘇ることが出来るかもしれん。その子の周りを飛んでいる魂火が見えるか?」

「魂火・・・?」

確かに、丁の身体の周りを淡い光が飛び回っている。

「その子からは人間に対する憎悪の気が滲み出ておる。それを魂火に喰らわせれば、鬼となることが出来るだろう。」

「・・・本当ですか?」

そんなことが、可能なのだろうか?

だとしたら願ってもいないことだ。

「ただし、私と一つだけ約束しろ。この子が鬼となって再び生を受けた暁には、お前が片時も離れず永久に寄り添い歩くのだ。よいな?」

元より、そのつもりだった。

この子に生きることの楽しさを教えてあげたい。

ずっとずっと、側で見守りながら。

「天帝のお心通りに。」























「鬼灯、おいで。」

良く晴れた宮殿の中庭で遊ぶ幼子を手招きする。

振り返った幼子は、素直に僕のもとに走り寄ってくる。

「はい、白澤様。」

「お腹空いただろう?そろそろ部屋へ戻ろうか。」

腰を屈めて、艶やかな黒髪を撫でてやる。

目の前の子は、額の真ん中に小さな角を生やし、先が尖った耳を持っている。

そう、この子は500年前に天帝の手によって鬼となった丁だ。

生前の記憶を持っていた鬼灯は、僕を慕い後を着いて回った。

そんな鬼灯に堪らない愛しさを感じ、今ではこの溺愛ぶりだ。

この『鬼灯』という名だが、人間の頃に与えられていた『丁』に今回大役を果たした魂火もとい『鬼火』を掛け合わせたものだ。

「白澤様」

僕の名を呼ぶ鬼灯の声。

あの消え入りそうな声ではなく、可愛らしい鈴の様な声。

そんな鬼灯の頭をもう一度、優しく梳いた。

愛おしい子、心配ないよ。

僕がずっと一緒に居てあげる。

ずっと、ずっと・・・

















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