【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□地獄の小さな鬼
3ページ/3ページ

木々の隙間から差し込む朝日の眩しさで目が覚めた。

「うーん・・・」

鬼灯はまだ眠っている。

僕の毛皮をしっかり掴んで離さない。

子どもらしい仕草に目を細める。

しかし、今日も仕事がある為支度をしなければならない。

鬼灯を起こさないように、ゆっくりと獣から人へと姿を変える。

鬼灯の身体を抱き上げて軽く揺する。

「鬼灯、朝だよ。」

「ん・・・」

ゆっくり開かれる黒い瞳と目が合った。

「おはよう、鬼灯。昨日はよく眠れた?」

「あ・・・」

不思議そうな顔でこちらをまじまじと見ている。

ああ、姿が違うからか。

「神獣さま・・・?」

「そうだよ、驚かせちゃったね。ごめんね。」

「いえ・・・普段は人の姿をしているのですか?」

しきりに僕の服や髪に触れている。

「うん、基本的にはね。昨日は力を使いすぎて疲れちゃったんだ。」

「何をしていたのですか?」

「行くべき所が分からない亡者たちを導いていたんだよ。このままじゃ地獄が混乱しちゃうからね。」

「・・・やはり、閻魔様が仰っていたことは本当なのですね・・・」

「ん?」

鬼灯は考え込む仕草をしている。

「閻魔大王がどうしたの?」

「先日、閻魔様のもとを訪れたときに、ご自身が地獄を統一させようか・・・と仰っていまして・・・」

「え、そんなこと言ってたの?」

「ええ。」

これは驚いた。

でも、そうやって地獄を安定させようと思っている者が居るのならば、安心出来そうだ。

「ですから、私も閻魔様の助けになりたいと思っています。」

「お前が?」

「はい、私なりに考えていることもいくつかありますし、それが少しでもここの為になるのなら本望です。」

鬼灯の目に士気が宿り、一切の曇りは無かった。

「そう・・・小さいのに立派だね。」

「そんなことはありません。閻魔様は、見ず知らずの私に名前を与えてくれた親のような存在です。
どんなに小さなことでも、彼の役に立って恩返しがしたいのです。」

「そっか・・・」

優しく鬼灯の頭を撫でる。

どうして、この子が幼くして死ななくてはいけなかったのか・・・

・・・こんな、健気な子が・・・

何とも言えない感情が込み上げてくる。

感情を表に出すのが苦手なようだが、この子が素直で賢い子だということは手に取るように分かる。

僕も、この子の為に何か出来ないかな。

「ねえ、鬼灯。僕もお前の力になるよ。」

「え・・・?」

「何でも言ってよ。出来る範囲のことなら何だってしてあげる。」

「何故、私なんかに・・・」

鬼灯の言葉に目を細める。

「お前の健気さが気に入っちゃった。」

「・・・」

「どうしてそんな難しい顔しないでよ。吉兆の神に好かれるなんてそうそうないよ?」

少しおどけて言ってみる。

「吉兆の、神・・・?」

「そう!お前が頑張れば頑張るほど良いことがあるかもね。」

僕の言葉に鬼灯がぴくりと反応する。

「あの・・・その、ありがとうございます・・・では・・・」

「うん、何でも言って?」

鬼灯の言葉を待つ。

「私に地獄のことを隅から隅まで教えてください。神様は何でも知っているのでしょう?」

鬼灯が真っ直ぐ僕を見つめる。

「いいよ、お前に地獄の全てを教えてあげるよ。」

「ありがとうございます。」

丁寧にお辞儀するに笑みが零れる。

「鬼灯、こういうときはもっと嬉しそうな顔をするものだよ。」

柔らかい頬を軽く摘んでやる。

「あ・・・」

何故か俯いてしまった鬼灯。

「どうしたの?」

「いえ、あの・・・上手く笑えないのです・・・だって・・・」

はっとして、鬼灯を見る。

そうだ・・・笑えるわけ、ないじゃないか。

目を逸らしたくなるような酷い環境の中で生きてきたのだ。

鬼灯の小さな唇の前に人差し指を当てる。

「ごめんね、僕が悪かった。言わなくていいよ。」

「・・・ごめんなさい。」

「謝らないでいいよ。さ、一度天界に行こう。」

軽い体を抱き上げて、ゆっくり宙に浮く。

「わ・・・!」

浮遊感に驚いた鬼灯は僕の服を掴む。

「天界は行ったことがないだろう?気持ちのいい場所だよ。そこで勉強しよう。」

この子が望むことは全てしてあげよう。

この子が閻魔大王と共に地獄を統括してくれるのなら、こちらとしても有り難い。

しかし、このとき僕はそれ以外の感情をこの哀れで小さな鬼に対して抱き始めていた。

それに気付くのはもう少し先のこと。










前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ