【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)
□地獄へ戻る鬼
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あの日から僅か50年後、そのときはやって来た。
閻魔大王が従者を連れて、僕の家を訪ねて来た。
正午丁度に扉が控えめに叩かれる。
「閻魔殿、遠路遥々よくお越しくださった。」
「白澤神、御機嫌麗しゅう。突然の訪問をお許しください。」
閻魔大王が僕の前に跪いて挨拶をする。
「構いません、どうぞお立ち下さい。」
僕の言葉に立ち上がった閻魔大王は、僕のすぐ後ろに居た鬼灯を見つけた。
「君、鬼灯君だね?」
「・・・はい。お久しぶりです、閻魔様。」
名を呼ばれた鬼灯は僕の少し前に出て、閻魔大王へ挨拶をする。
「天帝から君のことは聞いているよ。地獄の官吏になるために白澤神から知識を授けてもらっていると。」
「はい、その通りです。貴方様は私に新たな名を下さいました。その恩返しがしたいと思い、今まで白澤様の下で学んでおりました。」
「そうか、君のような子が官吏になってくれたら安心だ。急で悪いけど、もう出発できるかな?」
閻魔大王への返答に困ったのか、少し不安げな瞳を向けてくる鬼灯に僕は笑って頷く。
「閻魔殿、鬼灯には地獄のほぼ全ての知識が備わっています。すぐにでもお役に立てるでしょう。」
少し強めに鬼灯の肩を叩いてやる。
自身を持たせるために。
「白澤神、この度はどうお礼を申し上げて良いか分かりません。誠に感謝しております。」
「どうか、そのように畏まらないでください。これから先、天国と地獄は兄弟ような関係になるでしょう。」
頭を下げたまま動かない閻魔大王に言う。
「白澤神・・・」
「困ったときはいつでも仰ってください。出来る限り、力をお貸しします。」
「ありがとうございます。では、そろそろ失礼させていただきます。鬼灯君、行こうか。」
「はい、閻魔様。あ、あの・・・白澤様・・・」
「ん?」
「私、きっと立派な地獄の官吏になって見せます。ですから、その時は・・・たくさん褒めてください・・・」
恥ずかしそうに言う鬼灯。
「うん、いっぱいいっぱい褒めてあげる。だから、頑張って。」
「はい。」
僕を見つめるその瞳には自信と希望で満ちていた。
最初に出会った頃の絶望の色はもう無い。
これなら安心して送り出せる。
一回り大きくなった身体を抱き締める。
遠慮がちに回された両腕が愛おしい。
そして、ゆっくり離れていく温もり。
「・・・いってきます、白澤様・・・」
「いってらっしゃい。会いに行くからね・・・」
頬にキスをして送り出す。
「閻魔殿、鬼灯をよろしくお願いします。」
「もちろんです。どうか、天帝にも私からの感謝の意をお伝えください。」
「ええ、分かりました。」
「それでは、失礼いたします。鬼灯君、行こうか。」
「はい。」
閻魔大王に続いて踵を返す鬼灯。
手を振って見送る。
見えなくなるまでずっと、ずっと・・・
「行っちゃった・・・」
僕の声が昼下がりの空に虚しく響く。
子を送り出す親はこんな気持ちなのかな?
僕の可愛い鬼灯・・・次に会うとき、お前はどんな風に成長しているのかな?
鬼灯の邪魔にはなりたくないから、あの子から何かしらの連絡があるまでは会いに行かない。
待つのには慣れているから大丈夫。
またいつか会えるのだから、悲しむ必要は無い。
再開したら、またあの子の頬にキスをしてあげよう。
鬼灯の柔らかい頬の感触が残る唇に触れる。
「さて、天帝に報告に行こうかな。」
伸びをして、静かになった部屋に戻るのだった。
それから800年後、閻魔大王による人手の確保や法改訂のお陰で、地獄が見違えるほど変わった。
しかし、鬼灯については何も聞かない。
まあ、焦っても仕方ないので、ゆっくり気長に待とう。
僕があの子と再会できるまであと少し。
続
毎度、だらだらとすみません。
もう少し続きます。