【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□神を惹きつける鬼
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鬼灯が天界に来てからもう5年が経とうとしていた。

今日も、まだ空が白み始めたばかりの頃に起き出して、居間で黙々と勉強に励んでいた。

ここに来た当初は、見るもの聞くもの全てが初めてで、かなり苦戦していた。

天国には既に裁判制度がきちんと整っているので、その仕組みと規約、働く者の業務内容を教えた。

それから、地獄の各部署について。

罪状が一口に殺生と言っても、その詳細によって下される判決及び行き先が全く異なる。

これは窃盗等にも言えることで、罪状ごとに細かく分けていくと膨大な数になる。

閻魔大王が、どのように地獄を統べようとしているのか定かではないが、
彼の下に付くのならば地獄に関する知識は多い方が良い。

そうとは言え、こんな尋常でない量の知識を幼子に叩き込むのは少々気が引けた。

いや、自分から言い出したことなのだが。

しかし、そんな心配は無用なようだ。

鬼灯は決して弱音を吐かずに毎日毎日、黙々と机に向かった。

それが功を成し、先に教えた裁判制度と部署についてはほぼ理解出来ている。

「鬼灯、よく頑張ったね。本当にお前には感心させられるよ。」

「いえ、そんな・・・」

頭を撫でてやると、恥ずかしそうに微笑んだ。

この5年の間で、鬼灯は様々な表情を見せてくれるようになった。

心を許してくれたような気がして嬉しかった。

僕が、鬼灯を天界に連れてきた理由は勉強の為だけではない。

この子をあのまま一人きりで居させたくなかったから。

あのまま放っておいたら、孤独に支配されて壊れてしまうだろう。

今のこの子には、誰かが見守ってあげる必要がある。

寄り添って、この子の受けた心の傷を少しでも癒してあげないと。

初めて鬼灯と出会ったとき、今まで感じたことのない何かが僕の胸を満たした。

きっと、これは偶然なんかじゃない。

神である僕が言うのもおかしいけど、運命みたいな・・・

だから、僕がこの子を守るんだ。

気紛れだって?

そうだよ、神は気紛れで我侭。

特に僕なんかは一度湧いた欲は満たされるまで治まらない。

この子は僕のもの。

「・・・様?」

誰にも渡すものか。

「白澤様!」

「え・・・?あ、ごめんごめん。どうしたの?」

鬼灯が僕の袖を引っ張っていた。

「あの、お腹が空きました・・・」

遠慮がちに言う鬼灯。

「あ、そうだよね。じゃあ朝餉にしようか。」

外を見やるとすっかり日が昇っていた。

鬼灯が勉強を始めて一刻は経ってしまっているだろう。

「さ、行こう。」

「はい。」

小さな手を引いて台所へ向かった。













「おいしい?」

おかずを黙々と頬張る鬼灯を見て目を細める。

「はい、とても。白澤様は料理がお上手ですね。」

そう言って、出汁巻き卵に箸を伸ばす。

「ありがとう。もう何万年も一人で暮らしてるからね。嫌でも覚えちゃうんだ。」

僕も湯気の立つ味噌椀に口をつける。

「え・・・?」

鬼灯の箸がぴたりと止まった。

「ん?どうかした?」

「ずっと、お一人なのですか?」

すごく複雑そうな表情で僕を見る鬼灯。

「見ての通りずーっと一人だよ。」

「寂しくはないのですか?」

「え?そうだなぁ、もう慣れちゃったから・・・」

鬼灯の瞳が驚きに見開かれる。

「慣れ・・・?」

あ、そうか・・・

僕はそうでもこの子は違う。

全てのものから見放された絶望故の「一人だ」

この子と僕の「一人」は意味も重さも全然違う。

この子が「一人」に慣れることはまず無いだろう。

「あ、ごめんね・・・」

「いえ、いいのです・・・」

何だか気まずくなってしまった。

お茶を啜る音だけが響く。

「僕はさ、お前が抱えてる寂しさを埋めてあげたい。」

「え・・・?」

「僕がお前と一緒に居るのは、勉強の為だけじゃない。お前の心に広がってる過去から解放してあげたいんだ。」

「僕がずっと一緒に居て守ってあげるから。お前にはいつまででも笑っていて欲しいんだ。」

僕が先まで思っていたことをそのまま鬼灯にぶつける。

唖然としていた鬼灯だが、その大きな瞳に涙が溜まっていく。

「今まで、そんなこと言ってくれる人なんて居なかった・・・どうして・・・」

「分からない。でも、お前が愛おしくて堪らない。」

哀れで可哀相だから・・・そんな理由じゃない。

本能的に惹かれてしまった。

こう言うしかない。

そもそも、人を好きになるのに理由なんて必要無い。

「嬉しい・・・こんな気持ち、初めてで・・・」

恥ずかしそうに下を向く鬼灯。

本当に反応に戸惑っているようだ。

ああ、可愛い。

手を伸ばして柔らかい頬に触れる。

「鬼灯・・・ずっと、僕の側に居て?」

擽ったそうに目を細めた後、可愛らしく微笑んだ。

トントン・・・

「ん?」

玄関の扉が控えめに叩かれる。

来客なんて珍しい。

様子を見に玄関へ急いだ。

鬼灯も僕の後を着いてきた。

扉を開けた先には、天帝直属の官吏が立っていた。

「白澤様、突然申し訳ありません。」

「気にしないでいいよ。何の用かな?」

「はい、天帝直々の召集のご命令です。明日、宮殿に上がるようにとのことです。」

天帝が直々に?

「召集内容は?」

「少し前に白澤様が保護されたその幼子にお会いになりたいそうですよ。」

官吏は僕の隣に居る鬼灯と目を合わせ、軽く微笑む。

「ああ、そう言えば文を頂いていたよ。分かった、明朝に伺うとお伝えしておいて。」

「畏まりました。では、失礼いたします。」

「うん、ご苦労様。」

短い挨拶を終え、官吏は足早に帰って行った。

「・・・白澤様、天帝とはどなたですか?」

「この天界の全てのものを統べるお方だよ。」

天帝には文で鬼灯の存在を知らせてあるが、実際にお会いになったことは無い。

「閻魔様が目指されている役所のお方・・・ですか?」

「そうだよ、その天帝がお前にお会いになりたいそうだよ。」

「え・・・私に?」

鬼灯は戸惑っているようだった。

「荒れ放題の地獄を変えたいと思っている者はそうそう居ないからね。きっと興味がおありなんだよ。」

「そう、ですか・・・」

「ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。天帝はお優しくて賢いお方だ、お前にたくさんの知識を与えて下さるだろう。」

安心させるように小さい頭を撫でてやる。

「はい・・・」

「さぁ、こうしちゃいられないね。新しい着物を見繕いに街へ行こう。」

朝食の後片付けを済ませ、鬼灯の手を引いて街へ出掛けた。
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