【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□空を割いた悲鳴。
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良く晴れた朝、丁の元気な声が部屋に響く。

「はくたくさま、朝です!起きる時間ですよ!」

愛らしい高めの声が、僕を眠りから揺り起こしてくれる。

ゆっくり目を開けると、そこには満面の笑みの丁の顔。

「おはようございます、今日もとても良い天気ですよ!」

丁が窓辺まで走り障子を開けると、朝日が差し込み部屋を明るく照らす。

「ん、おはよう。丁は朝から元気だね。」

まだ少しだけ眠い目を擦りながら、布団を抜け出す。

「朝日が眩しくて起きてしまいました。」

「本当に良い天気だね。今日も暑くなりそうだ。」

着流しから普段着の漢服に着替え、布団を押入れに上げる。

「さて、朝餉の支度をしようかな。お腹空いただろう?」

「はい!」

台所へ向かう僕の後を小さな歩幅で着いてくる。

「何か食べたいものある?」

「えっ・・・とぉ・・・あ、冷奴が食べたいです。」

「あ、いいね。丁度美味しい豆腐を分けてもらったんだ。」

そんなことを話しながら手早く朝餉を作った。

朝餉の後は、洗濯物を干し、部屋の掃除をする。

こんなにも天気がいいと、多少面倒な掃除もはかどってしまうから不思議だ。

休憩がてら、お茶を片手に書を読んでいると、花の水遣りを終えた丁が戻ってきた。

「はくたくさま、はくたくさま!」

何やら上機嫌だ。

「どうかしたかい?」

「あの、この後街に買い物に行きたいのです。」

「いいよ、少ししたら出掛けようか。」

「いえ、あの・・・丁一人で行ってみたいのです。」

「一人でかい?」

いくら日中とはいえ、少し心配だ。

しかし、何にしても好奇心を持つことは良いことだ。

あまり深く考えずに、丁を一人で行かせることにした。

「じゃあ、今日は一人で行ってみようか。」

「はい!」

「ただし、僕と2つ約束して。」

書を閉じて、丁の目線に合わせて腰を屈める。

「はい、何でも守ります。」

「1つ目は、行っていいのは問屋通りだけ。細い路地には絶対に入ってはいけないよ。2つ目は知らない人に声を掛けられても相手にしてはいけないよ。守れるかい?」

「もちろん、約束します!」

元気な声で返事をする丁の頭を撫でてやる。

「さあ、日が高くなって暑くなる前に行っておいで。くれぐれも気を付けてね。」

丁に茶筒と小遣いを入れた巾着を渡す。

「はい、では行ってきます!」

上機嫌な丁は小さなうさぎのように駆け出して行った。

「いってらっしゃい。」

手を振って送り出す。

「大丈夫かな・・・」

正直、もの凄く不安だ。

丁は何処へ行くにもいつも僕と一緒だ。

そんな丁が一人きりで街へ・・・

「・・・・・・」

丁が駆けて行った方をじっと眺め、暫し考える。

そして、外履きに足を通すのだった。















結局、丁が心配で街まで来てしまった。

丁に気付かれないよう、一定の距離を保って丁の後を着いて行く。

僕の言いつけ通り、広く人通りの多い問屋街の道を進んでいく。

「それにしても、何が欲しいんだろう・・・?」

丁が街に出たいと言うからには、何か目的があるのだろう。

特別何かを欲しがっているようには見えなかったが。

まあ、玩具か菓子だろう。

そんなことを考えながら歩いていると、先に歩いていた丁が突然足を止めた。

慌てて、物陰に身を潜める。

丁が眺めるその先には、美しく咲き誇った色とりどりの花。

そこは、最近店を出したという花屋だった。

笑顔で手招きする店主の元へ歩み寄り、何やら話をしている。

「あの、お花を頂きたいのですが・・・」

「おや、坊や。一人かい?」

「はい、家から一人で来ました。」

「そうかいそうかい、こんなところまで偉いねぇ。」

店主の老婆は満面の笑みで丁を見ている。

「さてさて、どのお花にしようかねぇ?」

「あ・・・白くて小さいお花が欲しいです。」

「白くて小さいねぇ・・・それじゃあ、これはどうかね?」

老婆は小さな花束を丁に差し出した。

小さくて可憐な鈴蘭が風に靡いて揺れていた。

「わ・・・綺麗・・・おばあさん、これが良いです。」

「はいはい、ありがとさんね。」

丁は巾着の口を開いて、お代を出そうとしていた。

老婆はそんな丁を優しく制す。

「坊や、お代は要らないよ。持ってお行き。」

「いえ・・・いけません・・・」

「構わないよ。一人でここまで来てくれたご褒美だよ、ほら。」

再度、花束が丁の前に差し出される。

丁は少し躊躇った後、その花束を受け取った。

「あの・・・ありがとうございます。」

「ああ、またおいで。」

「はい!さようなら。」

手を振る老婆に会釈して、花屋を後にした丁。

丁を追おうとしたとき、背後から声を掛けられた。

「あら、白澤様?」

声の主は、いつもこの街に来たときに世話になる呉服屋の女将さんだ。

「あれ、今日はお店休みなの?」

「今日はかあさまが店番をして下さっているのよ。」

「ああ、そうだったの。」

丁の行方を見失わないか心配で、生半可な返事になってしまう。

「そういえば、丁ちゃんは一緒ではないのですか?」

「うん、丁が一人で街に行きたいと言ったから送り出したんだけど、やっぱり心配でね。後をこっそり付けていたんだ。」

ここまで言うと、女将さんは慌てだした。

後ろを振り向くと案の定、丁の姿は無かった。

「まあ!私、いけないことをしてしまいましたわ・・・ごめんなさいね。」

「気にしないで良いよ。まだそう遠くには行っていない筈だから。」

「本当にごめんなさい・・・さあ、もうお行きになって。あぁ、丁ちゃん無事かしら・・・」

「大丈夫だよ。それじゃあ、また今度ゆっくり寄らせてもらうよ。」

女将さんに簡単に挨拶をし、丁が歩いて行った方に駆け出す。

店の出入り口を中心に丁の姿を探したが、どこにも見当たらない。

丁を見失ったところからだいぶ離れたところまで来ている。

あの小さな歩幅ではそんなに長い距離は歩けない筈だ。

店の中に入っている可能性もある。

もう一度戻ってみよう。

元来た道を戻ろうと踵を返そうとしたとき・・・

「ぃ・・・です・・・っ」

消え入りそうな子どもの声が聞こえた。

子どもの・・・声?

空耳なんかじゃない。

この獣本来の耳が確かに小さな小さな声を捉えた。

「・・・・・・」

もの凄く、嫌な予感がする。

僕は弾かれた様に、声のした方へ走り出した。

声の主を探して町中を奔走していたその時、

「ぃや・・・嫌だぁぁぁぁっ!!」

空を割いた甲高い悲鳴。

「・・・!丁!!」

悲鳴がした方へ走る。

あの悲鳴が丁のものかなど分からないのに。

でも、この胸騒ぎは・・・
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